第27話 決定的な情報
昨日は大変だった。コリーナに、
「あれは社交辞令だよ。」
って言っても、
「相手はそう思っていない。」
と一点張りだった。仮に社交辞令でなくても、王都を出ればもう会うこともないと言ってやっと納得してくれたが、
「また増やして…。」
と、ブツブツ言っていた。これはカウントに入らないと思うよ?
まぁ、今日は王都観光の日だ。コリーナもキャロも楽しみにしている。とっとと忘れてしまおう。
「で、行く所は決まったのかい?」
「あのね、あのね、お馬さんを見に行って、その後に料理屋さん行くの!」
「お馬さんが見たいの?」
「ピノちゃんが『休日の王道パターン』って言ってた!」
「…………。」
「パパ?」
いやね、ホントに牧場みたいな所で馬見てからレストランで食事するってなら問題無いよ?でも、ピノはジャックさんに性格が似てる所があるから、どうしても確認しないと不安なんだよなぁ…。
「ピノ。」
『マスター、どうしたの?』
「キャロに具体的にどこ行くのが良いって言った?」
『競馬場と居酒屋。』
「それダメ親父の王道だろ!ってか競馬場あるんかいっ!」
「あなた、競馬場というのは軍馬の育成施設のことですよ?」
「そうなの?じゃあ賭け事とかして無いクリーンな施設なの?」
「いえ、賭け事はやってますし、胴元のヤクザ者が蔓延る真っ黒な施設ですよ。」
「はいっ!?国の施設じゃないの!?」
「いえ、賭け事をしつつ、国に軍馬を売り込む民間の施設です。所謂ところの賭け付のカタログみたいなものですね。」
「……別のトコにしない?」
「えー、お馬さん見に行かないの?」
「いや、まぁ、お馬さんを見るだけでいいなら競馬場でも良いけど…。」
結局、競馬場と居酒屋に行った。何だかなぁ…。まぁ鑑定でステータスが分かるので、ステータスの1番高い馬に賭けてれば大体勝てた。ちょっとイカサマ臭いレースもあったが、全体的に勝ち越しているから文句は無い。
そして案の定、居酒屋で注文した料理を食べて全員が“スンッ”とチベットスナギツネの様な表情になった。コリーナとキャロに至っては猫獣人だから、見た目殆どまんまだな。
「ま、まぁ、北部辺境に行けばマシな料理を食べれるようになるさ。」
あまり店の中で話す内容ではないが、そう零したくもなる。
「パパ、いつまで王都にいるの?」
「もう調べる事は調べたから、明日には出発できるよ。」
「リックさんのお知り合いに挨拶しなくても良いのですか?」
「大丈夫だよ、王都では長丁場になれば挨拶しようかなって程度だし。でも、北部辺境ではきちんと挨拶するつもりだよ。」
リックさんの実家があるからな。リックさん達の近況も聞きたいだろうし。
北部辺境を収めるイシュトバーン候爵家の領都であるイシュトバーンまでは、ジルトニアほどの距離は無い。これは北部の土地をヴァルビオ公国に割譲したからなのだが、まぁそれはどうでも良いだろう。
思ったより早く王都での滞在が終わったため、それほど急ぐ必要がなくなった事から、コリーナとキャロの訓練に重点を置いて移動した。それでも1週間後にはイシュトバーンに着いた。まぁ、仮に馬車なら2週間以上かかるらしいから、充分早いけど…。
「あなた…、なんて言うか…、えーっと……質実剛健な街ですね!」
「コリーナ、素直に寂れてるって言えば?」
「でも兵隊さんはいっぱい居るよ!」
「もしかしたら軍事にキャパが割かれて、経済的な発展が後回しになってるのかな?豊かな土地でも無いみたいだし…。この様子だと、もしかしたら国から援助も受けているかもしれないね。」
領都とは思えない位の寂れっぷりだ。とてもじゃないが、国境を守る軍隊を養えているようには見えない。
「さて、この様子だと観光はあまり期待できそうに無いね。宿を取ったら調べものに行くけど、2人はどうする?」
「折角ですので街をキャロと見て回ろうと思います。獣人の文化が溶け込んでいる様なので、何か変わった物が見つかるかもしれませんし。」
「わかった、コリーナ、キャロ、よろしくね。」
取り敢えずユニオンに寄って情報収集をしようかな。そこそこ大きい街のユニオンには酒場が併設されている場合が多いそうなので、酒場で呑んでる振りをすれば情報を持っている人間も見つかるかもしれないし。
結論から言えば侯爵家と辺境伯家についての噂は無かった。皆それ程興味が無いらしい。しかし気になる情報があった。
「食料品の値段が上がっている?」
仕事を終えたイシュトバーンのユニオンメンバーに1杯奢って街の話を聞いていると、そんな話が出てきた。
「全くよぉ…、こっちは日雇いで普段からカツカツだってのに、堪ったもんじゃないぜ!」
「そんなに値段が上がってるのか?」
「ああ、小麦なんて倍近くまで上がってんだぞ。収穫までまだ期間があるから、もっと上がるのは目に見えてるわ。」
「この時期はいつもこんなに値上がりするのか?」
「まぁ、多少値上がりはするが、今年はいつもより大分高いな。今年は不作だったとは聞いてないんだがな…。」
「北部だけだと賄えないだろ?小麦は何処の領地から買い付けてんだ?」
「ここから南の男爵領からだ。なんっつたかな?えーっと、そうだ!メルボル!メルボル男爵領だ!」
「男爵領なのにそんなに豊かなのか?」
「食糧生産だけだけどな。典型的な田舎だ。」
「なるほど…。」
つまりはメルボル男爵領からの食糧が減っているか値上がりしているかが原因である可能性が高いな。最初に食料品の値上がりの話を聞いたときは戦争準備かと思ったが、気のせいだろうか?
「ありがとう、助かったよ。今日この街に来たばかりでね。」
もう1杯飲める程度のお金を置いて席を立つ。
「おぅ!こっちも飲み代出してもらって悪いな。」
「あなた、お帰りなさい。」
「パパ、お帰り!」
『おかえり〜。』
「ただいま、みんな。」
挨拶をして、今後の予定を話す。
「リックさんの実家であるアルビッツ商会はラクヴェレに拠点があるみたいだ。イシュトバーンとラクヴェレを往復する商会らしい。今はラクヴェレに戻っているらしいから、明日はラクヴェレに向かおう。」
「あなた、その後はどうするのですか?」
「特に情報がなければ帰りにジルトニアによって、ムストに帰ろうか。その頃には家も出来てるだろうし。」
「パパ、家って何?」
「今、ばぁちゃんの住んでいる村に家を建てているんだよ。別荘みたいなものかな。今の所引越し予定はないからリズちゃんとも遊べるよ。」
「良かったー!」
ほんとに引越しするはめにならなければ良いんだけどな…。
翌朝ラクヴェレに向かって走っていると、前方で魔物に襲われている馬車があった。ゴブリンのようだが、数が多い。
「援護は必要ですかっ!?」
「お願いしますっ!」
ユニオンで教わったことだが、一言声をかけてないと後でトラブルことがあるらしい。
数が多いとはいえゴブリンなのでサクッと片付けて話しかける。
「大丈夫でしたか?」
「はい、お陰様で怪我もなく荷物も無事でした。ありがとうございます。」
「いえいえ、無事で良かったです。私達はラクヴェレに向かう途中なのですが、よろしければそこ迄護衛しましょうか?」
「いいんですか!?実は護衛に逃げられてしまって…。」
「それはなんとも頼りない護衛ですね…。」
「まぁ、自分の命が最優先なのはわかるのですけどね…。あっ、私の名前はピート・アルビッツと申します。改めてありがとうございます。」
「アルビッツ?もしかしてリック・アルビッツさんのお知り合いですか?」
「リックをご存知なんですか?リックは私の従兄弟です。」
「丁度リックさんの実家を訪ねようと思っていたんですよ。ムストではリックさんに大変お世話になってますので。」
「そうでしたか。どうぞ馬車に乗ってください。ご案内しますよ。」
「助かります。こちらは妻のコリーナと娘のキャロです。」
「「よろしくお願いします。」」
馬車に揺られながら世間話をしていると、極めて不穏な内容が飛び出してきた。
「戦争ですか!?」
「ええ、状況的には恐らく。上手く偽装していますが、食料が国境を越えて公国に運び込まれているようです。ここの所の食料の値上がりはそれが原因かと。」
「領主には伝えてないのですか?」
「有力家臣が関わっているようで、証拠も無く下手に突付けば逆に口封じされそうなので…。」
「ではせめて避難を…。商会なんてやってると略奪の第一目標ですよ。」
「ですが、避難先がありませんので…。」
リックさんの親戚を見捨てることはできないな…。
「コリーナ…」
「あなたのしたいようになさって下さい。」
「良いのかい?」
「ええ、あなたのおかげでウチには余裕がありますから。」
「ありがとう、コリーナ。」
「ピートさん、避難する人は何人程いますか?他の方と話し合わなければならないとは思いますが、5〜6人なら受け入れる事ができると思います。」
「本当ですか!?全員で5人なので、避難するように必ず説得します!」
「道中は私達が護衛を引き受けますから、その点も説得材料にしてください。ちなみにユニオンランクは5ですが、戦闘も得意なので安心してください。」
実はバカスカ薬草採取していたら銅プレートの最高位まで上がっていた。ランクが6に上がってしまうと管理されるようになるため面倒なので、昇級審査は受けない様にしている。その代わり定職につける可能性がグッと高まるのだが、今は稼げているため日雇労働者で問題ない。むしろ都合が良いくらいだ。
「ではラクヴェレについて宿をとりますので、2〜3日したら結果を聞きに行きますね。避難地はムストになりますが、家は宿屋なので部屋は十分に空きがあります。」
「……お客さん来ませんしね…。」
「こ、コリーナ、そういう意味じゃ…。」
「良いんですよ、本当の事を言ってもらって。ウジウジ…。」
「まぁ、あまり宿屋って意識したことないかもなぁ…。」
「ガーーーーーン!」
「でもそっちの方がコリーナとゆっくりできるし。」
「あらあらまあまあ。そういうことでしたら。」
その日は街について宿をとってもゆっくりはできなかった。