12人の魔女
ロウソクの明かりが室内を照らしていた。
窓やドアのないその部屋には、12この魔法陣が円を作るように描かれていた。1つはチョークで、1つは宝石で、1つは動物の死骸で、一つ一つ異なる媒体を使っていた。陣の中央には、仮面を被った長髪の女性がひとり。仮面には模様はなく、ただただ白かった。スーツ姿の彼女はどこからかマイクを出して高らかに宣言する。
「魔女会議はっじめるよ〜ん!」
その女の声を皮切りに、室内に声が現れ出す。
「なんで、てめぇが仕切ってんだ!部外者のくせによぉ、いっつもいっつもよぉ!」
「とらぁ、ぅるさぃなぁ、あたしは、ぃまねむいんだょお」
あくび混じりの声が横入りしてきた。彼女たちが喋る事に魔法陣が輝く。
「羊!あんたはいつもいっつも眠たいでしょうが!蹴っ飛ばすわよ」
気の強そうな声がツッコミをいれる。
「う、うさぎさん、け、けんかは、だめ、なんだよ」
「ガッハッハッ!けんか止めてぇなら、でかい声出せよ!ネズミ!」
豪快な笑い声に、小さな声はかき消されてしまった。
「うしの、おまえさんの声はかなわんわい。もうちっとどうにかならんかのぅ」
「りゅうさまの言う通りです。もう少しお淑やかに出来ませんか?」
老婆の声と、きっちりとした声がたしなめる。
「お淑やかぁ?駄犬が、お貴族ぶってんじゃねぇよぉ!貧困街の野良犬だろうが、てめぇはよぉ!」
「やんのか、猿?」
先程の声とは違い、低くドスの効いた声に変わる。
「あん?買ってやるわ、その喧嘩!!」
「もう!魔女会議開始時刻から、3分20秒もたってしまいました!!早く!始めないと!!」
「鶏ちゃんマジパネェし、せっかち過ぎて、蛇ちゃん的にはまじ萎えなんですけど。ひっひっひぃ!」
音声とともにたくさんの時を刻む音が聞こえてくるとともに、気だるげな声が笑う。
「とりあえず、近況報告からはじめますか」
勇者が死んでからというもの各地で魔物が発生していること。
魔王が居なくなったことにより、共通の敵がいなくなり、人間同士が争いだし、それぞれの地域で国が乱立していること。
おとぎ話にルーツを持つ人間を含めて、魔物や魔獣、亜人が魔力を求めて、魔石や魔力もちを集め、略奪し、力を蓄えていること
異世界からの転生者や転移者たちが、こちらの世界の魔法法則や物理法則を無視して、暴れまわっていること。
「はぁ、溜息が出るわね。いくら私たちが各地で魔力の調律しても、これじゃ、キリがないわ」
「犬っころのへっぽこ魔法じゃしかたねぇわな?」
「あ?」
「あ?」
「やめんか。みっともない。ぬしらはほんとに昔から。いいかげんにしないか。じゃが、この現状はどうにかせんとな。おい、『仮面』の」
「ほい!なんですか?」
「例の計画はどうなった?」
「はいはーい!!今来てない御二方なんですけどぉ?うまさんはいのししさんによってぇ!やられちゃいました!」
仮面の女の突然の報告に静まり返る。
「たくよぉ、『さんびきのこぶた』と組んでからちょっと調子乗りすぎじゃない?いのししのやつぁ」
「う、うまさんは、」
「あん?規定通りなら、いのししのやつに魔力奪われちまってんだろ?」
「魔女の魔力が奪われるなんてまじありえねぇんですけどぉ!けんきゅうしたぁい!」
「気色悪いぜ、蛇の姉貴。でよ、案内人」さんよ。これで、この儀式で『太郎』どもをたおせるんだよな。これはいいことだよな?」
「わたしは古い儀式を紹介しただけで〜す。『生き残りし勇者を迎え、12人の魔女の力を合わせれば、世界に安寧がおとずれるだろう』われわれの世界を古くから、守ってくださってる魔女の皆様方が、ただ、滅ぼされるなんて、つまらなくないですかぁ?」
「だからってぇ。ころしぁぅのはぁ、ぃやだなぁ。ぐぅ」
「寝てんじゃないわよ!ちからを合わせるって普通に協力すればいいじゃない!」
「ですが、現状われわれの魔法はそれぞれ違いますし。組み合わせるにしても、12人の魔法をひとつにするのは」
「だから、『魔女の心臓』ですよ」
再び場が静まり返る。
「意思が存在するから面倒なんですよ。力の源だけでいいんですよ。殺す必要はありません。『心臓』なんて言われてますけど、形は様々ですし。1人に集めてしまえばいいんですよ。なんなら私が皆様の代わりに」
「やだね」「いやですわ」「ガッハッハッやなこった」
「ぃやだぁ」「拒否する」「い、いやです」
「マジめんどい」「いやじゃのぅ」「なめんな!」
「食い殺すぞ、小娘」
「神の使いかなんだか、知らねぇけどよ。俺たちは俺たちで付き合い長いんだ。どーせやるなら、まだこの12人の誰かにやってもらうほうがマシだぜ。そこの犬以外ならな」
全員から殺気が向けられる。
「はっはっは!冗談ですよ!冗談!神に誓いますって。じゃあ、はじめの予定通り、それぞれ勇者を見つけて、互いを探し、生き残った1人が、世界を支配するでいいですか?」
沈黙で、同意
さて、と彼女はスーツからスマホを取り出し、どこかへ電話をかける。
「もしもし神様ァ!首尾はバッチリですよぉ!」
彼女はスピーカーに変え、全員に聴こえるようにした。
「げっげっげ!12人の魔女たちよ。久しいな」
「何年ぶりですかねぇ」
「13年と5ヶ月と23日、11時間…」
「うっとぉしいっていってんだよぉ、ふぁ」
言葉を遮る。
「ね、ねこさんが、つ、追放され、たぶりかな。ほ、ほんとに、神様、わ、わたし、ころしぁぅのは、い、いやだよぉ」
「げっげっげ!何を今更。ここにいるのは、先程のねこも含めて、数多の魔女たちを押しのけて今の座にいるものたちではないか。もはや、世界は乱れきった。再度選ぼう。世界の安定をもたらすものを。我が世界、異世界、人種、種族一切合切問わない。好きに選べ」
魔女たちの魔法陣が消えていく。
「最後の一人が新たな神だ」