スライム太郎⑥
桃たちが脱走劇を繰り広げているころ。
「…は?」
コウタロウはスライムから、宝玉を渡された。
「ネズミちゃん、カラ、アズカッタ」
宝玉は灰色の水晶のようで、中は満天の星空のようにいくつもの光がキラキラと輝いていた。
「…娘のとは色が違うな」
パトが覗きこんでいった。
「これがここにあるってことはチュー子は魔法が使えないってことじゃないのか?なんで!」
「…お前を助けるためだろ?見たところかなり魔力が込められてるな。転移魔法の類か?よく練られて、複雑な魔法式だな。宝玉っていうのは、神から与えられ、一族が代々継いでいくもんだ。おいそれと他人に渡せるもんじゃない」
「ちゅー子…」
「おれは異邦人2人を逃がしてほしいって言われた。娘の友人じゃなけりゃ喰い殺してたかもな。」
「なんで止めなかった!」
「俺には関係のないことだ。それに、結果は見ての通りだ。12人の魔女は、娘も含めて、弱くない。そいつらが何人もやられてるんだ。豚たちが厄介なことはわかるだろ?最後に1度だけ聞く。」
パトは、研いでいた小刀の切っ先をこちらに向ける。
「…死ぬ覚悟はあるか?いまなら、あの娘は無理でも、お前だけなら元の世界に帰れるぞ。」
「バカ言うな」
「死ぬ覚悟なんてあるか!桃とチュー子、それにあんたの娘。ぜーんぶ助けて生きて帰るんだよ!」
「…そうか。じゃあ受け取れ。」
パトは小太刀をくるりと返して、鞘に収め、自分に差し出した。
「…ありがとな。これは礼だ。昔、桃太郎と旅してた時に、異邦人と戦い『吉備津の大太刀』と呼ばれていた刀が折れちまった。そいつを貰い、おれの牙と一緒に鍛え直した。魔を切り払い、悪を穿つ。天下無双の『吉備津丸』だ」
小太刀と言うが、十分な長さの刀だ。
「…俺、刀なんて使えねぇよ」
「大丈夫だ。その刀は魔力を吸い、成長する。桃太郎が使った記憶が眠ってる。持ってるだけでも、少しはマシになるだろう。」
「…なぁ、桃太郎ってなんだ?」