第4話 進路をノリで決めると…。
仕事にも慣れてきて暫くしたある日、ふと将来について考えるようになった。このまま下士官として腕を磨き、職種のプロフェッショナルを目指すのか、それとも幹部になって指揮官を目指すのかと。
幸いにして自衛隊は実力主義、高校さえ出てれば学歴なんてほとんど関係なく、試験さえ受かれば高卒でも防衛大学校を出た人と同じキャリア幹部になれる。
他の公務員に比べ、上級職へのハードルはかなり低い。
「折角チャンスがあるんだから挑戦してみよう!」
と、一般幹部候補生の試験を受けた。
一般幹部候補生試験は年齢制限があり受験資格を満たす必要はあるが、隊員であれば高校卒業以上の学歴で受験できる。合格すれば基本的には3佐(少佐)までほぼ横並びで階級が上がっていく。そこから先は大分差がつくが、高級幹部や指揮官になるためには最短の道であることには間違いない。司令や将官を目指すなら、一般幹部候補生試験に合格するか防衛大学校を卒業しなければ極めて困難である。一般幹部候補生試験を合格しても、防衛大学校を卒業しても困難である事には変わりがないが、それでも他の入隊区別に比べれば遥かにマシである。
当時は就職氷河期であったこともあり、一般幹部候補生の出願倍率は100倍以上と言われていたが、
『各試験場の受験者数からしてもっと多いんじゃないの?』
と思わざるを得ない。
あまりにもハードルが高かったが、
『受けない事にはどうしようもない』
って、宝くじを買う時と同じノリで試験を受けるとまさかの1次合格。
『まぁ、ここまでは各都道府県警や国家公務員試験でもそうだったし、2次試験が本番だ!』
と思って、2次試験に挑むとアッサリ合格。
きっと変わり者に対する免疫が他の職業の比じゃないんだろうなぁ…。
艦長、副長、分隊長に
「合格しました!」
って報告したら、
「そうか、良くやった!マイ熊手をプレゼントしてやろう!」
「ロッカーに仕舞えるサイズが良いな!」
「プレゼントに南京錠も付けてやりますか?」
と、3人で何か謎の相談をしていた。
えっ?熊手?ロッカーに仕舞えるサイズってしかも個人所有?南京錠?泥棒でも入るの?
意味が分からん…。
幹部候補生学校に入校する前に、上官(幹部)から手紙を貰った。激励の手紙とのこと。
『ワザワザ気に掛けてくれるとか優しいしなぁ…。』
と思いながら中身を見ると、
【江田島はワンダーランド、大人の遊園地。楽しんできなさい。】
とだけ書いてあった。
江田島って海上自衛隊の幹部候補生学校があるトコだよなぁ…、どんなトコだよ。
その後、幹部候補生学校に入校して直ぐにマイ熊手と南京錠の意味が理解できた。ナルホドという感想しか出てこない。やはり経験者の助言というのは適切だ。