第百三話 使者の反撃
「うおおおおおおーー!!!」
二人の団長の攻撃がファージさんに襲いかかります。
ファージさんは襲いかかる、二人の攻撃を恐れる素振りも、避ける素振りも見せません。自然体で棒立ちです。
まさに、二人の切っ先が体に触れる瞬間、恐るべき速さで二人の背後に移動しました。
多くの人にはまるで消えたように見えたと思います。
背後に回ったファージさんは両手を真上に挙げました。
そして拳を二人の団長の、頭の上に振り下ろします。
パン
空気の入った袋が破裂するような音がしました。
二人の団長の頭が、体の中にはまってしまいました。
まるで、おびえた亀が首を引っ込めたように見えます。
「悪く思うな、先に殺そうとしたのはあんた達の方だからな」
ファージさんが言い終わると、二人の体がゆっくり前に倒れていきます。
床に倒れると、ザーーッとまるで、おけを倒した時の様に血が流れ出した。
「……」
部屋にいる全員が言葉を失い、誰も動くことが出来なかった。
「本当は、俺はここに死ぬために来たのだが、あんまり怒らせるから怒鳴っちまったじゃねえか。まあ俺みたいな役立たずでも、死ぬと魔王様は悲しむからな。結果オーライか」
ファージさんはこんなに強いのに、自分が魔王軍の中で一番役立たずと思っている様です。
きっと、ここで死ぬ事によって、戦争の火種になるつもりだったのでしょう。
倒れた団長の体を見下ろすと、ファージさんは扉にむかい歩き出しました。
慌てて衛兵が、槍でファージさんの行く手をさえぎります。
「ふん、俺はさっさと帰って、爺とアズサちゃんとうまい酒が飲みたい。どけっ!!」
「……」
衛兵は、全身ガタガタと震えながら、槍をファージさんに向けた。
「ふふふ、シャドーー!! 邪魔する奴はアスラバキだ!!」
「ぎゃあああーーーー」
衛兵達の手足がぐにゃぐにゃに曲がり、悲鳴を上げ倒れました。
ギャアアアアーーー
ギャアアーー
ギャアァー
ギャァー
……
ファージさんが部屋を出て、歩いて行くのにあわせて、衛兵の悲鳴がどんどん遠くに移動していきます。
そして馬車の扉が閉まる音がしました。
でも、馬車が移動する音がしません。
中をのぞいた衛兵が誰もいないことを伝えてきます。
きっと、移動魔法で瞬時に爺とアズサちゃんの元に帰ったのでしょう。
アズサって誰?
「うわーーーっ、何なんだあいつは、何なんだ」
ファージさんがいなくなったのがわかると、部屋の中が騒然となった。
「しずまれーーー!!」
天帝の勇者ハルラが、笑いながら大声を出した。
「ハ、ハルラ様、魔王軍が攻めて来ると言っていました」
「大丈夫だ。俺がいる。魔王の天敵の勇者ハルラ様がいるんだ。安心せい」
「そうだ、ハルラ様がいる。ハルラ様に任せれば大丈夫だ」
天帝の勇者ハルラの一言で、部屋の中の不安が払拭されました。
「ハルラ様ーー、ハルラ様ーー!!」
部屋の中が勇者ハルラをたたえる声で一杯になりました。
どうしてこんな奴を、皆はここまで信じるのでしょうか。
私には理解できません。
「くそーーっ!」
教祖はそうつぶやくと、部屋を出て行きます。
私達、聖騎士団もそれに同行します。
教祖は、これで勇者を殺すことが出来なくなったようです。
勇者ハルラは勝ち誇ったように私達の背中を、いやらしい笑顔で見送っています。
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