第百七十二話 領内無双
「馬鹿め、お前が生意気だから、領兵の隊長様もお怒りだー!」
私が天帝の騎士団、いえ、賊共に逆らったのが、そんなに気に入らなかったのでしょうか。
「ひゃあーーはははははーー」
天帝の賊共が爆笑している。
――くっ!!
私は剣を立て、少しだけ角度を付け男の棍をいなそうとした。
ギャアアアーーン
すごい音と共に棍と剣から大量の火花が散った。
昼間なのに目に見えるほどです。
さすがは、大聖女様の強化の付与が付いた剣です。
普通の剣ならポッキリ折れて、脳天直撃でしょう。
男はよけられたのに、余裕でニヤニヤしながら私を見下ろしています。
「でええええーーーー!」
私は、男のふところに素早く潜り込み、脇の下をつかみ男の体を前に引っ張った。
男の態勢が崩れたところで、下から真上に手の平で男の胸を押し上げた。
「がふっ!!」
男の体は十五メートルほど浮き上がった。
――い、いけない
私は、三、四メートル浮かせるつもりでしたが、少し怒っていた為か上がりすぎました。
男は頭から地面に向って落ちて来ます。
このまま地面に激突すれば、死んでしまうでしょう。
私は飛び上がり、男の背中に右手を回し、左手をひざの後ろに入れ体を支えた。
トンッ
着地をすると、男は私の胸で赤ちゃん抱っこの状態になっていた。
心なしか男の目が赤ちゃんのように、可愛くなってパチクリしている。
そして頬が赤くなっている。
――き、気持ち悪い
私は思わず手を引いてしまった。
ドスン
「いだーーー!! な、何をするのですかライファ様!!」
「見知らぬ男が気安く人の名前を呼ぶな! 気色の悪い!!」
「なーーーっ!! ほ、本気で言っているのですか? あ、あんまりです」
「ぎゃあーはっはっはっはーーー」
領兵達が笑い出した。
「ふふふ、ライファ様は相変わらずですな!」
「あっ! リョウキ様」
「ほれ、その男を良く見てください」
言われて男の顔をのぞき込んだ。
「駄目です。全然心当たりがありません」
私が顔を良く見ようと近づいた為か、男が恥ずかしそうにしている。
本当に誰なんだこいつ。
「本気ですか。ライファ様!! 俺ですバルゼオです!!!」
「えっ! うそっ!!!」
わかるわけがありません。
前に会った時はデブデブに太っていて、つぶれたオークのような顔でした。
体だって、ただの大きく脂肪をまいた肥満体でした。
今はなかなか精悍な顔つきで、どちらかと言えばいい男になるのでは無いでしょうか。
あーー、私は男の顔には関心が無いので、間違っているかもしれません。ふ、普通なのかもしれません。
「ふふふ、何だよ領兵の隊長さんよう、強そうなのは見てくれだけかよう! 情けねえ! 女聖騎士ごときに負けとりゃあ世話ねえぜ!! くっくっくっ」
天帝の賊の隊長が、ニヤニヤしてバルゼオさんを見下ろし勝ち誇っています。
バルゼオさんは、薄ら笑いを浮かべ棍を拾うと、ゆらりと立ち上がり賊の隊長に数歩近づいた。
ビョオオオオーーーーーーッ
棍の間合いに入ると水平に軽く振った。
私の時とは違い、自然体で軽く振っているように見える。
ガキン!!
さすがは賊とは言え隊長ですね。
その棍に剣を合わせてきました。
「うおっ!!!」
でも、剣は弾き飛ばされ、水平に天帝の騎士団の方に飛んで行きました。
「うわあああああ!!!」
悲鳴を上げて避けています。
かっこ悪いですね。
領兵は、声は出しませんが肩が震えています。
弾き飛ばされた剣は水平のままどんどん飛んで行きます。
そして数百メートル先の街の壁に突き刺さりました。
「ぐああああーー!! 熱い、熱い」
バルゼオさんの棍が賊の隊長の耳に触っています。
きっとあまりに速く振られた棍が空気との摩擦で、熱くなっていたのでしょう。
「寸止めにしておいてやったぜ、もし当たっていたらどうなっていたと思う?」
「ひっ!」
賊の隊長は足から力が抜け、垂直に体が崩れ落ちた。
「ライファ様はこれの十倍の力の攻撃だった。言っている意味がわかるか! 糞が!!」
「ふふふ、先日領内で、武術試験を行い、バルゼオ様は領内無双の称号を領主様から賜ったばかりです」
リョウキ様が楽しそうに説明してくれた。
「領内無双って! この領内で一番強いと言うことですか? すごいですね!」
私は目をキラキラさせてバルゼオさんを見た。
「あーーはっはっはっ!! その俺を赤子扱いしておいてよく言いますなーー!! まあ、ライファ様にいいところが見せたくて、毎日訓練したかいがありました。おい!! お前達! 何をしている。我らがあるじ様にあいさつをせんかーー」
バルゼオさんが言うと、領兵が大勢整列してひざまずいた。
「今日よりバルゼオ配下の領兵一万は、ライファ隊と呼ぶことにしますので宜しくお願いします」
「えーーっ」
「では、ライファ様、聖騎士の皆さん宴席を設けてあります。こちらへ」
「くそう!! 憶えていろ! お前達は絶対許さん!!」
私達の後ろで、小さくつぶやく、賊の隊長の声が聞こえた。
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