七十九話 この十年間どこで何をしていたのか問い質してやりたい
コウジが家を出る少し前の事。
「あ、そうでした、フィーちゃん。携帯電話を家に置き忘れていましたよ。だいぶ『ブブブ』って愉快な音を出し続けていたから友達に心配されていると思うわ」
元の身体に戻ったコウジに抱き着いていていたらママにそんな事を言われた。
ママの手には、昔アズモとやったゲームの持ちキャラのストラップが付いた青いスマホが握られていた。
「あ! 持っていくのを忘れていたわ!」
そう叫びコウジから離れママからスマホをもらう。
友達のスフロアから、沢山の不在着信と「今どこにいるの?」という通知が鬼のように届いていた。
「うるさいやつだわ」
あたしはニッコリ微笑みながらそう漏らした。
コウジから向けられる「お前が言うなよ」という視線で良い方法を思いついた。
「コウジ、ちょっとこっち来て」
「え、なんで?」
「生存報告をしなくちゃいけないんだわ」
「あ、そうかあいつらに俺の事を……」
「『あたしはちゃんと生きているわ!』って生存報告だわ」
「あ、そうっすか」
訳の分からない顔をしたコウジがこちらに歩いて来たので、肩を組んでスマホの内カメラでシャッターボタンを押した。
――カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。
「ちょ、お前、急に取るなよ。なんか『はい、ポーズ』みたいな掛け声文化がこの世界にはないのか?」
「あ、なんか連射モードになっていたわ」
「まるで聞いてねえ……」
「いいや、全部送っちゃえばいいわ。コマ送りでみたら驚くコウジの面白い顔も見れるし」
学校の仲良しグループ、その中でもコウジの存在を知って居そうなメンツのいるグループに写真を投下した。
14:20
(大量の写真)
あたしは無事だわ!
帰って来たコウジと一緒にいるわ!
「これでいいかしら」
すると、直ぐに電話が掛かってきたのでとりあえず「拒否」ボタンを押した。
14:20
なんで出ないのよ
14:20
今色々ゴタゴタしていて大変なのだわ!
電話をコウジと変わる事も出来ないから戦略的拒否だわ!
14:21
コウジって本物?
帰って来たって事?
でも人間の割には月日の流れを感じないわね……
今、27歳とかじゃなかったっけ?
14:22
なんか「いや、17歳だ。この世界と俺のいる世界で流れている時間が違うかもしれない」とかコウジが言っているわ
あたしにはよく分からないからそのまま送ったわ!
あ、コウジがもう家を出るって
14:23
待って、本当に待って
証拠、証拠が欲しいわ
何か本物のコウジだと証明できる証拠を送って
「証拠……証拠ねえ……思いつかないわ。ねえ、コウジ、自分がコウジであるって事の証拠出して」
「いきなりだな」
「なんかコウジである事の証拠が欲しいんだって」
「誰が、なんのためにだよ」
「スフロアが、コウジが本物であるって事の確証を得たいんだって」
「あー、友達の頼みか……しかもスフロアの……懐かしい名前だな、おい」
「じゃあカメラ向けるから何か証拠出して。行くよ、3、2、1……」
「ほんとにこの竜は……あー、スフロア? 久しぶりだな、俺が本物のコウジだ」
スマホを動画モードにしてコウジに向けるとコウジはたどたどしい様子で頭をポリポリで掻きながらそう言った。
思わず、あたしの監督魂に火が付く。
「ちょっとコウジ、それで本当に証拠になると思っているの? いくらなんでも偽物っぽいわ!」
「そう言われても、じゃあ何をすれば良いんだよって……」
「コウジにしか出来ない事をすれば良いわ。なんか色々あるでしょ、コウジにしか出来ないこと」
「俺にしか出来ない事が沢山ある前提で話を進めるなよな……うーん、じゃあ解放でも使うか……」
そう言ってコウジは解放を使い、魂体になった。
「どうだ? これなら俺が俺である事の証拠になるだろ? おまけにちっちゃいアズモも引っ張り出してきた。ほら、スフロアになんか挨拶」
「……。ふむ、私は本物のアズモの抜け殻だ」
「うーん! なんか二人して偽物っぽいわね! もう面倒だからこれで送るけど、信じてもらえるかしら……?」
14:28
(先程撮った動画)
どう、本物のコウジっぽく見える?
14:29
ツッコミどころが多い……!
コウジがアズモと同じように魂体になれる事を私は知っているからそれはまだ良いわ。
でもなんか、ちっちゃいの居なかった?
ちっちゃい何かが居たわよね?
なんか絵になるレベルの顔面をしているけど、ふてぶてしさが勝る何かがいなかった?
14:30
アズモだわ
14:30
なんでアズモがいるのよ
おかしいでしょ?
いくらなんでもフェイク動画よね……?
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でもさ、ラフティーちゃんにそんな動画作る能力があると思うかい?
僕はとてもだけど無理なんじゃないかなって思うよ
ブラリが参戦してきた。
ブラリが参戦した事により先程まで訝しんでいたスフロアに変化が表れる。
14:32
そう言われたら確かに……
え、でもなんでアズモが
14:32
抜け殻ってどういう事なのかい?
今、異形化しているアズモとは、別のアズモって事?
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たぶんそうだと思うわ!
そこら辺はあたしもよく分からないからなんとも言えないわ!
14:34
だろうね
14:35
ラフティーだしね……
14:36
<`~´><`~´><`~´>
なんかあたしを責める流れになりそうだったから、あたしなりに「話題を逸らすな」と表現してみる。
14:37
ごめん、ごめん悪気しかないんだ
授業が暇だし、会話でも楽しもうかなって
あ、勿論、コウジが帰って来た事は信じるよ
だって、ラフティーちゃん嘘吐けないし
本物か、ラフティーちゃんも偽物に騙されているかのどちらかだよね
14:38
たしかに……
思い出の一つでも語ってくれればそれでいいのに
なんかないの?
14:39
ないわよ
コウジもう行っちゃったもの
なんか色々あって忙しいんだわ
14:39
ほんっと頼りにならないわねえ!
14:40
まあまあまあ悪気はないんだから
14:40
尚更、性質が悪いわよ
14:41
<`~´><`~´><`~´>
14:42
ごめんて
14:42
別にラフティーの事を責めている訳じゃないわ
むしろ責めたいのはコウジの方
この十年間どこで何をしていたのか問い質してやりたいわ
14:43
上に同じくだねえ
14:43
再会したら、絶対にこの十年間分の恨みをぶつけてやるわ
アズモを放っておいてどこで何をしていたのよって
14:44
まあ、僕は逆に優しく迎え入れるけどね
ほら、優しい方が罪悪感が湧いてくるでしょ?
14:45
それもありね……
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というか、今ラフティーちゃん達ってどこに居るの?
近くにいるんだったら確かめに行くけど
14:47
言っても分からないと思うわ
14:47
いいからさっさと言いなさい
14:48
クリスタロスって所よ
ケトスっていう国土にある街の一つ
14:49
……ケトスは授業で聞いた事あるけど、クリスタロスは分からないわね
地図帳で場所でも確認してみようかしら
14:50
へえ……クリスタロスにいるんだ
ところで、僕の許嫁がいる国って実は――
そして僕も今――
Q ラフティリの仲良しグループで二人しか反応していない理由
A 授業中だから




