悪魔の告白
言ってしまった。
無理やり言わせるために、悪魔が何をするのか。
そう考えた瞬間、名前が口をついた。
「……ナツネ」
アザグリールはうっとりと私の名前を紡いだ。
魂を刈り取れることに、感動しているのかしら。
人の魂を刈り取る瞬間は、何よりも甘美らしいから。
「ナツネ」
赤い頬でアザグリールは、再度私の名前を呼んだ。
「悪魔を召喚したのは、何度目ですか?」
咄嗟に嘘を吐こうかと迷う。
今までどの悪魔も召喚できなかった私に喚ばれたなんて、屈辱以外の何者でもないだろう。
……でも。
「初めて、よ」
嘘を吐く方が危険だと黄金色の瞳が言っている気がした。
「……ふふ。初めての悪魔が俺で良かったですね」
「どういう意味?」
アザグリールは微笑む。
ぞっとするほど美しい顔で。
「初めてが俺じゃなかったら、あなたもその悪魔も殺すところでした」
「……っ!?」
ころ……、殺すって言った?
いえ、でもその言い方だとまるで……。
「私を、殺さないの……?」
「しませんよ、そんなもったいないこと」
アザグリールは首を振ると跪き、私の手に口づけた。
ぞわり、と肌が泡立つ。
「な、にを――」
「今日から、あなたが俺の主人だ」
「…………は?」
主人?
いったい何を言っているのかしら、この悪魔。
「ふふ、驚いていますね」
「当然でしょう。そもそも悪魔は、私たちよりも高位な存在なのにそんな言い方ではまるで……」
下手にでているように、聞こえる。
「下手にくらいでますよ。だって、好きになってほしいですし」
「……は?」
いけない。
悪魔相手に二度も、呆れた声を出してしまった。
でも、仕方がない部分もあると思う。
だって、相手は、始まりの悪魔、アザグリールよ。
「おかしなことですか?」
「……かなり変だと思うわ」
アザグリールは、立ち上がると、私の唇に人差し指で触れた。
「また、唇を噛んでいますね。跡になりますよ」
「だれの、せいだと……」
「俺のせいですか、それは嬉しい」
アザグリールはうっとりと微笑みながら、私の目を覗き込んだ。
「俺――原初の悪魔、アザグリールは、あなたに恋をしました」
「え?」
恋? アザグリールが、私に?
「いわゆる一目惚れ……というやつでしょうか」
「……はぁ?」
「ふふ、その目、信じていませんね。そんな瞳も魅力的ですが」
寒気がした。
そんな甘い舞台俳優のような言葉を、私は今まで言われたことがない。
「まぁ、いいです。俺の想いは、時間をかけて納得してもらいますから。あなたの一生をかけて、ね」