悪魔と朝食
「……本当に?」
本当に代償無し(タダ)で、願いを叶えてくれたというの……?
「ええ、もちろん」
アザグリールはあっさり頷いた。
「そんなことより」
そんなこと!?
私の中の高位悪魔のイメージは――伝承によるものだけれど、できるだけ小さな願いで、最大の利益である魂を刈り取ろうとするというものだ。
それなのに、こんな簡単に願いを叶えてしまうなんて。
絶対に裏があるわね。
ないほうがおかしい。
私のことが好きとかいう言葉の疑念が昨日よりも増してきた。
「ナツネ?」
「え……ああ、そんなことより、どうしたの?」
この魔法をその程度というからには、もっとすごいこと……おそらくアザグリールの本心にかかわる事のはず。
姿勢を正してアザグリールを見る。
「そんなに真剣に見つめられると……照れますね」
頬を染めて恥ずかしそうに、視線を伏せたアザグリール。
やはり、その顔はぞっとするほど美しい。
うん、こんな美形な悪魔が私に一目惚れなんてするはずないわ。
「……それで、どうしたの?」
「……ナツネは、朝は紅茶とコーヒーどちらが好みですか?」
ん?
「ごめんなさい、よく聞こえなかったわ」
「ナツネは、朝は紅茶と――」
「聞こえてたみたい」
朝に、紅茶かコーヒーどちら派か、ですって!?
そんなどうでもいいことが本題なの!?
いえいえ、よく考えなさい。
これは、私の好みを把握して何か恐ろしいことを企む布石かもしれないわ。
「……強いて言うなら紅茶よ」
嘘をつくことも考えたけれど、この程度の好みなら嘘をつかないほうが、私の把握がしやすい。
つまり、ここぞというときに、アザグリールが出してきた紅茶に口をつけなければ――。
「そうなのですね。では、食後の飲み物は紅茶にしましょう」
「……食後?」
「はい。朝食を作ってみました。ナツネの口にあえばよいのですが……」
悪魔が、朝食を。
「……あ、あぁ。魔法で作ったのね」
「いえ、材料は適当に魔法で生成しましたが、調理は俺の手でしました」
?????? 俺の手で?
「悪魔には、食事なんて必要ないでしょう?」
「そうですが、人間であるナツネには必要でしょう」
この寮には、キッチンもある。
なぜなら、悪魔召喚師見習いの階級最底辺にいる私には、この学園の食堂を使うことが許可されていないからだ。
だから、自分で食事を作る必要がある、というのは、おいておくとして。
「そうだけど、別にあなたが作る必要は……」
すん、と空気を嗅ぐと、たしかにいい香りがした。
ぐーぎゅっるぎゅるるー。
それと同時に、私の腹の虫がなく。
「……ふふ。すぐに用意させていただきますね」
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