第百九十四話 陣中見舞い
リョウキ様は、夜になるとかがり火の数を増やし、文字が書けるほど明るくしました。
一見すると魔王軍の夜襲に備えているように見えますが、それだけでは無いような気がします。
私の休日は、レノさんの隊に武術指南をしていると、あっという間に終りました。
本当はのんびりしたかったのですが、しょうがありません。
「ライファ様、本陣でリョウキ様がお呼びです」
「分かりました。直ちに参ります」
いよいよ今晩、決戦です。
私は、緊張で顔がこわばります。
「んふーーーっ」
レノさんが、変な吐息を漏らすと、ひざがカクンとなりました。
「ど、どうしました?」
「はい、なんでも有りません。ライファ様の目がキリリと吊りあがり、美し過ぎて失神しそうになっただけです」
「もう!! ふざけてないで行きますよ!!」
レノさんは水浴びをした後から、ずっとこんな感じです。
初対面の時、憎憎しく、にらみ付けてきた人とは思えません。
「わい、あっかみました。はい」
本陣につくとリョウキ様と、バルゼオ様が私の来るのを、首を長くして待っていてくれたようです。
「レノさんは呼んでいませんが」
リョウキ様が意地悪く言いましたが、顔が笑っています。
何か良いことがあったに違いありません。
「私は、ライファ様に直接護衛を頼まれました。片時も離れることはありません」
「まあ、良いでしょう。ぷっ」
「大人しくするんだぞ、ライファ様に迷惑をかけるなよ。ぶっ」
バルゼオ様まで笑いがこらえきれない様子です。
決戦の前にこんなに緊張感が無くて良いのでしょうか。
「あのー、二人ともご機嫌がとてもよろしいようですが、何があったのですか?」
「ぎゃーーーはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
二人が腹を抱えて笑い出しました。
それを見て、レノさんまで何があったのかも分からないのに、大声で笑っています。
「ひーーーっ、ひ、ひっひっひっ、あう、ごふっ、ごふっ、ごふっ」
すでに、二人が呼吸困難になっています。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。ふーー、ふーー、げふっ、ふーー。実は、先日も言ったように、昨晩、魔王軍にヌルの差し入れ、つまりは陣中見舞いを漁師達が届けたのです」
「はい」
「魔王軍には何と、醤油があり、兵士達がうまい、うまいと腹一杯になるまで食べたそうです」
「まあ!!」
「しかも、魔王軍に、魔王は不在で三日後まで戻らない予定だとか」
「そうですか」
「ここまで順調ですと、恐ろしささえ感じます。すべてライファ様のおかげですね」
「えーーっ、違いますよ。私は何もしていません」
「ふふふ、思えばライファ様が来てくださってから、我軍は全てがうまく行っています。これは、偶然かもしれませんが、私はライファ様のおかげだと思っています」
「本当だ。ライファ様こそ戦女神と言っても良いはずだ」
バルゼオ様の言葉が終ると、外がザワザワしだした。
私達が何事かと、本陣の屋根に登り様子を見ると、風が止んでいます。
いつもは旗が西風に揺れているのに、旗がしおれて全く動きが無い。
帆船は風が無ければ動くことが出来ません。
この瞬間、バルゼオ水軍が圧倒的に有利になりました。
「奇跡だー!!」
リョウキ様が言います。その顔は興奮で紅潮しています。
「みなのものーー、天は我らに味方したーー」
バルゼオ様が雄叫びを上げます。
「うおおおおおーーーーーーっ!!!!!」
全軍の雄叫びが上がりました。
「それもこれも、戦女神ライファ様のおかげだーーー!!」
ふたたび、バルゼオ様が叫びます。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
さらに大きな雄叫びが上がりました。
ビョオオオーーーー
バサバサバサバサ
「おお、なんと言うことだ!」
リョウキ様がひざをつきました。
「こ、こんなことが起こるものなのか」
バルゼオ様が泣きそうな顔になっています。
皆が戦女神ライファ様と私の名前を叫んだ。
何と、東風が強く吹き始めたのです。
なんと、こんなことが起こるのですね。
驚きました。でも、皆で私の名前を連呼するのは、やめて欲しいです。
本当に私は何もしていないのですから。
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