第17話 面倒な人々
うん、今日も抱き潰してしまった。もう30代なのに、この元気は何処から来るんだろう?今までそれらしいスキルは見当たらなかったから、レベルアップの影響か?
『うーん、コリーナさんの身体は大丈夫なんだろうか?』
彼女は早起きして朝食を作っている。日中は宿の営業と管理だ。毎回抱き潰している現状は申し訳ない。ちょっと我慢した方が良いのかな?我慢出来る気がしないけど…。
昨日と同様に魔法で綺麗にして寝室のベッドに潜り込む。賢者タイムを発動して思い出したが、今日は色々と出来る事が増えていたはずだ。新しいスキルも生えているに違いない。
『"鑑定"』
コウスケ・サカイ
種族 人族
位階 23
生命力 2443
魔力量 7501
力 711
素早さ 527
魔力練度 2008
【アクティブスキル】
・魔釖術Lv.6
・鑑定Lv.7
・アイテムボックス
・警戒Lv.5
・遠視Lv.1
・高速思考Lv.1
【パッシブスキル】
・超反応Lv.1
・睡眠耐性Lv.4
・病気耐性Lv.2
・精神耐性Lv.2
・疲労耐性Lv.1
・暗視Lv.2
【称号】
・異世界転移者
・コリーナは俺の嫁(ほぼ確定)
【加護】
・なし
鑑定スキルのレベルがまた上がった。加えて遠視、高速思考、超反応、疲労耐性のスキルが生えていた。遠視スキルは明らかにハイオークの時だけど、高速思考、超反応スキルは森の中を魔釖術で駆け回ったのが原因だな。このスキルを伸ばして行けば、狭い空間でも魔釖術を駆使した戦闘が可能になるだろう。疲労耐性スキルが生えたのはコリーナさんとの夜のバトルが原因じゃないよな…。
ステータスがチートじみて来たな…。特に魔力量のインフレがヤバい。どう考えても異常だ。あの無茶苦茶無駄の多い基礎魔法でも40発くらい撃てる。図書館の本によれば、一人前の魔導士で2〜3発って話じゃなかったか?
魔物を倒してレベルアップしただけでは説明がつかない。レベルアップしなくても魔力が大量に増える事があったので、原因として考えられるのは魔力を使用すればする程上昇すると言う事だろう。しかし、単純に魔力を使用して魔力量が増えるとも考え難い。そうであるなら生活魔法を使っているだけで一人前の魔導士を超えることができるはずだ。考えられるのは称号の【異世界転移者】だ。それならチートじみた成長速度も理解できる。もう一つの方の称号は責任取れって事だろう。
「なら効率的なのは魔釖術を使用しながら兎に角魔力量とスキルレベルを上昇させる事だな。」
「ん…、あなた?」
「なんでもないよ、おやすみ。」
コリーナさんと抱き締め合って寝る。明日も頑張れそうだ。
いつも通り朝食を皆で食べてから雑貨屋に出かける。とは言っても隣なんだが…。
「すみません!」
「はいはい、あっコウスケさん。何をお求めですか?」
「剣鉈とかありませんかね?森に行く用事があるので。」
「はい、有りますよ。少々値が張りますが…。」
「見せていただけますか?」
持って来てもらった剣鉈は、刃渡り60cm弱のグルカナイフの様な形をした肉厚の剣鉈だった。剣よりは短いが、怪しまれる事なく手に入る武器としては上々だろう。少なくとも銃剣よりは断然良い。
「お幾らですか?」
「ナイフケース込みで1万6千ギルです。」
「あと、玩具無いですかね?」
「玩具ですか?一応ありますが…。」
「ええ、子供と遊ぶ約束をしているんですよ。」
「ああ、それなら…。」
店員さんが奥からリバーシを持ってきた。
「これはリバーシといって、王国樹立前からある伝統的な玩具です。知育玩具というらしく、子供の成長に役立つらしいですよ。」
「良いですね、お幾らですか?」
「2500ギルです。」
18500ギルを払って剣鉈とリバーシを受け取る。遊び方は知っていたが、一応初めて見るという体なので、店員さんにリバーシの遊び方を教えて貰った。
1度家に戻ってコリーナさんにリバーシを預けた後、ユニオンで今日も薬草採集をする旨を伝える。
「副マスター、今日も薬草採集行ってきます!」
「はぁ…、今日はどの位採るつもりなんだい?」
「少なくとも昨日の倍は行けそうです。」
「薬草は直ぐに生えてくるといっても1、2週間くらいはかかるからね。採れなくなったら休ませるんだよ。」
「分かりました。でも、北東の採集ポイントに行けば交互に採集できますよね?」
「マーダーベアが見つかってないからね。まだ許可できないよ。」
捨ててこようかな…、マーダーベア。こんな事になるとは思わなかったよ。
「そういえば、アンタ代官様を助けたのかい?」
「えっ?何の話ですか?」
「昨日、街の各組織のマスターが呼ばれて説明があったんだよ。そこでコウスケという名の者に助けられたってね。他の組織にはコウスケってヤツは居ないって事だったから、残すはアンタしかいないんだよ。」
「確かにハイオークと戦っていた騎士の手伝いはしましたけど…。助けたのは若い女性でしたよ?」
「ベルンディーテ・フォン・ジルトニア様。ジルトニア辺境伯家の長女で、昨日ムストの代官様になったのさ。」
「えっ!?高位貴族のお嬢様って政略結婚して他の貴族家に入るもんじゃないんですか?」
「………。コウスケ、アンタは軽々と地雷を踏抜くね…。」
「えっ?どういう事ですか?」
「此処だけの話にしなよ。でないとアンタの首が物理的に飛ぶかもしれないしね。」
えっ、何それ怖い。
「ベルンディーテ様は侯爵家の嫡男と婚約していたんだけどね、一方的に婚約破棄されたんだよ。」
「……そんな事可能なんですか?辺境伯家と侯爵家って上下の差はほぼありませんよね?むしろ独自の戦力持ってる辺境伯家の方が立場は強くなる場合もあるんじゃないですか?」
「あんた常識が欠如してるくせに、やけに貴族に詳しいね…。」
「『無礼打ちにされないように』って知り合いが教えてくれたんですよ。」
「……まぁ、それはいいよ。ベルンディーテ様の婚約者にはイイ仲の男爵令嬢がいてね。ベルンディーテ様はその男爵令嬢を愛人にするのなら、自分との間に第1子が産まれた後にして下さいって言ったのさ。」
「それはまた…。よく我慢しましたね。」
「ここ迄あからさまな事はそうそう無いけど、愛人を囲うことは良くあることさね。問題は侯爵家の嫡男がその愛人を正室にしたがっていたって事なのさ。」
「いやいや!!無理筋も良いとこでしょ!?辺境伯家と男爵家ですよ?話し合いにすらなりませんよ。」
「それがね、侯爵家当主を巻き込んでベルンディーテ様を嵌めたようなんだよ。」
「どういう事ですか!?」
「婚約者が侯爵家でベルンディーテ様を招いて身内のお茶会を開いたんだけどね。ベルンディーテ様が持ってきた、お茶会で食べる手土産から毒物が発見されたと騒ぎ立てたんだよ。」
「そんなの誰でも混ぜれるし、本当に入っていたかも分からないし、証拠にならないんじゃ…。」
「証拠になんてならないよ。それにベルンディーテ様がそんな事をする訳がないと皆思ってる。だけどね、毒物事件として騒ぎ立てちまえば婚約なんて続行できる訳がないんだよ…。」
「それはまた…。」
「辺境伯家も怒り心頭で侯爵家との関係もボロボロ。ベルンディーテ様も『婚約なんてもう懲り懲りです!私は仕事に生きます!』なんて宣言して、辺境伯家もそれを認めて今に至るのさ。」
「でもいきなり代官様なんて可能なんですかね?」
「侯爵家の女主人ともなれば領地経営の知識も必要になるからね。婚約者が決まってからは領地経営を学んでいたそうだよ。それにベルンディーテ様は王立学園の学業成績が優秀との事だから、経験豊富な部下を付ければそうそう問題なんて起きやしないさ。」
「はぁ…、凄い話ですね…。」
「アンタは知らずに地雷を踏抜くからね。知らないより知ってた方が安全だろう?だから話したんだからね。その事をよく肝に命じな。」
「はい、ありがとうございます。」
「で、コウスケ。話は戻るけど、アンタがベルンディーテ様を助けたんだね?」
「ええ、まぁ。結果的には?」
「なんで自信なさげなんだい。昨日の話だとハイオークをほぼ一人で倒したらしいじゃないか。アンタそんなに強かったのかい?」
「まぁ、そこそこ戦えるつもりではありますが…。」
「そこそこってレベルな訳ないだろ。単独でのハイオークの殲滅とか騎士団長レベルだよ…。」
マジかよ…。
「で、コウスケをスカウトしようという話が出てるんだが、専属侍女が反対しているらしくてね。」
「ああ、ファラって人ですかね?」
「狂犬ファラかい…、ベルンディーテ様も大変なヤツを連れて来たね…。」
狂犬って暴走族かよ!侍女だからレディースか?まぁ、どうでも良いけど。
「ファラはスラムの元奴隷でね、偶々通りかかったベルンディーテ様に助けられたそうなんだよ。それから専属侍女の1人に抜擢されたんだけどね、その方法がヤバかったんだよ。」
「ヤバいって…、優秀だから抜擢されたんじゃないんですか?」
「あんた直接見た事あるなら分かるだろ。」
「そういえば全く優秀には見えませんでしたね。どっちかといえば問題児っていうか…。」
「そうなのさ、ファラは『ベルンディーテ様にお仕え出来なければ割腹して果てる!』って言ってたんだけど、最初は誰も信じて無かったんだよ。」
「まさか…。」
「そうさ、本当に割腹自殺していた所を発見されて一命を取り留めたのさ。忠誠心だけはバカ高いから他の侍女がフォローすれば何とかなるだろってんで専属侍女になったんだよ。」
「なるほど狂犬ですね…。ん?待って下さい!俺にスカウト来てるんでしたっけ!?そんな職場絶対に嫌ですよ!!」
「そう言うと思ったけど一応確認しておかないとね。」
「最悪は街から逃げ出します。」
「はぁ…、辺境伯家の関係者にはそんな事言うんじゃないよ。」
「…わかりました、逃げる時は秘密裏に行います。」
「ホント分かってんのかね?アンタは…。」
「俺だって街を離れたくないですよ。此処にはコリーナさんとキャロちゃんの家があるんですから。」
「この街では獣人は人族より立場が低いんだから、アンタが上手く立ち回って護ってやるんだよ。」
取り敢えず酷い地雷に遭遇してしまったことは分かった。ステインさんは良さそうな人だったから残念だけど、辺境伯家の関係者とは絶対に関わらないようにしよう!