ネズミの魔女②
彼女の家へと続く道は俺の住んでいるアパートへの道と一緒だ。いつも分かれ道になる公園のところまで一緒に帰っている。この公園は、親父ともよく遊んだ場所でもあり、あの不気味な女と出会った場所でもある。俺が勇者を目指して、日々活動していた黒歴史とも言える場所でもあるが。住宅地の中にあるにはそこそこの広さがあって、憩いの場になっているのと同時に、夕方や夜間は不良のたまり場にもなっている。俺たちは、公園に近づいていった。
「ねぇねぇ、今度夏休みになったら祭りに行こうよ」
「いやいや、夏休みこそ稼ぎ時なんだから、がっつり稼がせろよ」
「えー」
残念そうに文句を言う感じではあったが、事情は知っているので、あまり深くには言わなかった。
「…じゃあ、さ」
桃はいつもと雰囲気が違った。どこか儚げで、不安そうな顔をしていた。いつも快活で元気の良い彼女としてはあまり見ない表情だった。
「今度あんたの家に行ってもいい?」
「はぁ?」
突然の問いに少し声が裏返ってしまった。
「なんでだよ」
「ほ、ほら!小さい時はよく遊んだじゃない。それにおじさんにいろんなお話を聞かせてもらったじゃん」
「親父…」
確かに小さい頃は、よく遊んでいた。親父の作る話を桃と一緒に聞いたこともよくあった。
「まぁ遊ぶのは無理だとしても、料理を作ったりしてあげれるよ」
「モモの料理ぃ?」
「ちょっと待て、コウ。なんだその反応は。かわいい女の子が手料理を振る舞ってやるって言うんだぞ。這いつくばって土下座して歓喜の雄叫びをあげるべきだろ」
正直、親父と2人暮らしだったのである程度の家事は全く問題なくできる。掃除に洗濯に料理。とは言え料理に関してはほとんど野菜炒めやカレーなどの煮込みものばかりだったので、ありがたいと言えばありがたい。だがこの女の料理の腕前に関しては全くの未知数だった。
「じゃぁ、お願いするか」
「ヨッシャー。首を洗って待ってな」
「そのセリフはおかしくないか?!」
彼女が予想以上に喜んだのと、ぐへへへへと笑い始めたのに若干引きつつ。彼女が独り言のように
「…肉はどうしようか。牛は高すぎるし、鳥は普段から買ってるだろうし。せっかくだから珍しいもの食べさせてあげたいなぁ。そうだイナゴを捕まえよ。カエルでもいいな」
とつぶやき出して、自分の決断が間違っていたことをさとる。彼女が自分の世界に入っていくのを感じて、なにげなしに公園のほうに顔を向けた。何やら普段と様子が違い、不良たちが誰かを囲んでいるようだった。