もしもし、私……―― 4
メリーさんのお蔭で今まで前面には出ていなかったけど、やっぱり今回の騒動の正体も過去の遺物、昭和の怪談だった。
「怪談通りでいくなら、あたしがあいつの話を誰かにすれば、あたしは助かるってことだよな?」
「確証はないけどね。けど、志津香がそう言う解決法を好むとは思えないけど?」
「わかってんじゃねえか。あたしはあいつをぶっ飛ばした上で解決したい」
「暴力で物事を解決する人を何て言うか知ってる? 野蛮人って言うんだよ」
「うっせえ!」
野蛮人はその手も速い。殴られたの全然見えなかったし。
「けど、あいつはメリー曰く、あたしの大声くらいでビビっちまう小物だ。戦いようはいくらでもあるんじゃねえか?」
「それなんだけどね、声の大きさと言うよりは放つワードみたいなんだよね」
テケテケのことが書かれた画面にしたスマホを、志津香に渡す。
「テケテケに襲われた時の対処法として挙げられているのが『地獄に落ちろ』ってワードなんだ。志津香、あいつから逃げてる時、そんなこと言ってたよね?」
「言われてみれば、そうかも……! けど、それはお前に言ったわけで、テケテケに言ったわけじゃねえぞ?」
「それでもあいつはビビッて逃げた。自分の下半身が見付かるまでは成仏したくない。そんな想いが『地獄に落ちろ』って言うワードを嫌う理由なのかも知れないね」
「……けどさ、作り話だったとしても元を辿れば電車の事故で死んだ奴なんだよな? 地獄に落ちるわけねえし、そんな奴にそんな言葉浴びせんのはどうなんだよ……!?」
「子供の想像は時として残酷だね」
「いちいちカッコつけた纏め出すなっ」
お互いに小さな笑い声を漏らした後、お互い気が付いた。
何か、一人足りないような……。
「あ、あれ……? メリーさん、は……?」
「い、いねえ……。さっき碧斗を殴るのに邪魔だったから膝から降ろしたんだよ……。隣に座らせたはずなのに、もう……」
それが怪異って所以なのかも。現れるのも突然だけど、いなくなるのも突然。志津香の隣には誰かがいた名残はもちろん、痕跡すら残っていなかった。
「……やっぱいなくなるのかな、メリーも」
「志津香にはキツい言葉になるかも知れないけど、メリーさんはもう消えてないといけない存在なんだ。何度も何度も現れて、驚かす怪談じゃない。けど、それが今のような状態になっているのはテケテケのお蔭。だったら、そのテケテケがいなくなれば、メリーさんも消えてしまうんだろうね」
「だよな……。けど、そもそもはメリーをどうにかしてほしくて碧斗を頼ったんだ。そんなあたしが今更メリーを引き止めるとか、何言ってんだって話だよな」
自嘲気味に志津香は笑う。彼女もわかっているんだと思う。自分に都合のいいものだけが残るなんて、虫のいい話などないことに。
そんなもの、学校と言う狭い世界の中での話だと言うことに。
「いなくなってしまうことを、そこまでネガティブに考えることはないんじゃないかな? 怪談に限らずお話って言うものは、完結してこそ意味のあるものだと思うんだ。志津香のメリーさんのお話は未完。背後から驚かすだけがメリーさんじゃない。体験者の背後を守ってくれるメリーさんもいる、って言うお話を完結させてあげるべきじゃないかな」
いつもみたいに「ツネオのくせに!」とか言われるかと思ったんだけど、どう言った感情の変化なのか無言で肩パンされた。最早、言葉にするのも面倒ってこと?
「そうなんだよ。あいつはいつの間にか、あたしを守ってくれてたんだ。本人はそんなつもりねえって言ったけど、メリーには借りができちまった。だから、しっかり返して、あいつのストーリーを完成させてやらねえとな」
どうやら漲るやる気が言葉より先に拳として出ただけのようだ。さすがの野蛮人。言葉ではなく拳で語ると言うわけか。
「だね。けど、その前に。志津香、友達からの誘いを断った理由、どうするつもりか考えてるの?」
「……ん?」
「今日、教室を抜け出す時に『理由は今度話す』って言ったよね。それ、どうするつもり?」
間の抜けた顔で瞬きを繰り返す。考えてなかったな、これは。
テケテケも確かに大きな問題だけど、これも間違った選択をすれば自分自身のヒエラルキーを揺るがすほどの大ごとになるって言うのに。
「そりゃ、お前が考えろよ、ツネオ」
出たよ、人任せ。
ガキ大将の子分には損な役しか回ってこないんだな、やっぱ。
「いや、参ったよ。まさか、親戚の姉ちゃんの子供があたしを追っ駆けて来るなんて思わなくてさ。確かに懐かれてはいたんだけど、ここまでとはな、ははっ」
適当に、適度で、典型的な「3T」と名付けたい嘘を考え、早速翌日に発表となった。
それは朝礼が始まる前の教室で、僕もその場にはいて、志津香たちのグループを耳だけで見守っていた。
「仕事の都合で姉ちゃんこっち来ててさ、一週間くらいかな? 娘の世話してんだけど、これがまた可愛いんだよ。『お姉ちゃんどこ行くの?』って言うからさ『学校だよ』って言うと『私も一緒に行く』とか言うんだ」
志津香はメリーさんのことを妹のように想っている。だから、この話は嘘なんだけど、彼女の感情自体は嘘じゃない。
メリーさんを「親戚の娘」と置き換えているだけで、メリーさんを心配する気持ちに嘘はない。
志津香はメリーさんに首ったけ、なんだから。
「けど、それがマジになるとはな……」
けど、さすがに子供染みた嘘だったかな、と心配になってきたんだけど、思わぬところか助け舟が現れた。
「やっぱあれ、志津香だったんだ?」
「んぁ?」
間抜けな反応だったけど、聞き耳を立てていた僕も、そんな声を上げたくなる。
「さっきテニス部の子に聞いたんだけど、昨日金髪女子が西館爆走してたって言うのね。金髪って言ったら志津香しかいないけど、西館に用事なんてないだろうし見間違いかなって思ってたの。もしかして、それってマジで志津香だったとか?」
「そうそう! うわぁー、見られてたのか……恥ずい……。追い駆けて来たかと思ったら、今度は逃げ回りまくってさ。先コーに見付かったら面倒だってのに」
「めっちゃ騒いでたって言ってたよ。余計見付かるじゃん」
志津香のグループから笑い声が上がる。確かに西館自体に人は少ないけど、あれだけ騒いで走り回れば、確かに誰かに見られていても不思議じゃないよな。
人目を避けて西館を選んだわけだけど、幸いにもと言うべきか、苦肉にもと言うべきか、今回は見られていて良かった……。
「何だよ、そう言うことなら言えよな」
「まあ、何ての? あたしが子供の世話してるって、キャラじゃないだろ? 何か恥ずかしくてさ。もうちょいいるみたいだから、暫くは直帰で頼むわ」
「公務員かよ。まあ、そろそろ夏休みだしさ。休みになったら何かやろうぜ」
と、話題はいつの間にか夏休みの計画へ。志津香のヒエラルキーはどうやら維持できたようだ。
僕はもう聞き耳を立てるのをやめて、自分の世界へと没頭していく。
そう、怪談の世界へ。
比較的有名な怪談のお蔭で体験談や報告はかなり拾い上げることができた。
そこでまず思ったのは、テケテケは幽霊や怪異と言うよりも妖怪に近い印象だってことだ。だからってどう、と言うわけじゃないんだけど、志津香の能力か才能はそんなものまで呼び寄せてしまうんだと、改めて彼女の奇妙さを感じたって話だ。
それはさて置き、トイレの花子さんや口裂け女のように全国にまで広まった怪談は地方性と言うものがある。
テケテケに関しても同じで、多くは上半身だけの女子生徒だけど、男子の場合もあるみたいだ。
派生形としては童謡の『さっちゃん』に絡ませるものもあったけど、呼び寄せた本人が「志津香ちゃん」であるとは言え「さっちゃん」には程遠い人物だから、今回のテケテケとの関係性は薄いだろうな。
ただ対応策、解決策についてはそう多くないんだ。その凶暴さ故にあれこれ考えるよりも、直接的でそれなりに理にかなったものだけが語り継がれていった結果なのかも。
これは、こちらとしては願ったり叶ったりで、いろいろと策を練る必要がないのは助かる。花子さんの一件で、こっちの屁理屈を怪談に押し付けることも実証済みなのが余計に気を楽にさせてくれた。
じゃあ、テケテケ退治、やりますか。
よければ、いいね ブックマークして頂けると励みになります。
引き続き宜しくお願い致します。




