ネズミの魔女⑦
足元に転がってきたスライムをコウは見つめた。
「…なんだ?」
じっとみる姿に桃は訊ねる。
「どうしたの?」
「いや、なんというか。…お前、悔しいのか?」
なぜ、そう思ったかわからないが、そんな気がした。なんとなくだが。
「はぁ?」
女の子は次々にスライム作りだしていたが、攻撃力がないことがわかると、ヤンキーは次々にそのスライムたちを蹴り飛ばしたり殴り飛ばしたりした。
「…わたしには、それが生物かどうかも怪しいのだけど」
「いや、そんな気がするんだ。桃、耳を貸せ」
「…?」
助けるつもりはなかったが、見捨てたくもなかった。なんとなくなのか気の迷いなのかわからない。だが、力のないその姿や、無力を嘆く姿が、自分と重なってしまったのかもしれない。正しいことを口にして、正しさが認められないのは、胸くそ悪い。
「いい加減にしろこのクソ女。いつまでも変な手品をしてるんじゃねー」
「あ、あ、つえが、」
リーダー格の男は、少女の杖を奪い取り遠くに投げた。
「はっ、はぁ、これで、どうしようもねぇだろ?ビビらせやがって。能無しのてめえがすることなんてすべて無価値なんだよ。何を正義感ぶってんのかしらねえが、力がなければ何の意味もねぇのさ」
男は少女の髪を掴むと、地面にねじ伏せた。
「…う、この世界でも、は、わ、私は、役立たず、なの、」
「ぎゃははははは!お前は、サンドバッグにしてやるぜ」
男は、泣いている彼女の腹を蹴ろうとする。
「そこだーっ!」
ぶよん。
彼女とやつの足の間に、スライム投げ込んだ。けられたスライムは、彼女の体を押し出し、男との距離をあけた。
「あ?なんだ?」
「桃ぉ!!!」
人質は遠ざけた、後は奴を倒すのみ。
「おうよ!!」
折り畳み傘を拾い彼女は走り出し、小さくジャンプする。着地点にあったのは、スライムだ。大きく彼女の体は跳ね上がり、ヤンキーの頭上高くに陣取った。
「天下無双流っ!!!」
「ち、なんだっ!まぶしっ!くそっ」
男からは、太陽を背にした桃の姿は見えない。闇雲にナイフを振り回す。あれじゃあ、桃の一撃が届かない。
「絡みつけぇ!水まんじゅう!!!」
上を向いたヤンキーの隙をみて、近くにあったスライムを投げつける。スライムは体の形を変えて、男の体に巻きつく。
「ぬあああ。くそっ、腕が、動かなっ!」
「桃ぉ割りぃいいいいい!!!!」
桃の一撃が男の脳天を捉えた。