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魔王  作者: 覧都
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第十八話 王国の混乱

「よう!」


「!!」


 俺が声をかけると、トロールが驚いた顔をして振り向いた。

 まあいくらモンスターでも、水を飲んでくつろいでいる所を、後ろからバッサリは可哀想だ。


「ぐわああーー」


 手にもった棍棒を振り上げて襲って来た。


「きゃあああああーーー」


 フォリスさんが悲鳴を上げている。

 フォリスさんは、トロールの動きが遅かったので、安全に戦えるとみて前に出た。目にも止らぬ速さとはこの事を言うのだろう。

 武闘家の素早さはあなどれないと思った。


 自慢の暗黒の爪で、トロールの腹を切り裂いたのだ。

 だが、このトロールはダンジョンの魔力で生成されたモンスターと違い、生命体のトロールだった。

 切り裂かれた腹から大量の血が出て、フォリスさんは頭からそれをかぶってしまったのだ。


「大丈夫ですか。命のある魔物は魔石にならずに死体になります」


「……うっ、最初に言ってください……」


 泣いているようだった。


「す、すごいもんじゃのう。一撃とは」


 空気を読まない爺さんが、驚いている。


「わしは、町の者にこの事を伝えてくる。トロールはそのままで良い、ギルドにまかせるからのう」


「爺さん、俺たちは王都へ行って来る」


「おう、わかったー。気を付けてなー―」


 フォリスさんは海で体を少し綺麗にして、王都のお風呂にイルナと二人で入ってもらった。

 俺も風呂に入って、先にいつもの食堂でいつもの注文をした。


「おばちゃん、大丈夫かい」


「あーまあ、ここはあまり変わって無いよ。少し治安が悪くなった程度さね」


 街を歩いてきた俺の感覚も同じだった。

 王都の混乱はまだ王族や貴族、教団で終っているのだろう。

 だが、兵士を王都から動かせない為、地方が大変になっていくのだろう。

 社会が不安定になると、俺の考えはフォリスさんとイルナの生活の方が気になる。

 やはり早く強くなってもらって、しっかり自分たちで自立してほしいという考えになる。


「全ての原因は、天神の勇者様がいなくなった事なんだろうね」


 おばちゃんが俺の顔をのぞき込む。


「ふふふ、そんな力は天神の勇者には無いさ」


「ふふふ……」


 おばちゃんは、含みのある笑いをして、厨房へ戻った。

 入れ代わりに、フォリスさんとイルナがやってきた。

 このあと数日、休日を楽しみ、食料を大量に仕入れて、ダンジョンへ戻った。




 前回のダンジョンは攻略したので、ランクアップして次のダンジョンに来た。

 ダンジョン的にはレベル二のダンジョンと言うことになる。

 このダンジョンは、ひっそりしている。

 一階層の雑魚モンスターがすでに強すぎるため、挑戦する人がいないのだ。

 ギルドに管理もされていないので、無料で入る事が出来る。


「じゃあ、行こうか」


「はい」


 このダンジョンの一階層は、全体が迷路のように区切られてはいない。

 ボス部屋のように何もない空間が広がっている。

 そこに見えるだけで一千体以上のゴブリンがいる。奥にいるであろうゴブリンの数を含めれば、どれだけいるのかわからない。

 入り口のまわりは五メートルほど金色に輝き結界になっている。

 ここは安全地帯になっている。


 二人は笑顔で付いてくる。

 結界内に着いて中のゴブリンを見ても全く怯んでいない。

 頼もしい限りだ。


「なあ父ちゃん、あれって何?」


 イルナが指をさした先には、白骨がある。

 このダンジョンは、ギルドが管理していないので、掃除をする人もいない。


「白骨さ、このダンジョンで命を落としたんだろうな。ここのゴブリンの強さは外のゴブリンとはレベルが違うからな」


「……」


 イルナの顔が青ざめた。

 だが、フォリスさんの目はらんらんと輝いている。


「じゃあ、フォリスさんが戦い、イルナは魔法で援護だ。俺は危なくならない限り手出しはしない。いいね」


 二人はうなずいた。


「うおおおおーーー」


 フォリスさんが、結界から飛び出すと消えたのかと思えるような速さで、近くのゴブリンを暗黒の爪で切り裂いていく。

 次々小さな魔石が地面に転がる。

 イルナは、攻撃魔法を打つ為手を上にあげる。

 金色の大きな魔方陣が上空に姿を現わした。


「かあちゃん、下がって」


 フォリスさんがイルナの方を振り返り、瞬間移動のような速さでイルナの横に並んだ。


「ホーリーアロー、アースレイン」


 地面から金色の矢のような光が、無数立ち上った。


「すげー―なー―」


 一瞬にしてゴブリンの軍勢が消えた。

 地面に転がる魔石の光で、ダンジョン内が赤く照らされている。

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