第19話 捨て犬拾ったら懐かれた
午前中いっぱいをヒヤヒヤしながら捜索し続けていると、アクティブスキルを4つ同時に使用しているにも関わらず余裕が出てきた。余裕が出来たので、見つけた魔物は種類に限らず殲滅している。
『これは相当スキルレベルが上がったんじゃないか?』
と思い、鑑定で確認する。
コウスケ・サカイ
種族 人族
位階 24
生命力 2522
魔力量 12000
力 800
素早さ 627
魔力練度 5790
【アクティブスキル】
・魔釖術Lv.7
・鑑定Lv.7
・アイテムボックス
・警戒Lv.6
・遠視Lv.3
・高速思考Lv.4
【パッシブスキル】
・超反応Lv.4
・睡眠耐性Lv.4
・病気耐性Lv.2
・精神耐性Lv.2
・疲労耐性Lv.1
・暗視Lv.3
【称号】
・異世界転移者
・コリーナは俺の嫁(ほぼ確定)
【加護】
・なし
魔力量が5桁に到達しているが、実はこれ完全回復時の魔力量じゃ無いんだよ。体感的に3分の2くらいか?魔力練度の伸びも桁違いだし、使用していたスキルのレベルも軒並み上がっている。魔釖術の肝は高速思考と超反応だったみたいだな。魔釖術単体でも強力だからそれより上があると思わなかったのか?今まで誰も試さなかったとは思えない。異世界人でチート級の魔力量があるからこその技なのかもな…。
この世界の人間からしたら本当にチートだよな…。だけど、おかげて皆の捜索が出来る下地が整った。この依頼が終わったら皆の捜索に行こう。
休憩中に乾パンを齧っていると警戒スキルに以前感知した事のある気配が引っ掛かった。感知した方向を遠視スキルで見ると、400mほど先に茶色くてデカいクマがいた。やった!これで帰れる!
現在のステータスとスキルレベルではデカいクマ程度では全く相手にならない。一撃で首を落とした。
ベースキャンプに近い所でアイテムボックスから2体のマーダーベアを出す。流石に目の前で出すわけにもいかないので、1体ずつ引こずって運ぶ。ステータスで強化されているはずなのにそれでも重いな、このクマ。
「コウスケさん!討伐できたんですね!」
「もう1頭仕留めて居るので運ぶのを手伝って貰えませんか?」
「わかりました!」
ドルフさんが『うおりゃー!』と叫びながらマーダーベアを運ぼうとしているが、ピクリとも動いてないぞ。結局2頭とも俺がリヤカーに載せた。
「それにしてもコウスケさんは凄いですね。」
街に戻る途中、リヤカーを押しながらドルフさんが話しかけてきた。
「こんなバカでかいクマを倒すのもそうですが、キャンプまで1人で運んで来るなんて。」
「力にはちょっと自信があるんですよ。」
ステータスがとんでもない事になってるからな…。
「それよりこんなに早くマーダーベアを見つけれたのは運が良かったですね。最悪1週間では終わらないと思っていましたから。」
「それなんですが、あまりに不自然なんです。以前にマーダーベアが出た時は騎士が率いた兵士1個小隊が捜索にでて3日ほどかかってます。この人数しか派遣しないなんて、失敗を望んでいるかのようで…。」
確かに不自然だ。更にいうと、まともに戦えない侍女を監視役として送り込んできた。足を引っ張る気満々だ。もしかすると既に厄介事に巻き込まれているかもしれない。これは注意する必要があるな。
街まで戻ると門にはラルバさんがいた。
「おう、コウスケ!やったな!」
「はい、何とかなりました。」
「マーダーベアはユニオンに運ぶように聞いてるぞ。」
「ありがとうございます。」
ユニオンの前にマーダーベアを運ぶと副マスターが出てきた。
「コウスケ、アンタ何でもできるんだねぇ…。」
「今回は運が良かっただけですよ。」
「運も実力さ。これでアンタはランク3だよ。ランク3の身分証明書は銅製だからね、今の身分証明書にランク3の表記をしておくから仮の身分証明書として使っておくれ。新しい身分証明書は2、3日後に取りにきな。」
そう言いながら副マスターは1万ギルを渡してくれた。
「少なくて済まないね…。」
「いえ、副マスターのせいではありませんから。それよりマーダーベアはどうするんですか?」
「……アイツらがタダで引き取るってさ。」
「……本気で言ってるんですか?」
「マスターも抗議したんだけどね。代官様の鶴の一声だったそうだよ。」
あのお嬢様、中々の役者だな。見た目や態度と随分違うじゃないか…。もしかしたらあの侍女が矢鱈と人を見下すのはお嬢様の影響かもしれないな…。
「ところで狂犬ファラはとうしたんだい?」
「え?何がですか?」
「同行してたんだろ?監視役だったんだろうけどさ。」
「いえ?同行してませんよ。」
「……アンタ余りに腹が立って、バラして埋めてきたんじゃないだろうね?」
「流石にそこまでしませんよ!邪魔なんで追い返しました。」
「ファラがまだ戻ってないそうなんだよ。てっきりアンタに同行していると思ったんだけどね。」
「何か面倒な事になりそうな予感なんですが…。」
「アンタちょっと探してきてくれないかい?日が沈むまでで良いからさ。」
「はぁ…、夕食には帰りたいので、それまでで良ければ。」
「頼んだよ。」
街の中に居るのか外に居るのかを確認するため、衛門のラルバさんに会いに行った。
「ラルバさん、出入門者の管理記録を知りたいのですが…。」
「本当は機密なんだがな。誰の記録を知りたいんだ?」
「代官様の専属侍女です。名前はファラです。」
「ちょっと待ってくれ…。昨日の夕方に出門しているな。」
「夕方ですか?」
「1度昼に入門してから再度出門したみたいだな。」
何故だ?後をつけるつもりだったのか?しかし、それなら夕方は時間が開き過ぎている。
「ありがとうございます、ちょっと探してきます。」
「お前も苦労性だよなぁ…。」
苦笑いしかできない。
南側に伸びる街道を10分くらい歩いた所で、見覚えのあるメイド服を着たヤツが木の根本に座り込んでいた。ガキの家出かよ。
「おい、何やってんだ?」
ファラは肩をビクリと揺らすとゆっくりこちらを向いた。うわぁ、涙と鼻水でグチャグチャじゃないか。
「帰るぞ。そもそもお前侍女だろう?こんなところで油売ってないで、お嬢様のお世話をしたらどうなんだ?」
「……帰れないんです。」
ぐぁ…、厄介事のニオイがぷんぷんする。獣人じゃなくても分かるわ。
「あの後お嬢様に指示をいただきに1度戻ったんです。」
聞いてないのに語りだしやがった…。
「ドアの前に立つとお嬢様と側近の方が話されているのが聞こえたのです。私を使ってコウスケを取り込むと。」
ん?どういう事だ?コイツに誘惑されるとでも思ったのか?馬鹿にするのも大概にしろってんだ。
「マーダーベアから辺境伯家の関係者を守れなければ、その責任を理由に出仕させると。スラム出身の元奴隷で役立たずの侍女と交換なら儲けものだと!ついでに頭のおかしい侍女を処分できると!!」
あー、そういう事か…。中々エゲツないお嬢様だな。道理でコイツみたいな使えなさそうな侍女を連れてくるはずだ。俺が居なくてもいつか似たような目に会っただろうに違いない。頭がおかしいってのも間違ってないしな。
「なので私は戻れないのです…。」
「そっか、お疲れさん。」
事情は分かった。俺は関係無い…とまでは言わないけど、少なくとも責任は無いな。
踵を返して街に戻ろうとすると、狂犬が飛び付いて来た。
「見捨てるのですか!?可哀想だと思わないのですか!?この人でなし!」
必死の表情で腰にしがみついている。お前変り身早いな!
「そんな事言われても、俺、お前の事嫌いだし。」
「えっ!?」
ガーンって表情でショックを受けたかの様に固まっている。
「いや、まさか好かれているとでも思ったのか?お前の今までの態度に好感が持てる部分が1mmでもあったか?」
「私スラムの奴隷の中では比較的愛想が良くてボスの愛人の1人になれる可能性があるって程度には可愛いって言われてたので…。」
「スラムの奴隷の中では比較的愛想が良いって時点で態度に難がありそうなんだが…。」
しかも色々遠回しに並以下って貶されてないか?
「そうなんですか!?辺境伯家で保管されている歴史小説の中に出てくる"ツンデレ"と言うやつだと思っていました。」
「…それを誰から教わったんだ?」
「お嬢様です。」
それ完全に遊ばれてるぞ。
あのお嬢様、本当に婚約者に毒を盛ろうとしたんじゃないのか?第1案が暗殺、第2案が婚約破棄…。今になってみれば、お嬢様と狂犬侍女の遣り取りもお嬢様を良く見せるためのマッチポンプな気がする。
「で、いつまで腰にしがみついているんだ?」
「……………。」
「はぁ…。副マスターと相談してやるから、取り敢えずユニオンに行くぞ。」
こっくり頷き、漸く手を離す。本当は今この瞬間ダッシュで逃げたいんだが、後々もっと面倒くさいことになるのが目に見えている。
通門時にラルバさんに『ファラは街に戻って来ましたよ』とアピールしておく。後で文句を言われた時の為の保険だ。
その足でユニオンに連れて行き、あらましを副マスターに伝えると何とも言えない顔をしていた。
「アンタはこれからどうしたいんだい?」
「私は……………。」
「いきなりは決められないかい?ならお嬢様の元に帰るのかい?それとも他で生計を立てるかい?」
「……お嬢様の元には帰りたくありません。」
「だろうね、帰っても良い事無さそうだしね。ファラ、あんたまだ奴隷なのかい?」
「いえ、辺境伯家に雇われた際に解放されております。」
「なら先ずはお嬢様に暇乞いしてきな。話はそれからだね。」
「わかりました。」
トボトボとユニオンを出ていく。アイツちゃんと暇乞いできるのか?まぁ、いいや俺関係ないし。それより早くコリーナさんとキャロちゃんに会いたい。
「それでは私は帰りますね。」
「ああ、ご苦労さん。悪かったね。」
「いえ、では失礼します。」
「ただいま!思ったより早く帰れたよ!」
「わーい!パパー………、パ、パパ?」
「あなた!お帰りな………、あなた?」
「ん?ど、どうしたんだ!?」
なんか感動の再会的なものを期待していたんだが、なんかミスった?
キャロちゃんは泣きそうな顔をしているし、コリーナさんに至っては『絶望しました』って感じの顔をしている。
「あなた…、どうして腰の辺りからオンナのニオイがするのですか?」
「えっ!?」
「よりにもよって腰の辺から雌豚のニオイがします!!」
「あっ!」
あの狂犬侍女か!疫病神だろ、アイツ!ってか雌豚って!?
「あなた…思い当たる節があるのですね…。」
「ち、違う!変な女に絡まれて腰にしがみつかれただけだから!!」
30分くらい何度も説明して漸く納得してくれたけど、何か微妙な空気になってしまった。クソ、あの狂犬めっ!!
「あなた、ごめんなさい…。」
「ん?なんでコリーナが謝るんだ?悪いのは誤解させた俺だろう?」
「あなたから激しい怒りのニオイがしたので…。きっと貴方を傷付けてしまったのだと。あなたはいつも私達の事を大切にしてくださっているのに…。」
「違う違う!絡まれた変な女に対する怒りだから!」
「本当ですか?」
「ホントホント!だからいつものコリーナに戻ってくれないか?」
「……はいっ!」
「キャロもごめんな。びっくりしただろう?」
「大丈夫!パパは悪くないってわかったから!」
その後はコリーナさんの美味しいご飯を食べ、キャロちゃんとリバーシで遊んだ。
昨日帰れなかった事と帰宅時の騒動の反動なのか、夜のコリーナさんが物凄く積極的だった。