第21話 ジジイの祟り
うーん、実は魔力って奴は自由度が滅茶苦茶高いんじゃないだろうか?特定のスキルがあって、そのスキルを実現する為の手法が魔力操作だと思っていたが、魔力の使い方にスキル名が当てられているだけの様な気がしてくる。
「まぁ、良いか。別に研究者というわけでも無いんだし。それより薬草回収しないと…。」
最後にやった魔釖術がヤバかった。範囲化スキルを覚えてなかったら夕方までに終わらなかったかもしれない。
薬草を回収し終えてアイテムボックスを確認すると、薬草は約1500束あった。1500本ではなく、1500束である。今までの額で買取ってもらえるのだろうか?それとも複数回に分けて持ち込むか?
結局値崩れが怖くて200束ずつ持ち込む事にした。どうせアイテムボックスに仕舞い込むのだから、鮮度は落ちない。それに、たくさん採れる様になったと豪語してきたから準備はしているだろうけど、あまりに多すぎると迷惑だろう。
「お疲れ様です、戻りました。」
「ああ、今日は普段より遅かったね。早く帰りたいからサッサと出しな。どうせ大量に採ってきたんだろ?」
営業時間内ではあるが、ギリギリの時間にユニオンに到着すると相変わらずの副マスター。いつもと違うのはファラの存在だろう。真面目に依頼報告の列を捌いているようだ。
「で、コウスケ。今日は何束採ってきたんだい?」
「200です。」
「…新しい方法を発見したと言っていたからある程度予測できたけど…。アンタの中味はファーマシーゴブリンじゃないのかい?」
「奴に負けるつもりはありませんよ。」
「なんでゴブリンと張り合うんだい…。」
今日もノールックで報酬を渡してくれた。10万ギル。貴族の依頼とは雲泥の差である。
「アンタの薬草束は確認するだけ無駄だからねぇ…。」
家に戻るとコリーナさんが何故か入り口に立っていた。
「ただいま、コリーナ。どうしたの?」
「不穏なニオイを感じた様な気がしたので、アナタをお待ちしてました。」
「不穏なニオイ?」
「はい、そしてそれは正しかったようです…。」
不穏な気配ならぬ不穏なニオイとは何だろうか?
俺に近づくにつれコリーナさんの顔付きがドンドン険しくなっていく。そんな顔でも綺麗とか反則だろ。
ほんわかした気分でコリーナさんを見つめていると、『わたし無関係です。』と主張するかの様な俺の態度にコリーナさんがキレた。
「アナタにも関係ある話ですよ!!」
「えっ?何が?」
「昨日の雌豚のニオイがします!」
「えっ?…ああっ!行き場がないらしくて、ユニオンで働くことになったらしいよ。」
「そ、そ、その雌豚は…コウスケさんに色目を使っていますっ!ニオイで分かりますっ!さらに言えば発情してますっ!!」
「ちょっ、コリーナ!ここ大通りだから!話は中で聞くから、取り敢えず家に入ろう!」
「コウスケさんが!コウスケさんが誘惑されてしまいますぅー!!!」
「お願いだから中で話しよう!!」
「すみませんでした、あなた。興奮のあまり周りが見えなくなっていました。」
「それは大丈夫だけど…、誘惑って何?」
「はい、あの雌豚はあなたに惚れているに違いありません。ニオイで分かります!」
そんなバカな。狂犬ファラだぞ?
「でも、それがどうしたんだい?俺はコリーナ一筋だよ。」
「でもでも…、人族の男性は、頭と下半身が別の意見を持っているとの事ですし…。」
「……誰がそんな事を?」
「以前、愛人になる様に迫ってきた年配の方です。」
「……殺すか。」
俺のコリーナさんに何て事を言うんだ。しかも愛人だと?万死に値するな。森の木に吊るしてデビルスパイダーの養分にしてくれるわ!
「大丈夫ですよ、もう老衰で亡くなったそうですから。」
「そんな年齢で愛人とか…。」
「もしかしたら面倒を見て貰いたかっただけかもしれないですね。」
「下半身云々とか言ってくる時点で違うと思う。それはそうとして、俺は浮気なんてしないよ?」
「………、男の人は必ずそう言うとも言っていました…。」
ジジイ!死んでからも祟りやがって!
「うーん、じゃあコリーナ、ニオイで確認してくれる?」
腕を広げてハグの体勢を取るとコリーナさんは満面の笑みで飛び込んできた。
「ハスハス、コウスケさんの愛情に間違いはありませんでした!ハスハス、アナタの愛を疑ってすみませんでした!ハスハス、何でもしますので赦してください!ハスハス。」
なんか最初に会った時から比べてかなりキャラが崩壊したなぁ…。まぁ、可愛いから大歓迎だけど。
「お仕置きですね、アナタ!お仕置きして下さい!」
ネコミミサキュバスはS寄りだけど、なんかMにスイッチ入ってない?
「両方イケますので!」
「心を読まれた!?」
キャロちゃんに、
『早くご飯たべようよ〜!』
と呼びかけられるまで我を忘れてイチャイチャしていた。ゴメンな、キャロちゃん。
明日から魔境に向かう。その準備もしてきた。正直言うと、この世界の住人は魔物と比べてそれ程強くないように思える。この世界の人の感覚では魔境に行くことを無謀だと思うだろう。コリーナさんとキャロちゃんは俺が魔境に行くことを反対するに違いない。だからといって黙って行くことは不誠実だ。
「コリーナ、キャロ、話があるんだ。ちょっと良いかな?」
夕食後コリーナさんとキャロちゃんを居間に呼び出す。
「明日から仲間の捜索に向かおうと思う。行先は魔境に近い森、いや、恐らく魔境にも行くことになるだろう。期間は2週間。それを超えるようなら1度家に戻ってくる。」
「………嫌だよ、パパ。危ないよ。」
「キャロ、ゴメンな…。」
「うぅ……、わかった…。でも、ちゃんと帰ってくるよね?」
「もちろんだよ、パパはお家に帰るものって決まってるんだよ。」
キャロちゃんはニオイから俺の覚悟を悟ったのだろう、説得するのを諦めた。抱きしめてナデナデしてもキャロちゃんの涙腺の崩壊を防げなかった。
コリーナさんの方を見るとコリーナさんの涙腺も崩壊していた。コリーナさんが俺の背中から抱きついてきた。
「魔境の危険度は森とは段違いだと聞いています。……あなた、どうしても行かないとならないのですか?」
「ゴメンな、コリーナ。今ならまだ間に合うかもしれないんだ。」
「ふぐっ、で、でも、あなたに、あぶ、ないこと、してほ、しくな、いです。いや、です。いか、ないで…。」
「コリーナ、ここで行くのを止めたら仲間を見捨てた負い目を一生感じて生きていかないとならなくなる。俺はコリーナ、キャロと一緒に心から笑って過ごしたいんだ。きっと大丈夫だ、他の人間には秘密にしているけど、俺は結構、いやかなり強いんだぞ?」
それでもコリーナさんは『イヤイヤ』と顔を押し付けながら横に振るのみだった。
どうやって説得しようか暫く悩んでいるとコリーナさんは少し落ち着いたようで、俺の説得は難しいと判断したらしい。
「………わかりました、もう止めません。ですが必ず帰ってきて下さい。それまでは夜のお勤めはおあずけです!」
「帰ってきて来た時は?」
「何でもします!何をしても良いです!どんな◯態プレイでも受け入れます!そして私にズブズブに依存させて、もう2度と危ない真似をしないように調教します!」
「ちょっ、コリーナ!キャロが居るのに!」
「関係ないです!どうせバレるんですから!」
「開き直った!?」
「お母さん、さっきの話どういう意味?」
「パパが留守にしてる間に教えてあげますね!」
「今じゃないの?」
「パパが恥ずかしがりますからね。」
多分これがコリーナさんの素なんだろうな。今まで気を張ってきたのだろう。
「あなた!ある事ない事キャロに吹き込まれる前に帰ってきて下さいね!」
「ある事ない事って…、ない事は吹き込まないで欲しいんだけど…。」
「早く帰ってきてくれれば大丈夫です!」
「…そうだね。でも帰ってきた時は色々と覚悟しときなよ?スッゴイ事するから。」
「はいっ!お待ちしてますね!」
キャロちゃんは『ポカーン』とやり取りを眺めていた。何の話か分からないのだろう。帰ってきても分からないままであって欲しいとは思うが、例え早く帰ってきてもコリーナさんが全て説明してそうな気がする…。
〜〜〜〜〜〜コリーナ視点〜〜〜〜〜〜
昼前にコウスケさんが出かけてから宿の仕事をします。いくら本日のお客様が居ないからといっても管理業務は毎日あるのです。
宿の表を掃き掃除していると、隣の建物から覚えのあるニオイがしてきました。
こっ、これは昨日の雌豚じゃないですか!?しかもこのニオイは…発情しています!所構わず発情するとは、とんでもない女に違いありません!
隣の建物を監視していると、コウスケさんが出てきました。そういえば隣はユニオンの建物でしたね。コウスケさんがユニオンから出かけた後、例の雌豚の発情が収まりました。
「まさかコウスケさんに発情していたとでも言うのですかっ!」
例の雌豚に関しては男性を見る目に優れていると言わざるを得ませんが、その色目を使う相手がコウスケさんとなれば話は別です!これは1度どちらが上でどちらが下かを教えて差し上げる必要がありそうですね…。
その日の夕方、食事の準備を早めに終えて宿の入り口でコウスケさんのお帰りを待っていると、コウスケさんの芳しいニオイに混ざって雌豚のニオイがしました。やっぱり発情しています!
その後、つい興奮してお帰りになったコウスケさんを問い詰めてしまいましたが、私への愛情をニオイで示して下さいました。ハスハス。控え目に言って最高でございます。ハスハス。
夕食の片付けを終えるとコウスケさんから話があるとの事で居間に呼ばれました。内容を伺って驚きました。仲間の捜索の為に魔境に向かうというのです!コウスケさんが以前仰っていました、
『どうしても成し遂げないとならない事』
とはこの事なのでしょう。どうすれば良いのでしょうか…?ハッキリ言うと、とても嫌です。私にコウスケさんを縛り付ける権利など無いというのに…。
ですが、コウスケさんからは覚悟を決めたニオイがします。泣き付いても恐らくは駄目でしょう。というより、泣いてすがり付いてしまいました。しかし、私達との未来の為だと言われてしまうと止めることが出来ませんでした。止められない事が悲しいのに、私達との将来を大切にしてくださっている事が嬉しいのです。
これ以上は説得しても無駄ですので、コウスケさんが無事に帰ってくる事を待ちましょう…。そしてコウスケさんが帰って来られたらもう1人子供を増やしましょう!そうすれば無茶もしなくなるでしょうから…。
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