第25話 奥様と自称第2婦人
「ところで動き易い格好みたいだけど、キャロと一緒にピクニックにでも行くのかい?」
「えっ?行きませんよ。明日から忙しいですし。」
「明日から忙しいのかい?」
「ええ、王都経由で北部辺境に向かうのですよね?ピクニックなんてしている暇は無いと思いますが…。」
「……?いや、コリーナとキャロは留守番だよ?」
「……?何をおっしゃって居るのですか?当然ついて行きますけど…。」
「いやいやいや!結構な長旅だよ!移動は魔釖術使うし!」
「ええ、ですから魔力量と魔力練度を伸ばすように訓練していましたよ?あなたからもソレを伸ばすように言われてましたし。」
「いや、別にそういうつもりで伸ばす様に言っていた訳では無かったんだけど。」
「では結果オーライですね!」
「テント一人用しか用意していないんだけど…。」
「はい、『何故一人用テント?おかしいな。』と思って4人用の大型を買ってあります!」
「そ、そうかい…。」
「はい、アイテムボックスにテントと大きめのベッド等の寝具を収納すれば快適に旅ができますね!」
「危険かもしれないから家で待っていて欲しいんだけど。」
「お断りします。」
「うえっ!?」
「そもそも何故あれ程簡単に納得したとお思いですか?一緒について行くからに決まっています。そうで無ければ絶対に許可しませんよ。」
「そっか…そう言ってくれるのは嬉しいけど、ステータスを確認して、それ次第では留守番してもらうよ?」
「はい、自信アリ!です。」
『"解析"』
コリーナ・サカイ
種族 猫獣人族
位階 29(73)
生命力 2300(D+1)
魔力量 1920(A+1)
力 480(E+1)
素早さ 1450(B+1)
魔力練度 1570(A+1)
【アクティブスキル】
・魔釖術Lv.7
・忍び足Lv.MAX
・隠密行動Lv.1
・警戒Lv.5
・遠視Lv.7
・高速思考Lv.5
・房中術Lv.2
【パッシブスキル】
・超反応Lv.4
・暗視Lv.8
・気配察知Lv.5
・疲労耐性Lv.3
【称号】
・異世界転移者の妻
【加護】
・異世界人(装備時)
【成長タイプ】
・魔術士
「そ、そんなバカな…。」
「あなた?」
このステータスなら一緒に旅に出ても問題無いだろう。むしろこれで出来ないなら多分すべての人族は街から街への移動など出来ない。っていうか、いつの間にこんなに強くなったのか。それも驚いたが、何よりも驚いたのは…。
「房中術ってアクティブスキルなの!?」
道理で最近は敗戦続きな訳だよ!
「私、最近になって色々とコツを掴みました。それでアクティブスキルに反映されたのだと思います。」
「えっ!?そうなの?」
「はい、ですが夜のお勤めを頑張るあなたにとって残念なお知らせがあります。」
「え…残念なお知らせ?聞かない方が良いような気がするんだが、何だろうか?」
「あなたは私がスキルを習得した為に最近のお勤めは全敗だと思ったようですが、私は今まで房中術のスキルを使っていません。」
「……えっ!?なんだって!?」
「ですから、スキルは使ってないのです。」
「いや、でもLv.2だよ?使ってないのに上がるモン?」
「はい、あなたの外出中に、掴んだコツを忘れない様に訓練していましたから、そのせいだと思います。」
「ええっと、ということは…。」
「あなたにバレてしまったので、今日からお披露目しますね。明日は朝が早いので、今日は早目にお休みしましょう。」
ニッコリ
「お、お手柔らかにお願いします…。」
食い散らかされました…。
「朝日が…、日光が目に染みる…。」
2時間早くベッドに入ったのに、起きたのは何時もより30分遅かった。それでもまだ全力では無いそうな。…房中術恐るべし!
朝食を取って戸締まりをしたら臨時休業の札を掛けて準備は万端、あとはユニオンに報告するだけだ。
「忘れ物は無いかい?身分証明書は持った?」
「はい。」
「うん!」
コリーナとキャロは元々役場で作った身分証明書を持っていた。まぁ、この街の住人なんだから当然の話だろう。
ちなみに俺のユニオンでのランクは今は5になっている。中級のトップで身分証明書は銅製の板にタガネで付けた傷が3つ付いている。マーダーベアの単独討伐成功と大量の薬草納品でランク5まで上がった。ムストでは最速記録らしい。戦闘力も問題無いだろうということで、ランク6への昇級も打診があったが断った。ランク6からは緊急依頼に対する義務やら居住場所の報告なんかの義務があるからな。多少の補助金貰っても割に合わんよ。
「じゃあ、ユニオンに報告してくるね。理由はコリーナの実家に結婚報告って事で。」
「ふふ、実家は獣人の村ですけどね。」
「まぁ、余り詮索されたくないからね。コリーナとキャロは外で待っていてくれるかい?ぱぱっと終わらせて来るから。」
「いえ、嫌な予感がするので、私も一緒に行きます。」
「嫌な予感…?」
「ええ…、天敵に遭遇しそうな予感が…。」
はて?コリーナの天敵って誰の事だ?
良くわからんけど、キャロはユニオンの前で待っているとの事なので、コリーナと一緒に入った。
「コウスケ様!お待ちしておりました!」
視界の端の物陰から"シュバッ"っという擬音語と共に人影が現れた。
「フンッ!!」
「ギャン!!」
声の聞こえた方向を見ると、いつの間にかコリーナが正拳突きの格好で残心をとっていた。その拳の先を見てみると、腹を押さえたファラが蹲っている。
何があったのか大体予測がついたが、君ら本当に一般人かい?本当は暗殺者とかでは?そしてコリーナ、容赦無いね。
「うグゥ…、お、奥様がこれ程お強いとは…。」
「雌豚から主人を護るため鍛えましたから。」
「雌豚ではなく第2婦人です、奥様。お間違え無きよう。」
「ええっ!?」
"ぐりんっ"と音が聞こえてきそうな勢いでコチラを見るコリーナ。『裏切られた!』って顔をしている。
「ち、違う!そんな事俺は認めてない!」
「コウスケ様、嫌よ嫌よも好きの内、です!」
「それじゃあ相手の解釈次第じゃないか!」
「でもコウスケ様は私の事嫌いじゃないですよね?」
「嫌いじゃ無いけど好きでも無いからな!」
「そんなっ!?こんなにも尽くしていますのに!」
「おい!誤解を招く言い方止めろっていつも言ってるだろ!それは窓口業務の話だろ!」
「いつでも身を捧げる用意はしてありますよ?心は既に捧げて居ますので。具体的には毎日隅々まで体を洗って…。」
「マジで勘弁してくれ…。コリーナがいる前でそれは冗談では済まんぞ。」
「私にも第2婦人としての矜持がありますので。」
「そこにループするんかいっ!!だから第2婦人じゃないから!!」
「あなた、私はこの雌ブ…失礼、自称第2婦人とオハナシしなければなりませんので、先にユニオンに報告お願いします。」
肉体言語的なオハナシにしか聞こえない…。
「ほ、程々にね?」
後でこの2人を野放しにした事を後悔する羽目になるが、この時は想像もしていなかった…。
「おや、コウスケ。今日は派手にやらかしてるね。」
「別に俺がやらかしてる訳では無いのですが…。」
「愛されてるねぇ…。」
「嫁と子供からだけで十分なんですが…。」
「で、今日は朝早くにどうしたんだい?」
「嫁の実家に行って結婚報告をしてこようかと。北部辺境らしいので、序でに新婚旅行も兼ねて王都も見学しようかなと。」
「……もしかしてココの所のハイペース納品はこの為かい?」
「はい、それなりに長い間留守にするつもりなので。」
「はぁ、まぁアンタを止める権限はないんだけどね、マスターに嫌味を言われる身にもなっておくれよ。」
「でもマスターに事前調整すると、絶対に許可してくれませんよね。一週間ですら渋々だったのに。」
「まぁ、そうだね。報告してトンズラするのが正解だね。」
「ランク5だから報告の義務も無いですけどね。」
「アンタの薬草納品にはかなり依存してるから、ランク5でも勝手に居なくなって貰いたくないんだけどねぇ…。」
「出来るだけ報告しに来ますよ。」
「ランク6になれば薬草納品の強制依頼で縛れるんだけどね。」
「怖い事言わないで下さいよ。それだとまんまファーマシーゴブリンじゃないですか。」
「いや、ファーマシーゴブリンはまだ自由意志だからねぇ…。」
労働環境がゴブリン未満とか…。
ちょっと切ない気持ちになりながらイートインスペースの中で激論を交わしているっぽいコリーナを回収するため近付いていくと、周りにいるユニオンの人間がニヤニヤ見てくる。何だろう?
コリーナとファラに近付いて理由の一端が分かった。
「そういう訳で主人はそれはもう私に首ったけな訳です!毎日毎日ヤりまくりです!」
「それ程であれば奥様だけでは満足出来ないのではありませんか?ここは第2婦人である私の出番ですね!」
「そのような事はありません!なんせ私はいつも主人を抱き潰しているのですから!」
「それではコウスケ様は飽きてしまうのではありませんか?所謂倦怠期というやつですね!なので偶には違う女を抱くのも良いかと思います!具体的には私を!」
「バカなことは言ってはいけません!主人と私は研究にも余念が無いのです!猫獣人なのにワンワンスタイルもマスターしているのですから!」
ユニオンの人間がニヤニヤしている理由がよーく分かった。マジで止めてっ!!
「コリーナ、報告終わったから行くよ。」
「いえ、まだマウントを取りきっていません!むしろこれからです!」
「キャロを待たせてるから。」
「あ…、そうでした。すみません、ちょっと熱くなってしまいました…。」
いやいや、ちょっとどころでは無かったよ?
「おやおや、まだ話し合いの途中ですよ、奥様。私の勝ちでございますか?なればコウスケ様の上半身か下半身のどちらかを好きにして良いと言う事ですね?」
「待て待て待て!一体何の話だっ!」
猟奇的な条件だな、オイ!そもそもなんてモノを賭けの賞品にしているんだよ!
「ぐぅ、良くはありませんが…、良くはありませんが…。時間も無いので主人が許可を出せば許しましょう。決して良くはありませんがっ!」
「ふふっ、奥様、言質はいただきましたよ?」