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最後の召喚

 ……え?

 思わず彼女を凝視する。

「本気ですか? いえ、冗談でも悪魔は私たちよりも高位の存在です。それをそんなものみたいに言うなんーー」

 言葉は、最後まで言えなかった。


 乾いた音が響き、右頬が熱を持った。

「ーーちょっと優しい言葉をかけてあげただけなのに、すぐ、つけ上がって! だから、魔力や知識があってもあなたの喚びかけに悪魔が応えないのよ!!」


 呆然と右頬を押さえた私を一瞥して、彼女は走り去っていった。

 その後に彼女が召喚した悪魔たちも続く。


「……」


 ーーだから、魔力や知識があってもあなたの喚びかけに悪魔が応えないのよ!!


 彼女に言われた言葉がぐるぐると頭の中を回る。


 悪魔が召喚に応じてくれないのは、私の性格のせいなのかしら……。



 ……そうじゃない、と思いたいけれど。


 でも。



 ーーだったら、なぜ?

 なぜ、誰も喚びかけに応えてくれないの。


 理由はわからないけれど、召喚できていないことは事実だ。


 私は孤児で、この学園を追い出されたら行くあてもない。

 だからこそなんとしてでも、悪魔を召喚しなければならない。


「そのためには……」


 魔力と知識しか取り柄がないとはよく言われているけれど。もう一度、召喚陣の勉強をしよう。


◇◇◇



 アザグリール学園の召喚部屋の窓から月が見える。

 今日は、特別な月夜。

 月に一度の赤い月の日だ。


 悪魔を喚びだせるのは、赤月の日だけ。


 私たち人間の魔力の回路と、魔界の悪魔の回路が繋がるのが、この日だからだ。


 私の最後になるかもしれない悪魔召喚。


 一度も来てくれたことがないけれど。


 今日こそ、喚びかけに応えてくれるかしら。


 周囲には、学園長を始めとした学園の教師陣が立っている。

 普段は、悪魔召喚師が悪魔を喚びだす際は、召喚師本人だけなのだけれど、今日に限って教師陣がいるのは、見届けるためらしい。


 私の退学が決まる瞬間を。


 退学が決まれば即、この学園から追い出せるようにだと、親切な女子学生が教えてくれた。


「……」


 はぁ、と大きく息を吐き出す。

 一度も成功したことがないのに、今日に限って成功するはずがないのは、自分が一番わかっているわ。



 でも、こうもあからさまに否定されると腹が立つ。


 床に敷いた布に杖で召喚陣を描いていく。

 今日はいつもと違う召喚陣にしてみよう。



 先日、図書室の古ぼけた本でみた召喚陣だ。

 いつもの召喚陣のほうが描き慣れているのはそうだけれど、どうせ今までダメだったのだ。


 それならいっそのこと、初めての召喚陣のほうがまだましだろう。

 ……なんて、やけくそになっているのは否定できないけれど。


 記憶を頼りに九重に文字が連なる魔法陣を描いていると、教師の話し声が聞こえた。

「あの召喚陣は……」

「何も見ずに描いているのはさすが特待生だが……」

「ただの欠陥陣を描いたところで、意味もない」


 欠陥陣?


 その言葉で最後の集中力が途切れた。


 最後の文字を書き間違えたのだ。


「ーーあ」



 一人の悪魔召喚師が、赤月の日に描ける召喚陣は、一つだけ。



 そして、召喚陣は一発書きだ。


 間違えても後戻りはできない。



 欠陥陣のことはわからないけれど、少なくとも描き間違えた召喚陣に悪魔が応えてくれるはずがない。


 ぽたり、と雫が召喚陣に落ちる。


 汗か涙かはわからなかった。


「……ナツ」



 学園長が、静かな声で私を呼んだ。

 私の退学を告げるためだろう。



 のろのろと頭をあげて、召喚陣から目を離そうとした、そのとき。




 尋常じゃない光が、部屋を、満たした。



「ほう、俺を喚ぶとは」

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