ネズミの魔女①
「コウ、コウ!コウタロウ!!」
「俺を太郎って呼ぶんじゃねぇ、ふが?」
誰かが俺を揺さぶっている。昼下りの午後。気持ちよく寝ていたところ強引に起こされる。ふと顔を上げるとそこには1人の女の子がいた。
「バカタレ!やっと起きた。ほら、授業終わったよ」
彼女は長い髪をかきあげて、あきれたように言う。
「ちょっとバイト入れすぎなんじゃない。五六時間目ぶっ通しで寝るなんて」
「はぁ、仕方ないだろ。さっさと借金返して、俺は自由の身になりたいんだから」
「あーかつてのヒーロー様が、世知辛いね」
カラカラと笑う。不思議と嫌な感じはしない。彼女は鬼瓦 桃。幼なじみだ。俺の境遇もしっかりわかっている。みんなが腫れ物みたいに関わってくるのに対して、彼女は遠慮と言うものがなかった。逆にそれが心地よくもあった。両親がいないことやお金の事は俺の中ではもう仕方がないものとして落とし込んでいる。教師たちも、必要以上に関わろうとはせず、惰眠を貪るが、髪を染めようか、一切注意することなかった。
「ほら、帰るよ!このつんつん頭!花を生けてやろうか」
「やめろや。1人で帰ればいいだろ?」
「ノート見せてやんねぇぞ」
「…いつもの公園までな」
なんやかんや世話を焼いてくれる彼女には頭が上がらない。腐れ縁なのかこの学校にいて2年間、こうやって帰る日々が続いている。彼女も部活があるので毎日毎日と言うのではないし、俺もバイトをいくつも掛け持ちをしているので、週に3回と言うところだ。