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京橋百景

作者: 奥川悠介

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 文化地域    │  歓楽街

         J

────────京阪───────────

         R

ビジネス地区 │   飲み屋多い

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         │


京橋はざっくりこんな感じの街です。

かつて、梨田昌孝とリリアンはこう言った。「京橋は、ええとこだっせ」と─


日曜日。快晴。暇。この3つが揃ったとき、僕は京橋に行く。いや、揃わずとも行くときには行く。ただ、この3つが揃ったときに京橋の空気は心地良いものになる。

京橋で電車を降り、まずは「献血口」へと向かう。JRと京阪の乗り換えに使われる改札口だ。

もちろん、献血口という呼び名は正式名称ではない。なんなら正式名称を知らない。だが、クラスの一軍グループが「献血のとこに集合な」と言っているのを聞いたことがあるのでそれで良いのだろう。

ここで、思いっきり京橋の空気を吸う。整然と雑然、静寂と喧噪、そして日常と非日常。全てが混ざり合って少し濁った空気を吸う。この瞬間の心地良さは、何物にも代えがたいものがある。少なくとも、梅田のグランフロント周辺の落ち着きぶりや難波の五月蝿さとは違う。

変態に思われるかもしれない京橋呼吸を終えると、周りを見渡す。京橋を観察する。

俗称の元となっている献血車はほぼ100%いる。大抵、その隣で動物愛護団体が寄付を募っている。そのまた隣に某新興宗教の信者もいる。献血車の近くでよりによってエ◯バが勧誘している様子は、シュールで面白い。

JR側の駅の壁にもたれかかっていたホームレスのおっちゃんは、いつの間にか見る機会が減った。数年前にJR駅の外壁が取り換えられた際に移動したのだろうか。

たまに、謎の人がいることもある。僕は自衛隊の勧誘を受けたことがある。コロナ禍では、「恵んでください」と書かれたボウルを下に置いてス◯イダーマンのコスプレをしていた自称パフォーマーもいた。極めつきは、ホストだ。謎に真っ昼間からたむろしていた。この混沌を味わうために京橋に行っていると言っても過言ではない。


そうして京橋の観察を終えて、僕は京阪沿いに西へと歩く。京橋の中でも治安の良いエリアて向かう途中でもサラ金ビルが目に入るのが、京橋という街だ。

ビルの3階にあるブックオフに着く。110円コーナーを彷徨い歩き、直感で面白そうだと思ったら手に取る。そして買う。その繰り返しの結果、我が家の積ん読はたまっていく一方だ。

ブックオフを出て、アニメイトへと向かう。といっても、信号一つ分の距離しかない。何も考えないうちにアニメイトの入っているビルに到着する。

京橋のアニメイトは狭い。よく言えばコンパクト、悪く言えば狭小な店だ。だが、その代わり周辺の治安は良い。斜め向かいに交番がある所で悪事を働けば即お縄だろう。以前、コラボ企画の関係で一度だけ日本橋のアニメイトに行ったことがある。その時はコンカフェのキャッチに声をかけられた。いわゆる地雷系の女子も立っており、なかなかのカオスだった記憶がある。


話を京橋に戻そう。今でこそ京橋に行くと必ずといって良いほどアニメイトに行くが、最初はかなり緊張していた。ビルの前で深呼吸をし、精神統一をしてからビルへと入った。ただ、未だにBL本は買えていない。腐男子でもこんなヘタレ野郎もいる。

「買うか」

ふと、そう思った。梅雨の晴れ間の季節だった。無性に買いたくなった。自分の殻を破りたかった。

やっぱり、ドヘタレ腐れ野郎(ダブルミーニング)にはキツかった。それを思い知らされたのは、入店してすぐのことだった。

京橋のアニメイトのBL本コーナーは通路を挟む形にあり、そこを女性に取られると野郎には為すすべがない。「どうせこの先会うこともないだろう」と分かっていても、気まずいものは気まずい。

腐男子が集まるLINEのオープンチャットに〈オラに勇気をわけてくれ!!!〉と打ち込み、女性陣がその場を離れるのを待つ。他のグッズを眺めるふりをして彼女たちの様子を窺うこと15分。やっとその場を離れてくれた。

ーこれでやっと買える。さあ、腕に飛び込め、BL本よー

変態チックな想いを胸に秘め、お目当ての漫画を探す。だが、どこにも見当たらない。しばらく店内を探して、その本はBLコーナーではないところにあった。大阪人らしく盛大にコケそうになった。

ともかく、これで念願のBL本を手に入れた。また一つ進化したような気がした。小躍りしながらビルを出て、小走りしながら駅へと向かった。


梨田さんとリリアンの言うとおり、京橋はええとこである。皆様も大阪を訪ねる機会があれば、空気を吸いに行くのはいかがだろうか。

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