第24話 ピノの悪行
珍しく俺が帰るのを引き留めないジャックさんに話し掛ける。
「ジャックさん、何か有耶無耶にしようとしてませんか?」
『な、何のことじゃな?』
「惚けないで下さい、接ぎ木トレント達の事ですよ。放牧場作っても35体までですからね。」
『ちっ!覚えておったか…。』
「…何か言いました?」
『言ってないのじゃ!すぐ集めるのじゃ!』
ジャックさんは土属性中規模魔法のアースムーブであっという間に放牧場を完成させた。地面を凹ませて階段を設置して…。凄いな、自由自在じゃないか。家を建てるのに役に立つって言ってた意味が良く分かる。ただ、ジャックさんのセンスによるものなのか、放牧場というより地面に埋めたバケツの中で生き物飼うみたいな絵面になっているが。
「ジャックさん、残す接ぎ木トレントは選び終えましたか?」
『うーむ、ちょっと待ってくれんかの。接ぎ木が足りないような気がするのじゃ…。』
「眷属なんだから居場所分かるんじゃないですか?」
『それがの、接ぎ木して別の植物と混ぜたせいか、いまいち繋がりが弱くてのぉ…。』
「…つまり?」
『逃げられたかの?ハハハハハッ!』
「笑い事じゃないですよ!あんな新種の異常生物を世に解き放つなんて!」
『まぁ、大丈夫じゃろ。この周辺の魔物はそこそこレベル高いからの。うろついてるレッサートレントなんぞ瞬殺じゃ。』
「…本当でしょうね?」
『まぁ、十中八九狩られるじゃろうの。』
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数年後、多大な犠牲を払いながらも王都の軍や騎士団総出で新種のトレントが討伐され、魔物大辞典が10年ぶりに改訂されるのはまた別の話。
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ジャックさんには泣いて嫌がられたが、お気に入りの接ぎ木トレントを残して処分した。それだけでレベルが30近く上がったんだが、本当に逃亡トレントは他の魔物に狩られるんだろうか?元がジャックさんだから、普通のレッサートレントとは一線を画してそうだしな…。ちょっと不安になってきた。
「じゃあ帰りますけど、ちゃんと管理して下さいね。」
『ワシの新しい趣味じゃからな!イラスト付きで日記もつける予定じゃ!』
それ絵日記っていうんじゃないの?小学校の夏休みの宿題かよ!まぁ、キチンと管理してくれるのなら何でも良いけど…。
ピノには俺と離れないように、一緒に帰るように念を押した。普通に言うと絶対に置いていかれるから。別にフリじゃないんだけどなぁ…。
行きほどでは無いが、そこそこの速度で森を駆け抜けていると、まぁ、魔物が出るわ出るわ…。しかもレベルは60〜70代がメイン。ジャックさんが50以上ないとキツいって言ってた意味が良く分かる。ここの魔物数匹に街が襲撃されたら街が滅びそうですらある。絶対に魔境外縁よりヤバい。魔物大辞典にも滅多に見かけない強力で希少な種って書かれていたような魔物だらけだ。少なくとも辺境伯家の騎士団では太刀打ち出来ないだろう。スキル持ちハイオークにすらまともに勝てないのだから。
街道に戻るまで魔物を殲滅しながら進んだが、まともに換金出来そうな素材やドロップアイテムは無かった。
この世界はゲームやファンタジー小説よろしく、魔物素材で武器を作ることはない。毛皮程度であれば防具に仕立てることがあるといった程度だ。しかも魔物の革製品は臭い上に大して防御力が高い訳でもないため、人気が無いらしく、金属製の防具の方が遥かに人気がある。つまりは魔物を倒しても剥ぎ取る価値が有るものは少ない。精々デビルスパイダーの甲殻が篭手や脛当てに使えるくらいである。街道近くで倒したスライムからスライムの核がドロップしたのが1番嬉しかったくらいだ。そもそもユニオンには討伐依頼なんて普段は無いし、冒険者ギルドはダンジョンの管理が主な業務である。野生の魔物を狩るだけでは誰も儲からない。精々その地域の管理者が得するくらいである。労働者としては丸損である。
「ピノ、ちょっとステータスチェックするから鑑定かけるよ?」
『分かった!』
コウスケ・サカイ
種族 人族
位階 129
生命力 6100
魔力量 870000
力 4500
素早さ 2200
魔力練度 221000
【アクティブスキル】
・魔釖術Lv.MAX
・鑑定Lv.MAX
・解析
・アイテムボックス
・警戒Lv.MAX
・遠視Lv.MAX
・高速思考Lv.MAX
・誘導Lv.8
・範囲化Lv.MAX
【パッシブスキル】
・超反応Lv.MAX
・並列思考Lv.MAX
・魔力回復Lv.3
・睡眠耐性Lv.4
・病気耐性Lv.2
・精神耐性Lv.2
・疲労耐性Lv.3
・暗視Lv.7
【称号】
・異世界転移者
・コリーナは俺の嫁
【加護】
・なし
ピノ(ネームド)
種族 ユニークトレント(♀)
位階 207
生命力 690000
魔力量 20000000
力 67000
素早さ 28500
魔力練度 86000
【アクティブスキル】
・光合成Lv.MAX
・警戒Lv.7
・遠視Lv.6
・並列詠唱Lv.3
・高速思考Lv.MAX
・誘導Lv.4
・範囲化Lv.4
・魔力放出Lv.MAX
・硬化Lv.8
・忍び足Lv.MAX
・隠密行動Lv.7
・念話Lv.4
【パッシブスキル】
・並列思考Lv.MAX
・魔力吸収Lv.6
・魔力回復Lv.6
・魔力感知Lv.6
・全耐性Lv.4
・暗視Lv.5
【称号】
・異世界転移者の眷属
【加護】
・大精霊の加護
・トレント神の加護
俺に関しては、魔力量と魔力練度以外は殆ど上がらなくなってきたな。まぁ、成長タイプが魔術系なので当たり前なのだろうが…。ピノはステータスはどれもよく伸びているが、特に魔力練度の伸びが凄い。元々の素早さを考えれば俺が置いていかれるのも十分納得できる。
それにしても、俺も人族としてはブッ飛んだステータスをしていると思うが、トレント親子のステータスが異常過ぎて全く強くなっている気がしないな。ここまで来たら徹底的にピノを強化してみるか…。
「ピノ、魔法陣登録する?転移魔法陣とか登録できるんじゃない?」
『マスター、転移魔法の大規模魔法陣はまだスロット数が足りないみたい…。他の大規模魔法陣は1つだけなら何とかいけそう。』
「いや、転移魔法以外の大規模魔法は使わないからね?そこの所重要だからね?使う前フリじゃ無いからね?」
『じゃあ、シャドウムーブを登録したい!』
「ああ、影の中を移動するっていう中規模魔法?何か微妙な魔法じゃなかった?」
影に入って隠密行動が出来るのだが、影が消えたら弾き出されるらしい。また、独立した影からは一旦外に出ないと移動できない。弱点は生活魔法のライト。
『マスター、バレなきゃ良いんだよ!それに夜なら最凶だよ!やりたい放題だよ!』
ピノってこんな性格だったっけ?なんか発言が完全に犯罪者のモノなんだが…。
「だけど、夜に外に出る事なんて無いだろ?」
『………………。』
「ピノ?まさか矢鱈と忍び足や隠密行動のスキルレベルが高いのは…。」
『違うの、マスター!遊んでる訳じゃないの!ただ、夜になると維管束がウズウズするほど樹液が騒ぐの!』
樹液が騒ぐって…。
「まぁ、ピノなら危険は無いだろうから大丈夫だろうけど、出かける時は事前に伝えてくれな。」
『……外出ても良いの?』
「悪い事して無いんだろ?なら良いよ。」
『………………………。』
「………まさか何かやってるの?」
『ちっ、違うの!柳幽霊のマネして酔っ払いを驚かすのはライフワークじゃ無いの!』
「はぁ……、ピノはそういう所ジャックさんの娘だよな。」
『それは不本意なの…。』
それにしても、創れるかどうかは分からなかったが、いずれは創ろうと思っていた魔法がほぼあった事には驚いた。かつて正真正銘の天才と呼べる存在が居たのだろう。
「あとは飛行魔法が創れれば大体網羅できるな!」
『マスター!ピノ飛んでみたい!』
「ああ…、人の居ない所なら良いよ。」
『やったー!!』
「創れたらだけどね。」
『マスター!頑張るの!絶対に成功させるの!』
「ピノの押しが矢鱈と強い…。」
なぎ倒しながら進むのが嫌なんだろうか?
『音速の壁を超えてやるの!パイロットの憧れなの!!』
「パイロット?」
なんでそんな単語ピノが知ってるの?
『パイロットっていうのはね、空飛ぶ船を操る職業の事なの。』
「よくそんな事知ってるね。」
『うん、この間ね、禁書庫に侵にゅ…、入ったら本に書いてあったの!』
「ピノ…、禁書庫って時点で言い直しても駄目だからね…。」
夜のピノは矢鱈と活動的だな、悪い方面に…。ヤンキーなのかな?
『ごめんなさい…。』
「………見付からないように気をつけるんだよ。」
謝れば良いってもんじゃないけど、ついつい甘くなってしまうな…。
取り敢えずピノは音速の壁を超えたいらしい。……魔法陣に速度制限を付けておこう。ソニックブームでピノの身体がバラバラになったりしたらトラウマになるわ。
ピノと飛行魔法について話しながら街に戻ったが、ピノはもう少し外で遊んでから帰るらしい。見付からないよう注意しておいたが、お願いするから絶対に見付からないで欲しい。主に見つけた相手の為に。今のピノなら口封じとかやりかねんし、口封じしなくても新種の魔物が見つかったって大騒ぎになるに違いない。
ユニオンに400束の薬草束を収めて家に帰るとコリーナが新しい服に身を包んでいた。雰囲気的には昨日のキャロと同じである。
「ただいま、コリーナ。まるで山ガールみたいだね。似合ってるよ。」
「あなた、お帰りなさい。最近は山ガールではなく、単独登山女子というものが流行っているそうですよ?」
「単独登山?それはかなり危険じゃないのかい?魔物もいるかもしれないんだし。」
「一般の人はしないそうですよ。修行における山籠りの派生だそうです。」
「……前々から思っていたけど、女性のアグレッシブさが凄い。」
「そうですか?」
「俺の故郷では魔物が出ると分かってて一人で山籠りする女性は居なかった……と思う。居なかったよね?」
「さぁ、私に聞かれましても…。」
もしかしたらクマ程度であれば気にせずに山籠りしていた女性が居たかもしれない。転移前は渓流釣りやソロキャンプが流行ってたしな…。剣鉈振り回してる女の子も居たような…。




