桃太郎
「許すまじ許すまじ許すまじ許すまじ!」
妙齢の美女が恨み言を唱えている。小さな家屋には不釣り合いな豪華な和服。長い黒髪は艶やかで美しく、切れ長な目は知的に澄んだ色をしていた。彼女は怒りを抑えられない様子で、囲炉裏の周りをグルグルと回っていた。
「まぁまぁ、気持ちは分かるが落ち着きなさいな。まずは座ってこれでも飲みなさいな、乙姫さん」
人語を話すクマが湯のみを差し出した。彼女はクマの言葉にしぶしぶしたがった。
「すまぬのぉ、ってなんじゃこれは!!」
「え?蜂蜜ですが」
「このうねうねしたのはなんじゃと言っておる」
「はちのこですよ!栄養豊富ですよ」
クマはにっこり笑い、美女は気絶した。
「騒ぐなら、自分らの世界に戻ってくれやしませんかい?くまの旦那に、乙姫の姐さんよぉ」
天井から声がする。
「そうはいうが、あんたの呼びかけで我らは集まったんですよ、キジさん」
クマはのんびりと言った。
「早く、降りてきなさい」
「無理だ。犬のアニキも、猿の旦那もやられちまった。金太郎も浦島太郎も、重体だ。オイラみたいなサブキャラ、一瞬で殺されちまう。怖い、怖いんだよ」
金太郎の名前が出て、クマの表情が陰った。金太郎と相撲をとっていたら、突然現れた異邦人。彼らに驚いていると、突然斬りかかってきた。金太郎と共に応戦しようにも、まさかりは仮面の女に奪われ、魔法によって一方的に叩きのめされてしまった。
「12の魔女たちにも声をかけました。誰が派遣されるにしろ。きっと力になってくれます」