第8話 井の中の蛙
「で、ジャックさん、何故こんな所に?」
『じゃって暇なんじゃもん。他のトレントは大体念話が使えんし、使えても会話が噛み合わん…。やっぱジェネレーションギャップってやつかの。』
ジェネレーションギャップって…。
『それにな、若い衆は同じ様な年輪で集まりたがるから、ワシみたいな1500歳超えのジジイは疎ましいんじゃろう。』
年輪差別…。トレントの社会も世知辛いんだな。
「で、誰かと話をしたくて人里に出てきたと…。」
『そうそう、人間であれば話し相手になってくれるかもしれんじゃろ?』
「街に行くのは絶対に止めて下さいね。」
『何故じゃ!?』
「そんなの『滅多に現れない魔物に襲われた』って勘違いされるからに決まってますよ!!」
『話せばわかる!』
「問答無用だと思いますけどね。」
『そ、そんな…。なんの為にワシはここ迄来たのか…。』
「初めて人里に降りてきたのですか?」
『いや、数十年くらい前にも来たぞ。何か怒ってたみたいだから落ち着くまで様子見しようかと思っての。山に帰ったんじゃ。』
「それ必死に撃退しようとしてたんじゃないですかね?」
『そうなんか!?』
「ええ、多分ですが…。」
『ショボい鉄の棒で叩いてるだけじゃったから、機嫌が悪いだけなのかと思っての…。』
哀れな事に守備隊の攻撃は全く効いてなかったどころか、攻撃と認識すらされてなかったみたいですよ。てか、図書館の記録ってジャックさんの事じゃね?
「まぁ、今は俺と話できてるから良いじゃないですか。」
心なしか萎れていた枝葉が艶やかになった気がする。
『そうじゃの!わしと茶飲み仲間になって、これからも話し相手になってくれんかの?』
「それは構いませんが、話す場所は森の奥にしましょうか。」
『何故じゃ?』
「私以外の人間がジャックさんを見ると、ビックリして攻撃してきますよ。」
『むぅ、それはいかん。分かった、移動しようかの。』
イメージ的には『ズシーン、ズシーン』って感じの移動をすると思っていたが、地面の上を滑るように移動している。しかも魔釖術を使わないと追いつけない位に速い。外見詐欺だろ、こんなん。
『ここらで良いかな?』
「ええ、大丈夫だと思います。」
全開の魔釖術で30分近く走ったんだ、他の人間がそうそう寄り付くような場所ではない。
「で、どんな話がしたかったんですか?」
『…………………考えてなかったわい。』
「ええーー。」
『じゃって今までは話すことすらできんかったし!念話じゃってここ最近で覚えたし!』
「最近っていつ頃の話ですか?」
『20年くらい前かの?』
「……、前回街に来たときって念話使えました?」
『ん?使えなかったぞ?前回街に行ったのは、多分7〜80年前じゃし。』
「それでどうやって話をする積もりだったんですか…。」
『じゃって寂しかったんじゃもん…。』
「じゃってって…。まぁ、今後は俺が話し相手になりますよ。」
『ええんか!?』
「まぁ、ジャックさんに街に来られても困るので。次からは俺がここに来ますね。」
『ありがたいのぉ…。』
ジャックさんはさめざめと泣いている。それだけ寂しかったとか、トレント社会から追い出されたのだろうか?それで話相手が居なかった?
「ところで、この辺にトレント居ませんか?」
『ん?何故じゃ?』
「そもそもこの森に来た理由がトレントの樹皮を分けてもらうためなんですよ。」
『うーむ、この辺りじゃと若い奴しか居らんぞ?』
「若い奴?もしかしてレッサートレントですか?」
『まぁ、そうも呼ばれるヤツじゃな。若木も若木じゃからな。』
「レッサートレントじゃあなぁ…。」
『ワシのじゃ駄目なんか?』
「どうなんでしょう?良さそうな気もしますが…。」
『まぁ、とりあえずワシの樹皮を使ってみて、駄目じゃったらその時考えればええ。そもそも樹皮なんて古木のモンか若木のモンかの違いで、みんな一緒なんじゃし。』
「そうなんですか?」
『まぁ、多少は内包魔力量が違うかもしれんが、根本的には同じものじゃよ。』
「なら少し分けて貰って良いですか?」
『おお、構わんよ。持っていきなさい。』
『ベリベリ』って音がしてかなりの量の樹皮が落ちてきた。
『"鑑定"』
【ディバイントレントの樹皮】
ネームド『ジャック』の樹皮。トレント系で最高の樹皮であり、凄まじい内包魔力量を持つ。
ディバイントレントはトレント族の中では現人神として敬われる。
ジャックさん…、他のトレントは恐れ多くて貴方を避けているみたいですよ。
「………。」
『どうしたんじゃ?』
「ジャックさんってエルダートレントなんですよね?」
『そうじゃよ?』
「なんかディバイントレントの樹皮ってなってるんですけど…。」
『ディバイントレント?それはこの前寿命で枯れたワシの父さんのことじゃぞ?』
「いや、鑑定で見たらディバイントレントってなってるんですけど…。」
『そうなんか?まぁ、誤差みたいなもんじゃろ。』
「なんていうか…おおらかですね。」
普通は種族変わったら気にならない?しかも多分他のトレント達に避けられてる原因ですよ?もしかして、ディバイントレントが身内にいたから避けられている原因に気が付いてない?
『まぁ、元々は皆レッサートレントで株分けされて、年数経ったらいつの間にか呼び名が変わるだけじゃからのぉ。それにしても鑑定か…、懐かしいの。』
「鑑定に何か思い入れが?」
『600年前くらい前じゃったかな?いきなり『鑑定』って叫んだあとに、ワシの枝を切り落として逃げていったヤツがおったなぁと思い出してな。変わったヤツじゃったから覚えておるのよ。』
それ多分初代国王じゃ無いかな?唯一鑑定を使えたって伝説になってるらしいし…。
「なんか人族が色々とすみません…。」
『そろそろ枝打ちしないとならんと思ってたからのぉ…。どうせなら、もっと切ってくれれば楽だったんじゃけど。』
「枝打ちとかするんですね。」
『オシャレじゃろ?』
オシャレ目的かよ。
『そうじゃ!お主枝打ちしてくれんかの?』
「それは構いませんが、どこの枝を落とせば良いですかね?」
『それはワシが指示するから大丈夫じゃ!』
1時間ほどかけて指示された枝を切り落とした。地上50m付近での命綱なしの枝打ちは完全に罰ゲームだった。俺高い所苦手なんだよ…。
『おお!サッパリしたの!ありがとう、……ええっと…。』
「コウスケです。」
『ありがとう、コウスケ。また頼むの。』
えっ!?嫌なんだけど…。
「次はいつ頃枝打ちするんですか?」
『ワシはオシャレさんじゃからの、70年周期くらいかの?他の連中は100年を超えてしか枝打ちせんのじゃ。じゃからあんなに枝葉がボウボウなんじゃ。』
多分その頃には俺は生きてないと思います。生きてても枝打ちとか絶対に無理。
枝打ちメッチャ硬かった。全力の魔釖術でも凄い抵抗感があった。これでアクティブスキルの硬化を発動されたらどうやったら切れるのか想像がつかない。
枝打ちしたディバイントレントの枝葉をアイテムボックスに仕舞いながら、そろそろ帰らないとならない事を伝える。
『もうか?寂しいのぉ…。』
「また来ますから。」
『ほんまか!?次はいつ頃来るんじゃ?』
「まぁ、近いうちに来ますよ。」
『そうか、なら10年以内に来てくれると思って良いのかの?』
気の長い話だな!流石は1500歳オーバー。
「普段は何処に居るんですか?居場所が分からないと辿り着けないのですが。」
『ふむ、普段はもう少し奥にいるのじゃが…。毎日同じ場所におるわけでもなし…。そうじゃ、株分けをすれば良い!』
「株分けですか?」
『ワシの子を派生させるのよ。ワシとの繋がりを持つから、その子に案内させれば良い。』
「えっ!?でも念話使えないから意思の疎通は出来ないんのではないですか?」
『眷属にすれば良いんじゃないかの?そうすれば意思の疎通もできるし、訓練次第では直ぐに念話も使えるようになるじゃろ。』
「そうなんですね。育てる時の注意点はありますか?」
『ワシらは魔法植物という種族での。魔力さえ貰えれば大丈夫じゃ。あとは日当たりの良い場所だと尚良いの。食事とおやつは別腹じゃろ?』
「日光がおやつ…。そうなんですね、わかりました。」
『ちょっと待っとれの。ワシ眷属生むの初めてじゃから上手くいくかどうかわからんからの。』
「えっ!?1500年以上生きてきて初めてなんですか!?」
『じゃって眷属生む必要なかったからの。』
「眷属育てて話相手にすればよかったんじゃあ…。」
『あっ……。』
「…………。」
『まぁ、それは今後の課題じゃな!とりあえず眷属を生むぞ!』
ジャックさんは『ふぐぐぐぐ』と言いながら力を込めている。眷属生むのって大変なんだな。
『はぁー!!!』
スポンッ!
えっ!?ニョキニョキ生えてくるんじゃ無いの!?一応植物じゃないの?
『ハァハァハァハァ……、老体にはキツいわい。さぁコウスケ、契約するのじゃ。』
「どうやれば良いんですか?」
『本来であれば闘って眷属になる事を納得させなければならないんじゃが、トレントは直ぐには意思の疎通が出来ないからの。生むときにサービスで眷属になる事を承知させておいたわ。』
至れり尽くせりだな。そこまで話し相手が欲しかったのか…。なるべく話をしに来よう。
『コウスケ、この子に手をかざして魔法陣を展開しながら"眷属契約"と発唱するのじゃ。』
「えっと、それがどんな魔法陣なのか知らないんですけど…。」
『そうなんか?眷属契約の魔法なぞ一般的だと思ったんじゃがのぉ…。』
それはトレント界隈の話だと思います。
『ふむ、ならば仕方ない。コウスケ、お主体内に幾つ魔法陣を登録しておる?空きが無ければ1つ破棄して欲しいのじゃが…。そうすればワシが眷属契約の魔法陣を登録するのじゃ。』
は?体内に魔法陣を登録?
「登録している魔法陣はありませんが…。」
『ふむ?登録していれば便利じゃと思うんじゃが…。コウスケ、お主レベルは幾つなんじゃ?』
「30ですが…。」
これが今のステータスである。
コウスケ・サカイ
種族 人族
位階 30
生命力 2900
魔力量 128000
力 1300
素早さ 1100
魔力練度 92000
【アクティブスキル】
・魔釖術Lv.MAX
・鑑定Lv.MAX
・解析
・アイテムボックス
・警戒Lv.8
・遠視Lv.8
・高速思考Lv.9
・誘導Lv.7
・範囲化Lv.9
【パッシブスキル】
・超反応Lv.MAX
・並列思考Lv.7
・睡眠耐性Lv.4
・病気耐性Lv.2
・精神耐性Lv.2
・疲労耐性Lv.2
・暗視Lv.6
【称号】
・異世界転移者
・コリーナは俺の嫁
【加護】
・なし
うん、化物だな。
『レベル30か…、コウスケ、もっと鍛えた方が良いぞ。』
「えっ!?この辺りでは完全にオーバースペックなんですが…。」
『確かにそうかもしれんが、ワシの住処付近だとかなりキツいぞ?』
「そんなにですか?」
『せめて50は欲しいのう…。』
「どんな魔窟ですか、そこは…。」
『それにワシらみたいに元々体が硬ければ良いが、人族は柔らかいからの。どれだけ生命力があっても、急所に当たると直ぐに死んじまうし。』
「えっ!?そうなんですか?」
『なんで人族のコウスケが知らんのじゃ?生命力の多さは余り関係ないんじゃぞ。死に易さは種族で大分差があるからの。』
「マジっすか…。」
完全にチート化したと思ったけど、油断するとアッサリ死ぬらしい。異世界が厳しすぎる…。