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光の記憶


 ここはどこだ。


 真っ暗で何も見えない場所。


 何も聞こえない。

 何も触れられない。

 何も感じ取れない。


 僕は誰だ。


 頭に靄がかかったかのように何も思い出せない。


 何をして、何があってこうなったのか。


 全てが思い出せない。


 考える事は出来る。


 頭はあるのか。

 脳はあるのか。

 心はあるのか。


 何処で考えているのかは定かではないが、思考回路ははっきりしている。


 だが、思い出すために必要な決定的な何かが無い。


 ならば、推理していくしかない。


 僕は何者なのか。


 僕……何故、僕は「僕」と名乗っている。


 「僕」に対する違和感が凄まじい。


 ならば、俺……?

 これは違う。しっくりこない。


 それならば、私…………?

 恐らくこれが正しい。僕よりも正しい言葉のように感じる。


 以前の一人称は「僕」で、何かをきっかけに「私」に変える必要があった?


 それは、恰好を付けるためか……否。

 それは違うと何かが訴えかけている。


 それは、性別に寄るものか……否。

 これも違う。


 ならば、立場か……?

 立場が「私」である事を強要させた?


 ふむ、成程。


 それにはしっくり来る。


 私は何らかの前に立つ必要があり、威厳を示すために私になった。


 そういう事なのか?

 恰好付けではなく、そうするべきだと私が考えたからそうした。


 誰の前に立つ必要があった?


 組織?

 団体?

 家族?


 家族……。


 何故だか存在しないはずの身体に痛みが走る。


 それは針で刺され、そのままグジュグジュと抉られているような痛みだった。


 家族だ。

 家族のために私は私である必要があったのだ。


 痛みが広がる。

 無いはずの全身、頭の天辺から足先まで使命感という痛みに突き刺される。


 なんだ、これは。


 私は家族にとってなくてはならない存在だった?


 痛みが増す。


 私は父親だった?


 痛みは増さない。


 私は長男だった?


 痛みは増さない。


 私は次男だった?


 痛みが増す。


 私は長男の代わりに皆の前に立つ必要があった?


 痛みが更に増す。


 私に姉はいたか?


 痛みが凄まじい勢いで増していく。


 長男の代わりに次男が前に立つ必要のある家。


 父親が頼りなくて、母親が頼りなくて、長男が頼りなくて、姉が頼りない家。


 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ……。


 そういう訳では無さそうだ。


 痛みがそれは違うと否定する。


 だが、父、母、兄、姉の代わりに前に立つ必要があった?


 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ。


 痛みが私の考えを肯定する。


 父は皆を放らなければならない理由があった?


 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ。


 母にも皆の前に立てない理由があった?


 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ。


 それは兄と姉が原因?


 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ。


 脳をムカデやヤスデに侵食されているような痛みが走る。

 まるで、脳を細かい針で引っ掻き回されているようだ。


 しかし、何故か痛いとは思わなかった。


 現時点で、父・母・兄・姉がイカれてしまっているのではと思っていたが、どうやら私もそれに比肩を取らないレベルでイカれてしまっているようだ。


 何故、イカれてしまったのか。


 立場が痛みに悶える事を許さないのか。


 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ。


 また痛みが走った。

 つまり、それが答えだと言う訳だ。


 家族の先頭に立つ矜持が、私に痛みを感じる事を許さなかった。


 ならば、今こうして訳の分からない状況に陥っている事は許されない?


 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、 グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ、グジュ。


 正解の痛みだ。


 私は今ここで痛みによる自問自答を繰り返していてはいけないのだ。


 ならば、ここから出る方法を考えよう。


 まずは、私に出来る事の模索と、それによる脱出が可能なのかどうかを探っていく。


 私には、どのような力が備わっているのか――



―――――



「また発光している」


 魂を移す剣の一つ。

 色んな兄妹の魂を封じ込めているせいで、誰を何処にしまったのか忘れてしまったが、その剣だけは誰が居るのかが分かる。


「テリオお兄ちゃん、まだ休んでいて良いよ」


 短剣に遮光用のテープを貼る。

 二重、三重、四重と巻いていっても短剣から光が漏れ続ける。


 あまりにも強い光。


「お願いだからまだ出て来ないでね。竜王家の希望の光であるあなたに目覚められたら厄介なの」


 言葉通り、光となったお兄ちゃん。


 光はまだ、つかなくて良い。



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