三匹の子豚⑫
「あの野郎っ!!」
「ヨクモネズミチャンヲ」
2人の怒りは怒髪天をつく勢いだったが、にぶい痛みが、現実に引き戻す。獣人の男が胸ぐらを掴み、こちらの顔を睨みつける。犬歯から漏れる唸り声に、相当な怒りを噛み殺しているのがわかる。
「…で、だ。おまえたちは何を考えてる」
掴まれた胸ぐらの手を払う。男は静かにこちらを眺めている。
「あ?あの豚野郎を1発ぶん殴る」
「ソーダ!ソーダ!」
「…先程、俺に殺されかけたのにか?」
男は、石槌を肩からあげて、再び構える。
「たかが、スライム。たかが、人間。何が出来る。」
「それは…」
先程もスライムが居なければあっけなく、自分は死んでいただろう。あの風の魔法の対策も考えれていない。あの近衛兵たちの数、考えれば考えるほど、上手くいく気がしない。だけど。ちゅーこが、あの、ちゅーこが、あそこまで言ったのに、動けないままなのか。
「デキル!!」
スライムがさけぶ。
「コウタロウ、オレとモモをツカッテ、ニンゲンタオシタ!」
スライムは熱く語る。
「アンタモクワワレバ、アイツニカテル!アンタオオカミナンダロ?」
狼の獣人は大きく笑い、ため息をついた。
「…ばかか。物語の中で、狼はどうなる」
一言一言、彼にでは無く、自分に言い聞かせるように。引くな、逃げるな。女の子にだけ、覚悟決めさせて逃げるんじゃない。
「…できない理由をさがしてるんじゃねぇよ…」
小さな声が口から漏れ出た。これは、自分への言葉でもある。
「あ?」
「物語がなんだって言うんだ!!!」
「この世界じゃ、物語が全てだ!!!」
男の毛という毛が逆だっていく。
「ああ、やったさ!俺だってな!あの豚野郎に!何度も何度も挑んださ!だがな、硬い城壁に!あの魔法に!何度も拒まれた!」
言葉を刻むごとに、身体が大きくなっているようだった。肉薄し、目と目がぶつかるほど近くに顔がある。
「だからって、あきらめるのかよ!」
「あきらめるだと!!!」
彼は、石鎚を横に振るった。壁が跡形もなく破壊される。
「諦めきれるものか!!あの魔法は!犬の魔女の!おれの娘の!魔法なんだぞ!!」
怒号のあとの静かな空気が、時を止めたようだった。