第百二十二話 悲しい決意
「はー恐かった」
イルナ様は玉座の間を出るとつぶやいた。
「イルナ様は恐かったのですか?」
エマ姉が驚いた様子で聞いている。
「エマさんは恐くなかったのですか?」
「いえ、恐ろしかったです」
「ライファさんはどうですか?」
「私も、恐怖を感じていました」
ただ、それは常識では考えられない狂気の行動を取ることに対する恐怖であって、天帝の勇者と戦ったら負けるとかいう恐怖ではありませんでした。
「きっと、あれが天帝の勇者の本性なのでしょうね。私のお父様がいる時は、少し本性を隠していたのでしょう」
「あの、天帝の勇者様を、怒らせた様に感じましたが大丈夫でしょうか」
エマ姉は天帝の勇者の殺意に気が付いていたようです。
イルナ様の身を案じています。
「私には聖騎士団がいますから大丈夫でしょう。今回の事で、騎士団にも私の味方が出来ます。私は天帝の勇者にとってうっとうしい存在になっているでしょうね」
「あの、何故あんな勇者をのさばらせているのですか」
私は、勇者など国王の命令で死刑にすればいいと思っています。
「うふふ、魔王を倒せる存在が勇者だけだからですよ。魔王を恐れる人間にとって、勇者はなくてはならない存在なのです」
「魔王より、天帝の勇者様に殺される人の方が多くなりそうな気がしますけど……」
エマ姉の言葉にイルナ様は暗い表情になり押し黙ってしまった。
私達はそのままお城を後にすると、神殿に移動した。
神殿には、前戦から運ばれて来た、けが人が所狭しと次々床に並べられていきます。
最初は軽傷者でしたが、徐々に重傷者が多く運ばれてくるようになりました。
イルナ様はけが人の真ん中に立つと目を閉じた。
神殿中を覆い尽くす様な金色の魔法陣が現れました。
「治癒」
倒れている人達の傷が治っていく。
ただ、腕が無くなっている人などの、欠損した所までは治っていなかった。
「済みません。私はまだまだ未熟でこの程度の治癒しか出来ません。お許し下さい」
そう言うと、本当に申し訳なさそうな表情をした。
だが、死にそうになっていた兵士が、元気に動けるようになって、文句を言う人は誰もいなかった。
私達は神殿を後にして、聖女邸にもどった。
その後も数日は、神殿での治癒活動をして、大勢の王国騎士団の兵士の命を救った。
「大聖女様、本当に助かる。心から感謝する。そして兵士も治してもらって重ねて感謝します」
今日は王国騎士団の、二番隊隊長のギールさんがやってきて、イルナ様の治癒を受けて体のけがを癒した。
「ギールさんは、このまま騎士団に残るのですか」
イルナ様は、ギールさんに聞いた。
「陛下から、汚名を返上するように命を受けたからにはやめられない」
恐らく、次の戦いで、死ぬ気でしょう。
負ければ、辱めを受け死刑です。
それならば次は、負けるとわかった時、戦場で死ぬ選択をすると思います。
私は、ギールさんの悲壮感のただよう決意に悲しさを感じました。
でも、勝てば良いのです。
次は勝てるかもしれませんよ。言いませんけどね。
「ギールさんは、団長にならないのですか」
イルナ様が無邪気に聞いた。
騎士団の団長が、魔王の使者に殺されてからは、空位で更に団長の席に一番近かった、一番隊の隊長ヘルさんが死刑になったので、順当に繰り上がれば、ギールさんが団長になるはずです。
「ふふっ、天帝の勇者様の側近がなりました。死刑が無くなっただけでも、ありがたく思えとのことです」
寂しそうに笑いました。
次こそ勝って下さい。そう思いました。
でも本当は、魔王軍もいい人が多いので複雑な心境です。
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