三匹の子豚⑤
「わたしが、きいた、お話は、ちがう」
げっげっげ!
あるところに三匹の子豚がいたようだ。
長兄は田畑を耕し、藁を編み、鍛えた筋肉で牛魔王を倒し、
次男は森の中で、愚かな犬の魔女を食べ、風の魔法を使った。
三男はイケメンで、一夫多妻制をしき、ぐーたらと暮らしていた。
三匹の子豚は国をつくった。風ごときでは吹き飛ばないレンガの国だ。意見するものは豚箱入りし、反乱するものは豚の餌となりました。
めでたしめでたし。
「…悪趣味にもほどがあるぜ。どこがめでたしめでたしなんだよ」
「…た、たしかに、そ、そうだよね。三匹の子豚の国に、手を出してはならないってのは、有名なんだよ。逆らって、も、戻ったものはいないんだよ。」
「…だったら、見捨てるのか!桃はお前を助けるために!」
「…っ」
「さっきの公園だって、今だって!桃は損得感情で動いてたか!ちがうな、あいつは!何も考えちゃいない!お前を救う以外な」
「…わ」
また、こいつはモゾモゾと話すのか。何のために。
「あ?!この期に及んで!まだ、おどおど誰かの影に隠れるのか」
「…隠れるのが、いけないの…?」
彼女の反応は少し予想とは違った。彼女の瞳は潤んでいたが、強い敵意の炎を宿していた。
「わ、わたしだって!力があれば!たくさんの友達を失わずにすんだ!あなたに何がわかるの!家族が!恩人が!簡単に消えてしまう!そんな世界に生まれたの!誰かの、影に?そ、それは、あなたでしょ!も、桃さんの、か、影に隠れて!」
「…なんだと!」
「み、見てれば、分かる!あなたこそ!影に隠れて、偉そうなこと言って!わたしにさえ、分かる。あなたがあなた自身を縛っているのが!」
「お前に何が分かるんだよ」
「龍太郎が言っていた。息子もタロウだって、勇気があって優しくて」
「は、連絡もよこさない、クソ親父が。どうせ、そっちの世界で俺達のことも忘れて、楽しんでたんだろ?ロクデナシなんだよ。おれたちを捨てたんだ。」
「…龍太郎の悪口は許さない。」
彼女は杖をとり、そして、こちらに向ける。
「なんで、この人が「タロウ」なの?」
「は、タロウが勇者の証か何か、吹き込まれたんだろ?俺に世界を救えとか言うつもりか?やだやだ、現実と虚構の違いも分からない大人なんて」
「ちがう」
彼女は悲しげに言った。
「龍太郎は、わたしに逃げろって、こっちに来たらコウタロウを頼れって。必ず力になってくれるからって!そして、2人で逃げろって。」