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七十八話 誰かが死ぬことで成り立つ未来


 クリスタロス近くにあるダンジョン、ランウン。

 元々は今日からまた入れるようになったゲトス森で狩りをする予定だったが、美味そうなクエスト情報がないか掲示板を眺めていたら、隅の方に「低層素材の大量依頼」というクエストが貼ってある事に気が付いた。


『 低層素材の大量依頼


 ゲトス森が解放された事で、ここ暫く安定的に供給されていたダンジョン素材が供給減少される事が見込まれる。

 そのため、下記素材が一定量確保できるまでこちらのクエストを発行しておく。


 低層魔物素材(鱗・皮・魔石) × 100以上


 報酬は獲得してきた素材の買取から導き出される金額から行う。

 尚、その時の買取はこのクエストを受けていた場合に限り、普段の1.1倍で行う。


 このクエストは供給が下がる事が分かりきっているから、しばらくの需要を満たすための供給獲得が目的だと直ぐに悟った。


 何せこの街には毎日のように数十人の冒険者に憧れを持ったガキや、短期間でお金を大量に稼ぎたい人、そして別の街からのあぶれ者がやってくる。

 あぶれ者の一人だった俺なら分かるが、装備の質や冒険の用意はそのまま冒険者寿命に繋がる。


 いくら低級素材と言えど、素材から作られる、手頃の値段の武器・防具・消耗品の数々はそんな初心者冒険者にとって入手しづらいが、かなり必要な物。

 かくいう俺もかなりお世話になった。


 だからと言って、冒険者レベル6の俺が今更低層で狩りをしたところで美味くはねえが・・……。


 クエスト用紙を握り取った。


 ま、たまには良いか。

 供給するのが、今回は俺の番だった。それだけの話だ。



―――――



 ランウンには一人でやって来た。

 今回程度の難易度ならば、仲間が必要だとは思わなかったからだ。


 低層素材の大量依頼。

 効率的に終わらせたいから、今回狙うのは殺人蟻の軍団だ。


 連携が厄介なモンスターだが、一体一体辺りの戦力は高くない。

 そして奴等には仲間意識があり、数十体で行動、誰かやれられたら残りの個体が死ぬまで群がってくる。

 低級冒険者、それも戦士職には厄介なモンスター。


 まあだが、火の魔法戦士として、範囲火焔魔法も覚えているみた俺から見たらそれこそ美味いモンスターだ。

 焼き尽くさないように火力に注意する必要がある事と、魔力が尽きないよう管理を怠らない事くらい。


 実際、現在五十匹ほど倒しているが、何の問題も起きていない。


「――私の可愛い子達に酷い事をする子にはえいっ! ……なんてね」


 後ろから何か声が聞こえてきて頭に凄まじい激痛が走った。


「『サワハタコウジ』とその周りにいる人達を殺してきさない。私、彼が凄くすごーく嫌いなの。せっかく何でも叶うような力をアズモちゃんが手にしたのに力を奪うためにこの世界に来るなんて考えてもいなかったわ。ねえ、あなたも『サワハタコウジ』を殺したくなった?」

「……ハイ」


 あれ、おかしいな。

 何故か魔法の詠唱に失敗した。

 殺人蟻に向かって火焔魔法を使うつもりだったのに居ない誰かに向かって返事をした?


「じゃあ、引き続き頑張ってね。冒険者さん」


 まあいいや、引き続き、殺人蟻を殲滅していくか。


 そして、俺は何の問題もなくクエストをやり遂げた。

 百体で充分なところを多めに百五十匹も倒した。

 これなら暫くは安泰だろう。


 普段行っているクエストに比べたら大した稼ぎにはならなかったが、やり切った感があったので普段と同じように酒場に向かった。


 ――ああ、そういや思い出した。

 トガルとリイルの二人が冒険者連中から嫌われている「サワハタコウジ」と仲良くここで喋っていたっけ。


 じゃあまずは、今日も変わらず酒場に浸っているリイルをこの後にでも襲って、その後、トガルの襲撃でもすれば良いか。



―――――



「なんでこんな酷い事をしたんだ……」

「……こんなに分かりやすく見えている巨大な脅威を認識できていないのか?」

「自分が何を考えて、何をしているのかも理解できていないってそんな事あるのか……」


 それがジャッパさんの魂の記憶を見て出て来た俺達の感想だった。


 ジャッパさんが見たものに、ジャッパさんの心の声を副音声としてつけられたアズモ渾身の記憶の抽出映像の確認を行った。


 映像ではジャッパさんが善意でクエストを受ける場面、ひたすら蟻を倒していく場面、巨大な蟻に命令される場面、クエスト達成の報告をしにいく場面、酒場に向かう場面、酒場を出た後に泥酔したリイルさんを刺す場面、トガルさんが通院している病院に潜り込む場面から爆発する場面までが確認できた。


 そのどれもで、ジャッパさんは自分の行いに対する疑問に耽る素振りなんてなく、それが当然かのように全ての事を行っていた。


「というか、これ……」


 リイルさんが……。


 映像では路地裏に追い詰められたリイルさんが剣で身体を滅多刺しにされている所が写っていた。

 目の前で金髪の女性の顔がどんどんと苦痛に歪み、絶えていく姿が確かに映っていた。


 気持ち悪くなり吐き気を催したが、この場所では口から出る物なんてない。


 そして俺よりも――


「――う、うわあああああああああああああああああああああ!! 俺は! 俺は!!? なんて事を……!!! うわああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ジャッパさんの慟哭が響く。

 自分が数日で何をやっていたのかがやっと理解できた様子だった。


 本当にあの肉体では何も覚えていなく、何とも思っていなかったようだ。

 だから今初めて、映像で自分が犯した凶行を認識する事が出来た。


「う、うわああああああああああああああああああああああああああああ! 俺が! 俺が!? 俺が、人を殺したんだ!? 誰かの助けになればなんて余計な事を考えて行動したせいで天災蟻に思考操作針を仕込まれたんだ! でも奴は手を汚していない! 俺が! 俺がやったんだ!!」


 そんな男の慟哭はとても悲痛なものだった。


 気になるワードが出て来たが、今それを聞く勇気は俺には無かった。


 それよりも早くここを出てリイルさんの様子を――


「出よう、コウジ。ジャッパはしばらくここに置いておく。外に出してもうるさいだけだろうし、フィドロクア兄上の集中を欠く」

「……そうだな」


 こいつは……、アズモは俺よりも冷静だった。


 まさか、これも体験した事のある未来の一つだったりするのだろうか。

 しかし、それを聞く勇気も俺には無かった。


 何が正史なのか俺には全く分からないが、誰かが死ぬことで成り立つ未来に希望はあるのだろうか。


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