十二年越しの想いの発露
すれ違ってハピエンになるお話が大好物です。
「お前が好きだよ」
親友が、あんまりにも哀しそうに笑うから。
「言うつもり、なかったんだけどな」
親友が、ひどく苦しそうにこぼすから。
「じゃあな、元気で」
親友が、永遠の別れのように告げるから。
心臓が張り裂けそうなほどドクドクと脈打って、腹の底から行くなと叫ぶ。
無情にも消えていく後ろ姿を、引き止めるための言葉がひとつしか出てこなくて。
それがきっと、いつか傷をつけるとわかっていながら、その言葉に縋るしかなかった。
追いかけて肩を掴む。
驚いたように目を見開いてこちらを見つめるお前に、俺がとっさにとった行動は
「付き合おう!」
正解だったのだろうか。
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俺たちは今年三十になる。
わざわざ進学した都会の大学もとっくに卒業して地元に帰ってきた。別に都会が嫌になったわけじゃなくて、というかできれば都会で就職して永住したかったけど。
あいつが地元で公務員になるって夢を決めちまってたから。
地元の大学に進学して歳いった祖父母を安心させるために地元で就職するって、ずーっと決めてたからって。
ま、俺は別に大それた夢もなけりゃ叶えたい願望もなかったし、同棲できんならいいかって地元に戻ってきた。
あいつとは付き合ってもうすぐ十二年になる。
高校の卒業式で告われた時は"友"としての好きだった。恋人になるなんて想像もしてなかったし。
きっと、当時の俺は親友のあいつと二度と会えなくなるっていうことが嫌だったんだ。
それが嫌で、繋ぎ止めた。
最初は恋人として接するのに戸惑いがあったけど、"恋人"としてあいつと接していくうちに少しずつ、少しずつ好きになっていった。
手を繋いだだけで顔も耳も、首までも真っ赤に染めあげて目を右往左往する照れ屋なところ。
一人で出来る! って大見得切って作った初手料理が、爆発して炭の味になってしょんぼりしてたところ。
甘えるように抱きついてきて、顔を俺の胸にグリグリ押し付けてくるところ。
ヤるとき、何度も好きだと言って抱きしめてくれるところ。
全部全部、恋人になったから見れた姿で、その姿に惚れた。
友達としての距離じゃ気付けなかったたくさんのことを知って、気が付けば恋になっていた。
顔を合わせたら嬉しくなるし、話したら楽しくなるし、手を繋いだら愛しくなるし、愛を送り合えば幸せになった。
何度か喧嘩することもあったけど、その度に仲直りして繋がりを深めて。
好きな人に愛されて、好きな人を愛することがこんなに幸せなことだなんて知らなかった。
あの時のとっさの判断は間違ってなかったんだ。
そう、思っていた。
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「別れよう」
「……え」
いつも通りの休日。
お互いに肩を預け合って映画を観ていた。
当たり前で、ただただ幸せな時間。
映画が終わると同時にふっと肩の重りが消えた。
そちらを見れば、真剣な顔をした喬椰がいて、別れようと言った。
なんでだと、どうしてそんなことを、って何とか声に出すと、喬椰はひどく哀しそうな顔をした。
歳をとって、皺が増えても変わらない童顔で笑うその顔が、まるで、あの日のようで。
「俺、昭利のこと好きだよ
この十二年、本当に楽しかった
思い出は、もう、充分貰った
だから、もういいよ
今までずっと、付き合ってくれてありがとう
俺の、恋人になってくれて
俺の、想いを叶えてくれて
ありがとう」
ガツンッ! ……と殴られたような痛み。
あぁ、何も伝わってなかったんだと。
この十二年、何度も伝えた愛の言葉も、何度も繰り返した行為も、なんっにも伝わっていなかった。
「本当は、もっと早くに言わなきゃいけなかったんだけど
もう、俺ら三十路だし、結婚するなら早い方がいいし
でもどうしても、どうしても、幸せで、手放せなくて、手放したくなくて、縋っちまった
本当にごめん」
哀しそうに笑う顔を目に映した。
苦しくなって、心臓が締め付けられて、視界が歪む。
「っなんで、んなこと、言う、んだよ」
「今更って、思うよな」
「ちがう、そうじゃ、なくて、」
「全部俺のわがままのせいだ、ごめん」
全部全部自分が悪いのだと言って話を聞いてくれない。
顔を逸らして斜め下を見つめる視線が交わり合うことは無い。
違うだろ、ちげぇだろ。今、いまお前がしなきゃいけないのは。
「っっおれのっ!!目を!見ろよ!」
ガッと肩と顎を掴んで無理やり顔を上げさせれば、揺れる瞳に眉間に皺をこれでもかってよせてキレてる自分が映っていた。
「なんでんなこと言うんだ!
俺がずっとお前に気遣って付き合ってたと思ってんのか!?」
「っ、だって、そうだ、ろ、お前、おれのこと、別に好きじゃ」
「好きだよ!!
好きだ……
何度も言っただろ……
何回も、何十回も、伝えてきただろ……」
「それは、おれ、が、こい、びとだから、それ、で、」
「…………確かに、最初は恋じゃなかったよ
でも、お前と、喬椰と過ごすうちに、好きになったんだよ……
好きになってから、何回も、何十回も伝えてきた……のに
なんでんなこと、言うんだよ……」
悲しくて、苦しくて、悔しくて。
俺の想いが全部全部伝わってなかったんだって。
「ずっと好きだよ……
ずっと、ずっと好きなんだよ……
とっくにお前が好きだよ……」
「……うそ、だ……」
何度伝えても嘘だと言って信じないから、俺は喬椰をきつくキツく抱きしめた。
喬椰からギリって骨が軋むような音がする。
それでも、それ、でも、
離してなんかやるもんか。
「嘘じゃない
大好きだ、愛してるんだ
この世で一番、お前だけを……!!」
腕の中で体を硬直させて震えている俺の最愛。
肩が徐々に温かいもので濡れてくる。
ひっくひっくと嗚咽が部屋に響いて無に溶けていく。
「おれっ、の、ことっ、ほんっと、にっ、すき、なのっ」
「好きだよ
大好きだ
だから、だから、別れるとかもう言うな」
俺の懇願に、顔を上げて頷いてくれた。
その表情は、今まで何度も見た愛しい笑顔だった。
私の中の"萌え"はこういう感じです。
『好きじゃなくてもいいからそばにいて』
最終的には離れる決断をしてもちゃんと両想いなのが良いですね。
閲覧いただきありがとうございました。