スライム太郎⑤
「桃っていったっけ?威勢がいいのはいいが、どうやって、この牢屋から、出るんだ?わたしたちは魔法を奪われてんだぞ?」
「ふっふっふ」
桃はちっちっちと指を振る。
「ちょっと、見てて。…あらん。そこのハンサムな豚ちゃん?わたしと楽しいことしない?」
豚の看守はちらりと桃の方を見て
「…はぁ」
と溜息をついた。桃の額には青筋が立ちかけたが、わたしも、高校生。いい大人である。と自分にいい聞かせて、めげずに声をかけて行く。
「桃はぁ、とっっっても、かわいい女の子だよぉ」
上目遣いで相手を見つめる。
「…はっ」
「鼻で笑うなよ!くそがあああ!」
鉄格子が広がった。
「おぉ!やるじゃん。桃」
「わたしは!かわいい!女の子!じゃい!バカタレが!!」
とびひざげりを相手に食らわせ、襲いかかる。
「ガッハッハッ!やるねぇ。みぞおち殴ってから、崩れる相手の顎に回し蹴りたぁ!今度あたしと殺り合うか?」
「は、はやく逃げないと、豚さんたち来ちゃう!」
桃たちは看守を檻に閉じ込め、牢を後にした。
「ところでよぉ、馬の魔女よ。お前、あの魔法あんのに、ぶち込まれてるのはどういうわけなんだ?」
牛の魔女が息を潜めながら問う。
「あたし達が聞いたのはイノシシの魔女に馬の魔女がやられたって話で、三匹の子豚けしかけてんのは、イノシシの魔女だと思ってたんだが」
馬の魔女は長い白髪をかき分けて、不満げに話す。
「わたしが、あの子に遅れをとるとでも?冗談じゃないわ。わたしがやられたのは、異邦人の男によ。イノシシの魔女から救難信号うけて、のこのこやってきたら、宝玉取られて、1度魔法使ったあと、これじゃないっていって、捨てやがったのよ。あの男!豚に取られたのは、想定外だったけど!」
「異邦人って?」
「えっと、桃ちゃんみたいに別の世界から渡って来た人達のことをいうんだよ。わたしたち、12人の魔女は、異邦人たちを元の世界に返してあげてるの。じゃないと物語に取り込まれてしまうから」
「まぁ、めったに居ないがな。それにたまーにこの世界にとどまっていくやつもいるな。たしか、桃太郎や金太郎たちがそうじゃないか?」
「ふぅん」
桃は首をひねる。
「桃太郎?金太郎?だれそれ?」