スライム太郎⑦
「?桃太郎だぞ、桃太郎!ふざけてるのか?」
「ドウシタンダヨ!コウタロウ!」
「人の名前か?ありがとうな。なんかとっても凄い品なんだろうな、この刀は」
プヨとパトは顔を見合わせた。何か大変なことがおこっているようだが、おれは知らぬ他人より、身近な人だ。
「もう時間がないんだ。そんなどこのどなたか分からないやつの心配してる場合じゃない!」
「…あ、ああ」
「パト、マズハ、サンビキノコブタ、カラダ」
刀を携え、プヨをカバンに入れた。俺も獣人では無いため、フード付きのマントを羽織り、豚の待つ城へと向かう。
豚の城はパトの家から数キロ離れた街の中にある。こじんまりはしているが、しっかりとしたレンガ造りの街。パトによるとこれは三男の能力らしい。「創作」魔力を変換し、物をつくる能力。この力は3匹とも持っているが、三男の力が1番強い。長兄は藁、次男は木、三男はレンガと得意な素材はそれぞれある。
「人が少ない、いや、女性がいないのか」
先ほどからすれ違う人たちは皆男ばかり。それも年寄りばかりだった。兵隊たちに見つかるのを避けるために大通りから1本中に入った裏道を通ことになっていた。
「…女は三男のところに、男は他の物語への戦争にかり出されている」
声を低くしてパトは言った。
「じゃあなんで、豚に逆らわないんだ。3匹の豚じゃないか」
「…物語の世界において、主人公は絶対だ。そこら辺のモブキャラでは勝ち目は無い。」
「…そんな。でも3匹の子豚では、狼は豚たちの家を吹き飛ばしていたじゃないか」
「圧倒的な力を持っているから主人公なんだ。敵役は、主人公に対抗はできるけれども負ける運命にある。勝てる可能性があるのは、お前たちみたいな異邦人や他の物語のキャラクターだ。とは言っても、やはり物語の主人公は強い。それに豚たちはやり方が巧みだった。町の住民に生活が苦しいのは外の世界からやってきた魔女や異邦人のせいだと、女子供は城で保護してやっているんだ。外の世界と戦わないとこの世界がなくなってしまうと言っているんだ」
「…だから魔女たちの処刑の発表であんな風に」
「ネズミチャン、シンパイ」
「…プヨよ。おそらく三男は邪魔者の排除とともに、町の住民のストレスのはけ口にするつもりだ。時間通りに処刑を行うはずだ」
「それまでに助け出さないと」
ふと、パトが辺りを警戒し始めた。
「どうしたんだ。パトさん」
「…魔力の昂りを感じる。それに街中にいるはずの兵隊の数が少なすぎる。普段は城に近づけば近づくほど、兵の数が増えるのにだ。城の中で何かあったようだ」
「急ごう」




