第百九十六話 開戦
「うううーーむ」
なかなか攻撃開始の合図が上がりません。
さすがのリョウキ様も心配になってきたのでしょうか。
うなっています。
夜明けまで二時間を切ったように感じます。
全ての段取りが終っているので、私もリョウキ様も、もう何も手出しが出来ません。ハラハラしながら待つばかりです。
「おっ、おおおーー」
とうとう合図の火矢が一筋夜空に上がりました。
河に赤い線が浮かび上がります。
兵士が矢に火を付けたのでしょう、河がぼうっと弱く光り出しました。
その光がふわりと宙に浮かびました。
浮かび上がった、光がスッと下に落ちると、恐ろしい勢いで赤く光り出します。
対岸に赤く高い壁が出来たみたいです。
「ここまでは完璧です。あとは火が消えたあと魔王軍を全滅させることが出来るかどうかです」
私は、呆然と真っ赤な炎を反射する水面を見つめています。
ユラユラと揺れる赤い水面は口には出せませんが、とても綺麗に感じました。
「大変ニャーー!!!」
魔王城の魔王の寝室に可愛い幼猫が入ってきました。
僕は、大魔王ですが、体は小さいです。
ベッドは、歴代の魔王のサイズなので巨大です。
その巨大なベッドの入口側の端っこで、ちょこんと小さくなって眠っています。
当然一人で眠ることは出来ません。
枕元にクザンとシュラさんが控え、入り口には警護担当のメイドさんが二人。
窓にも二人ずつ警備担当のメイドさんが立っています。
そして、ベッドの対角線上の反対側にフォリスさんが眠っています。
僕の位置からだと、フォリスさんは一回り小さく見えるほど遠くにいます。
「あっ、アドじゃないか」
「ふひひひ」
アドが可愛かったので全身をワシワシ撫でます。
「アスラ様!!」
「うわっ!」
フォリスさんが、すごい怒りの表情です。
そうでした。
アドの見た目は可愛らしい幼猫ですが、本当は大人の女性なのでした。
「もっと撫でていいニャー」
上目遣いで見つめます。
くっ、かわいい。
「アドさん、何か慌てていませんでしたか?」
フォリスさんが、冷たい口調でアドに話しかけます。
「そ、そうニャ。のんきに眠っている場合じゃないニャ」
「なにがあったのですか?」
「ふふふ、大変なことが起っているニャ」
そう言ったアドの目は薄暗い寝室であやしく光った。
「な、なにーーっ!」
僕は戦場の魔王本陣に移動した。
目の前が真っ赤に輝いている。
出来たばかりの艦隊が、ゴウゴウ音を立てて燃えている。
魔王本陣は河から少し離れています。ですがここまで、炎の熱気が伝わってきます。
「へ、兵士は大丈夫ですか?」
「たまたま大丈夫だったニャ、疫病で全員が陸に上がっていたニャ」
「疫病ですか?」
「原因不明の下痢で苦しんでいるニャ」
「エリクサーでは治らないのですか」
「やってみたけど駄目だったニャ。体力は戻るけど、下痢自体は治らなかったニャ」
「ふーーっ」
ため息が出ました。
まさか、この疫病まで敵の策略なのでしょうか。
「怒らないのかニャ?」
「ふふふ、怒っていますよ。でももう、ここまでやられれば、相手が悪かったと諦めるしかありませんね。まさか東風まで吹かせてしまうとは……」
「そんなもんかニャ。慌てて損したニャ」
「ふふふ、ですが勝負はまだついていません。これからです。ジグリオさんはいますか?」
「はい、アスラ様! ここに!」
「指示があるまで待機していてください」
「はい、わかりました。ふふふふっ」
ジグリオさんが意味深な笑いをして本陣を後にしました。
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