第8話 一応カタギの仕事のはずだけどね…。
24時間365日勤務を可能とするよう国の法律で定められた(コレ重要!)、労働組合の無い(コレも重要!)、働けば働く程に時給が下がるお仕事をしていると、上官の中には、
「長時間仕事をする奴が真面目な奴」
という残念な考えをする人間が発生する。というか意外に多い。
超が付くほど優秀な人は、2ヶ月以上先の予定を見越して仕事をし、変更が有り次第すぐに対応するため、定時は無理でも19時前には帰る事が出来る。しかし、残念な思考に陥った人はそういう人を、
「仕事を適当に切り上げて怠けている。」
と考え、余り先を見越して仕事をせずに、何時もバタバタ仕事をしている人間や、上司のプレッシャーに負けて、帰ろうと思えば帰れるけど、残って仕事をしている人を、
「仕事に真正面な人間」
と捉える傾向があり、私生活を犠牲にすればする程真正面だと考える。
俺は仕事が多くて手が回らなかったため、平日は基本的に深夜まで、休日はある程度切りの良いとこまで仕事をして帰る日々だった。
家には寝る為に帰るだけだったので、アパートはガスの契約をせず(ガスの開栓は立会いが必要だが、立会いの予定が立たなかった事も理由)、いつも基地の浴場か若しくは近所の銭湯(休日限定)に通っていた。
基地には夜通し仕事をする人間の為に、浴場を開放している所があり、湯船は使えなくなるが、シャワーは24時間使用可能だった。俺はそこの常連だった。
いつものように22時過ぎにシャワー浴びに行ったら、別の艦の幹部で潜水艦教育訓練隊時代に知り合った上官がいて、
「お前、今日はもう仕事終わるの?」
と。
一瞬、
『【もう】っ何?』
って思ったけど、その時はまだ仕事が終わって無かったので、
「いえ、(今日は)艦に戻って仕事します。」
と言うと、
「いいね!そうで無いと!」
と、ニコニコとメッチャ機嫌が良くなった。
はぁ?風呂入って艦に戻ってから仕事すると確実に日付変わるんですけど?寧ろ帰りたいんだけど!
「やっぱ仕事は真面目にせんとな!」
と言いながら、益々上機嫌に。
『いや、皆真面目にやってるよ。寧ろ無駄を省いて早く帰ろうよ!』
と思うものの、上官相手だから黙って聞いとく。
「いいね、坂井!お前俺の直属になれや。」
いや、何言ってんの?絶対嫌だし。おまけに幹部人事は海上幕僚監部の所掌だし。ペーペーが何言っても変わるわけ無いじゃん。でも、そこは空気が読めるので、
「ホントですか!ありがとうございます、そう配置調書(希望する配置を書く書類)で希望しときますね!」
と回答。まぁ、そんな希望出すわけ無いんだけど。それによっぽど理に適った配置を書かないと希望なんか通らないから、
『希望出したんですけど通らなかったッスね〜。』
とか言ってればバレないし。
「そかそか!待ってるからな!」
そんな事言われても困りますがな。この人の下についたら地獄を見る事が確定してるのに…。
それにしてもなんかヤクザの盃事みたいだな。昔こんなヤクザ漫画見たわ。