第百六十五話 お爺さん
来客が全員帰った部屋は、静かでした。
まるで時間が止ってしまったようです。
いつも薄暗い魔王城ですが、夜も更けた為か更に暗く感じます。
「わざわざ皆さんが、気を使ってくれたようですね」
フォリスさんが静けさを破って、話しかけてきました。
ここには、僕とフォリスさんの二人きりになっています。
正確には姿の見えない精霊ランロンがいるので三人ですけどね。
「では、行きましょうか」
「はい!!」
「くそう!! お前達には人の心が無いのかーー!!! 酷い酷すぎる」
僕たちがあの懐かしい船の上に着くと、爺さんが一人で眠っています。
大きな寝言を言っている。
どんな夢を見ていることやら。
「懐かしいですね」
フォリスさんが感慨深そうにつぶやきました。
「爺さんが元気そうで良かった」
「ふふふ、そうですね」
僕とフォリスさんで爺さんをはさみ横になった。
ランロンは、ちゃっかり僕の横に来た。
「げえええーーー」
久しぶりの船の上でフォリスさんと僕は、激しい船酔いに襲われて一度ずつもどした。
「うわああああああーーーー!!! な、なんじゃーー!?」
朝になって、僕たちは叫び声で起こされた。
「ふふふ、やっと起きたのかよう、爺さん」
「なんと、アスラ殿かーー!? 驚いたのう」
「お爺さん!!」
フォリスさんが感極まって爺さんに抱きついた。
「だ、誰じゃ?」
「わ、私です」
フォリスさんが爺さんの目を見つめます。
そういえば爺さんが、子供姿のフォリスさんを見るのは初めてかもしれません。
「ま、まさかフォリスちゃんか?」
「はい」
「ふふふ、何とフォリスちゃんは世界一可愛い少女なのかもしれん。これは驚いたのう」
大人姿のフォリスさんにはあまり関心を示さなかった爺さんですが、ちっちゃいフォリスさんの、かわいさには心から感動しているようです。
「うふふ」
フォリスさんが嬉しそうだ。
「良く来てくれたのう。これで心置きなく冥土へ旅立てる」
「えっ!!」
「ふふふ、この街はもう終ってしまった。わしはもう生きる気力を失ってしまった」
良く見たら、爺さんが痩せてやつれている。
僕は爺さんに付与を付けたエリクサーを渡した。
いつものエリクサーには素早さ極小を二十分程度の付与ですが、爺さんには魔力大の付与を付けた物を与えた。
この世界は、魔力の多い生命はどうも寿命が長いようなので、爺さんにも長生きをしてもらおうとそうしました。
「いったいどうしたのですか?」
「お前さん達は、逃げなさい。この街は天帝の騎士団という無法者に支配されてしまったのじゃ」
爺さんは僕の渡したエリクサーを飲み干すと、驚いた顔をしている。
しなびた体が、生気にあふれ、筋肉もたくましく隆起している。
相変わらず、ひげも髪も白いままで若返ってはいませんが、体の調子は最高になったようです。
「領主様はどうしているのですか」
「捕まって幽閉されてしまった。良い領主様なのに気の毒じゃ」
「爺さんは僕の強さを忘れてしまったのか?」
「いかん、ここの騎士達は三千人以上いる。さすがのアスラ殿でも無理じゃ」
「お爺さん、もし私達がここの無法者を退治した時には、私達と一緒に来てはもらえませんか。お爺さんの力が必要なのです」
「フォリスちゃんから言われれば、何でも言う通りにしてやりたいが、天帝の騎士団は人の心が無い、行かせることは出来ない。頼むから逃げてくれ、お願いじゃ!!」
爺さんが僕とフォリスさんをギュッと抱きしめて、涙を浮かべている。
「ゴフッ! な、なにを……」
フォリスさんが、泣きそうな顔をして、爺さんの腹に一撃を加えた。
「こうでも、しないと行かせてもらえないようなので……ごめんなさい。でも、目を覚ましたらこの街は暮らしやすい良い街になっていますから」
爺さんはフォリスさんの言葉を聞くと、目を閉じた。
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