第百五十二話 生きたい
「ふふふ、ようやく目が慣れてアドという幼女が、見えるようになった」
領主様と、イゴウさんが同時に声を出した。
王国騎士団を次々行動不能にしている、猫耳幼女アドちゃんの姿が見えるようになったようです。
二人とも、たいしたものだと思います。
「お前らごときが、アドを呼び捨てにするニャ」
「あっ、アドちゃん」
「ライファ、こんニャところで、ニャにしてるニャ」
アドちゃんが防壁の上に現れた。
尻尾が嬉しそうに揺れている。
これなら撫でても大丈夫かなと、頭を撫でてみた。
アドちゃんが嬉しそうに体を押しつけてきた。
それを見た領主様は、私とアドちゃんを見て、目をまん丸にしています。
私は、そんなアドちゃんが可愛すぎて抱きしめて頭をなでた。
「見るニャ！！」
アドちゃんが指を指したのは、魔王軍の本陣でした。
魔王軍本陣の上に呪いのようなまがまがしい雲が、黒々と広がっていく。
「あ、あれは？」
「魔王が怒っているニャ、こわいニャ」
アドちゃんの体が小さく震え、私の腕を小さな手でギュッと握ってきた。
「いかっているのですか」
「そうニャ、大勢死人が出ると、怒るニャ」
「あなたは何を考えているのですか」
フォルスという少年が、ギール様に金色の美しい魔法陣を出して、治癒をかけ、質問しました。
同時に、ギール様の前に黒い大きな人と、可愛い少女が現れました。
「わ、私は、負けて帰れば酷い拷問の上、辱められ死刑になる。そんな屈辱を浴びるなら、戦場で前向きに倒れ、名誉の戦死を選んだまでだ！」
「ならば、自分だけ戦死をしなさい！！」
「ふふふふ、残念で悲しいことですが、ここにいる兵士全員が同じなのです」
「アド！！ アド！！」
低い重低音で、黒い巨人がアドちゃんを呼びました。
「あれが魔王様なのでしょうか」
「違うニャ、あれは影武者ニャ。アドは呼ばれたからいくニャ。ここにいたいけど、行って来るニャ」
そう言うとアドちゃんは、名残り惜しそうに姿を消しました。
そしてギール様の後ろに現れました。
「何の用ニャ」
「今のギールさんの言葉は本当ですか」
「本当ニャ、このまま王都に帰れば、兵士もろとも酷い死に様が待っているニャ。天帝の勇者は最悪の男ニャ」
「根拠はあるのですか」
「あるニャ、言っても良いけど、怒らないで聞いてほしいニャ」
「……」
ギール様の前にいる黒い大男と、謎の美少女、フォルスという美少年の三人がほんの少しだけうなずいた。
「じゃあ、言うニャ。辺境の避難した領民や、領兵、領主が天帝の勇者の前で次々死刑にされているニャ」
「なんですって、領民まで……」
「くっ、くそがーーーーーっ！！！！」
謎の美少女が切れました。
美しい声で、汚い言葉使いです。
「だーから、怒るなって言ったニャー！！」
空の暗黒が、広がりあたりが薄暗くなりました。
魔王軍の大将軍までが、震えています。
「避難してきたニャ」
アドちゃんが私にしがみついてきました。
相変わらず可愛いです。
「ギール様、あなたは生きたく無いのですか？」
美少女は怒りの表情のまま質問しました。
「…………、い、生きたい……」
ギール様は弱々しく答えると、涙をこらえているようです。
「ギール様と王国の兵士に、魔王様から二つの提案があります」
美少女がかわいい笑顔になり、空から暗黒が急撃に縮小しました。
「なっ、何でしょうか？」
「一つは、魔王の庇護に入り、魔王国の国民になること。もう一つは、ここで死んだことにして、ひっそり王国のどこかで暮らす事」
「……」
ギール様は美少女の目を見つめます。
美少女の顔が優しく微笑みます。
「魔王の庇護に入った人は、家族も王国からお助けしますよ。それにロウロ領は人間ばかりの領地です。安心して暮らせるはずです」
「我が配下もお助けいただけるのですか？」
「フォルスさん、お願いします」
美少女が言うと、今度は空が金色に輝きます。
そして、巨大な金色の魔法陣が現れました。
同時に倒れている王国騎士団の兵士の中にキラキラ輝く人があらわれました。
すると、軽傷者と重傷者、死んでいない人の傷が癒え、次々立ち上がります。
「な、なんだありゃあー、すげーー！！ まるで神の御業のようだ！」
領主様が口をポカンと開けて驚いています。
アドちゃんがそれを横目で見て、ニヤリと笑っています。
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