第21話 ばぁちゃんが凄かった
「じゃあ、高須賀、ありがとな。ハピィさんもお邪魔しました。」
「いえいえ、マサノブさんのお友達なら何時でも大歓迎です!」
「あ、そうそう。高須賀、魔力練度の訓練は続けろよ。今日から暫く時間が無いけど、魔力練度が上がってれば、また来た時に使い方教えるから。」
「えっ?使い方ですか?今のままでも狩りに支障はありませんが…。」
「お前あれから大して訓練して無いだろ。ウチの娘の方が強いぞ。」
「またまた…。」
「いや、マジで。俺もCQB(近接戦闘)ならともかくCQC(近接格闘)限定なら勝てる気がしない。まだ10歳の女の子だぞ?」
「………いやいやいや、機関士より強いとかそんなバカな。そもそもその子獣人ですよね?なんでそんなに強いんですか…。魔力練度が高くないと厳しいですよね?」
「ちなみにレベルも高いし魔力量も結構あるぞ。元々は近接戦闘タイプでも無いんだが、ゴッコ遊びという名の修行で強くなった。」
「それどんなチートですか…。」
「そうは言うが、俺の印象だと獣人族は種族として魔法が苦手って事は無さそうだぞ。」
「えっ!?そうなんですか?」
「魔力操作の最初の導入部に苦労するみたいだが、1度覚えると後は早い。人族よりもよっぽどセンスがある。それにウチの嫁なんて魔導士タイプだぞ。」
「えぇぇ…。」
「あまり常識に囚われると見落とす事が結構あるぞ。まぁ、俺も鑑定スキルが無ければ気が付かなかった事は多々あるが…。」
今度こそ高須賀と別れて村長の家に向かった。
「ばぁちゃん、コウスケだよ。」
ちなみに『ばぁちゃん』という呼び名は獣人族のプロポーズを教えて貰ったときに何故か家族認定を受けて以来そう呼ぶようになった。
扉をノックしながら呼びかけると中から返事があった。
「コウスケ?取り敢えずお入り。」
家の中に入ると矍鑠としたキツネミミのお婆さんが座っていた。
「ばぁちゃん、久しぶり。」
「急にどうしたんだい?コリーナとキャロは元気かい?」
「うん、元気過ぎるくらいだよ。ところでこの村に家を建てても良いかな?」
「そりゃあ構わないけど、なんでだい?」
「街の様子が不穏なんだよ。場合によっては村に移住しようかと思って。」
「それは穏やかでないねぇ。」
今までに得た情報と自分の予測を話した。するとばぁちゃんは意外な話を始めた。
「コウスケ、辺境伯家には関わっちゃあ駄目だよ。あの家は隠し事が多いし、代々の領主は野心的だよ。」
「えっ、ばぁちゃんは何でそんな事知ってるの?」
「昔痛い目を見たからね…。兎に角関わらないことだよ。」
「でも俺がお世話になった人が辺境伯家に目を付けられていて…。なるべく裏で動く様にしているけど、全く関わらない様にするのは難しいかもしれない。」
「その人もこの村に移住すれば良いよ。」
「でもその人は人族だよ?」
「うーん…、コリーナやキャロとも仲が良いのかい?」
「うん、その人の奥さんはコリーナと仲が良いし、娘さんはキャロと親友だよ。」
「それなら一緒に連れてきても大丈夫だろう。ただし、村の場所は分からないようにするんだよ。」
「ありがとう、ばぁちゃん!」
「で、コウスケ。コリーナとは上手くやってんのかい?」
「バッチリだよ!と言いたいところだけど、最近の夜はヤラれっ放しで…。コリーナはちゃんと満足してるのかな…。」
「あらあら、アタシが若い頃はおじいさんが凄くてねぇ。そりゃあ1日に何度もトバされたもんさね。」
「じいちゃんスゲー!!」
「チョットしたコツがあるんだよ。」
ばぁちゃんから夜のお勤めの重要ポイントを教わった。殆どの内容はちょっとした事だったので、帰ったら実践してみようと思う。
「コウスケもまだまだ女心が解ってないねぇ…。」
「申し開きもございません…。」
「観察力だよ、頑張りなさい。」
ばぁちゃんは嘗てかなりの浮名を流していたらしい。当時を知る人達は口を揃えて
『まるでキツネにつままれたかの様だ。色んな意味で。』
と言っているらしい。どんな意味なのかはツッコまない方が良いんだろうな…。
ちょっとしてジェフリーさんが狩りから戻ってきたので、村の端っこの方に土地を確保して家を建ててもらうように依頼した。2世帯住宅の説明をして、2家族住める様にという事と寝室を頑丈にして欲しいという事をオーダーした。何故寝室を強化する必要があるのか聞かれたが、俺にも良くわからん。『良くわかんないけど、嫁のオーダー』と伝えると首を傾げながらも了承してくれた。お値段は土地付きで270万ギル。安っす!
家具の作成依頼をしたり、魔鉱石やブドウジュースなど他に必要な物を買いまくったけど、まだまだ金貨は残っている。
これから迷惑かけるかもしれないので、共益金としてばぁちゃんに金貨100枚渡しておいた。ばぁちゃんは渋っていたが、ダンジョンで拾ったあぶく銭だと伝えると、やっと受け取ってもらえた。まぁ、それでもまだ金貨100枚以上あるわけだけど…。
思った以上に時間がかかったので、今日はユニオンへの薬草束の納品と、錬金術や魔法陣の研究をするか。明日ジャックさんの所に顔出して、ユニオンへ暫く留守にする事の報告を済ませれば、明後日の朝には出発できるだろう。
「お疲れ様です、副マスター。」
「おや、コウスケ。今日はいつもより遅かったね?」
「その分沢山持ってきましたよ。」
薬草束を400束納品した。
「はぁっ!?………あんたねぇ…。」
「明日も同じだけ持ってきます!」
「まぁ、助かるから良いけどね。」
「ところで副マスター!ムストのFGって何なんですか!」
副マスターの顔が苦々しく歪んだ。
「遂にアンタにバレたのかい…。」
「二つ名が付くのは諦めましたが、せめてもうチョット何とかならなかったんですか?」
「とはいってもアレが名付け親だからねぇ…。」
副マスターが指し示す先には、今日は真面目に仕事をしているらしいファラが居た。
「アイツが名付け親?俺への嫌がらせですか?」
「それだったらまだマシなんだけどね、どうやら本当に格好良いと思ってるみたいだよ。」
「そんな…冗談でしょ!?」
「満面の笑みで言ってたよ。『この二つ名を広めればコウスケさんに褒めて貰えますね!』だってさ。愛されてるねぇ…。」
全く格好良くない二つ名だし、そもそも目立ちたくないんだが…。
頭が痛くなってきたので、薬草束の報酬を受け取って家に帰った。400束で20万ギル…。もう遅い気もするが、このペースで納品を続けると絶対目をつけられるので、何処かで納品ペースを落とす必要があるな。でもチンタラ納品してもアイテムボックス内の薬草束は減る気配が無い。ポーションを作りまくるか?多分死蔵する事になると思うが…。
「ただいまー。」
「おかえり!パパ!ねえねえ、お母さんに新しい服買ってもらったんだよ!似合ってるかな?」
「うんうん、よく似合ってるよ。かわいいよ!」
キャロが色合いこそ地味だが、雰囲気が山ガールみたいになっている。そのバックパックも買ってもらったの?修行で山籠りとかしないよね?
「あなた、おかえりなさい。ご飯出来てますよ。」
「ただいま、コリーナ。いつもありがとう。ところで服って高いの?」
「物にもよりますが、一般的には1万〜2万ギル位が普通でしょうか。」
「それは新品の値段?それとも中古品の?」
「中古品です。新品だとオートクチュールになってしまうので、最低でも7万〜8万ギルになってしまいます。」
それ位の贅沢なら偶には良いんじゃないかな?稼いでるし。
「コリーナ、キャロと一緒に一着ずつ服作ろうか。いつも着回しだし、よそ行きの服を持ってても良いんじゃないかな?」
「でも…。」
「今日は20万ギル収入が有ったからね。明日も同程度稼げると思う。チョットくらい贅沢しても良いだろう?」
「あなた…、ありがとうございます。では街に戻ってきたら服を作りに行きましょう。」
「街に戻ってきたらで良いのかい?」
「ええ、急ぐ事でもありませんし。」
「わかった、街に戻ってきたら皆で服飾店に行こうか。」
夕食後に今日の出来事と明日以降の予定を伝える。街を出発するのは明後日の朝、ユニオンに顔を出してからという事にした。
「わかりました、何か用意しておく物はありますか?」
「旅先では調理が大変だからね。お弁当を作り置きしておいてくれると嬉しいな。」
「スープはどうしますか?」
「アイテムボックスに入れておけば熱いままだから、寸胴鍋ごと持って行くよ。」
「わかりました、明日はいっぱい作っておきますね!」
俺のスキルについて、コリーナとキャロには大体教えてある。
「今日ピノのご飯はまだだよね?ピノにご飯あげてくるね。」
「はい、お願いします。」
ピノは念話ができる様になったらしいが、随分アクティブだな。隠れて出掛けてるみたいだし。
「ピノー、ご飯だよ。」
『わーい、マスターの魔力メシだ!』
あ、俺のことはマスター呼びなんだ。それに魔力メシって…。
「ピノ、本当に念話できるようになったんだな。」
『うん?言ってなかったっけ?』
「聞いてないな。それにちょこちょこ外出してるみたいだし。」
『よく散歩に行くよ。リズねーちゃんとキャロねーちゃんにもついていくし。』
「他の人にはバレてないよな?」
『コリーナママには言ってから外出してるけど、他の誰かに見つかった事はないよ。』
「そっか、それなら良いけど絶対に見つからないようにね。」
『見つかったらどうなるの?』
「うーん、襲って来るかもなぁ…。」
『あんな雑魚共、瞬殺で返り討ちだよ?』
ソプラノボイスで不穏な事を言うとアンバランスだな。却って不気味だわ。
「そうかもしれないけど、暴れると目立つからね。お出かけする時は絶対に見つからないようにね。見つかっちゃうと、リズねーちゃんもキャロねーちゃんも困っちゃうよ?」
『そうなの?マスターやコリーナママも困るの?』
「そうだね、困るね。」
『じゃあ、もっと隠密行動のスキルレベル上げとくね!』
おっと、斜め上の回答が来たな。ん?スキルレベルを上げとくだって?
「ピノは自分のスキルレベル分かるの?」
『分からないと上がったかどうか確認出来ないよ?』
「えっ?どうやって?」
『目に魔力を込めると見えるようになった!』
えっ?もしかして鑑定って誰でもできるようになるのか?
「取り敢えずは見つからなければ何でも良いけど、人様に迷惑掛けないようにね。」
『わかったー!』
手を差し出すとピノは俺から魔力を吸い出し始めた。あれ?なんかいつもより多くね?




