第16話 面倒な人
「大丈夫ですか?」
倒れた騎士達の様子を見る。目立った外傷は無いが、医者でもないので正確には分からない。
どうしたものかと考えていると騎士達が護衛していたと思われる馬車から人が下りてきた。
ドレスを着ている女性が貴族で、メイド服を着ているのは侍女だろう。
『貴族かぁ、面倒な事になったな…。』
とか思ってたら侍女がキレた。鬼の形相である。
「無礼者!跪きなさい!」
リックさんに貴族についてもっと詳しく聞いとけば良かった!
取り敢えず片膝を地面について答える。
「申し訳ございません。田舎者ゆえ貴族様に対する礼儀を弁えていないこと、お赦し下さい。」
「赦します。お立ちなさい。」
「お嬢様!」
「ファラ、良いのです。」
何が良くて何が悪いのかわからんけど、立てと言われれば立つのが正解なんだろう。侍女の方は全く良くなさそうな顔をしているが…。
立ち上がり顔を上げると20歳くらいの美人がいた。本当にこの世界って顔面偏差値が高いよな…。男はそうでも無いのが救いだけど。
「しかしこの男がベルンお嬢様の美しさに惑わされて不埒な真似をするかもしれません!今もこちらを舐め回すように見ています!」
んなわけ無いだろ…。それにコリーナさんの方が綺麗だし。もう帰っても良いかな?
「お嬢様、直言をお許しいただけますか?」
「許します、何ですか?」
「騎士達は目立った外傷はありませんでした。意識を失っているだけで、直に目を覚ますでしょう。」
「そうですか、ご苦労様です。」
「はっ、つきましては御前失礼してもよろしいでしょうか?現在、依頼の最中でして…。」
「せめて騎士達が目を覚ますまでは護衛をお願いできませんか?」
「えっ、いや、しかし…。」
「無礼者!お嬢様のご依頼を断るつもりだとでもいうのですか!」
「し、失礼致しました!ご依頼承りました!」
舐め回すように見てくる不埒な真似をしそうな男なんじゃなかったのかよ…。さっさと解放してくれよ。こうなったら一刻も早く騎士達に目を覚まして貰って、直ぐにトンズラするしかない。
最初は騎士の肩を摑んで揺すっていたが、あまりに目を覚まさないので顔面を強めに叩いた。さっさと起きんかい!そして俺を解放せんかい!
そろそろ往復ビンタに移行しようかと考えた頃にようやく1人目が覚めた。その騎士は慌てた様子でお嬢様に向かい礼を取る。ほぉ、あんな風にするんだな。平民がやって正しいのか知らんけど。
「ベルンディーテお嬢様、不覚を取り申し訳ありませんでした!」
「ナムソッス隊長、大事ありませんか?」
「ハッ!」
「では他の者が起き次第、ムストに向かいます。」
「ハッ、了解しました!」
ナムソッス隊長がこちらを見ている。なんだ?仲間になりたいのか?
「すまんが起こすのに協力してくれんか?」
「わかりました、でも後で不敬罪とか言わないで下さいね。」
「ハハッ、騎士爵は不敬罪を問えないから大丈夫だ。」
「安心しました、これで心置きなく起こせます。」
「いったいどんな起こし方をするつもりなんだ…。」
面倒なので強めに往復ビンタをすると、隊長さんは若干顔が引きつっていた。直ぐに目を覚ましてくれるから便利なんだけどなぁ…。
「もしかして俺もこうやって起こしたのか?」
「いえ、隊長さんはこうなる前に起きて貰えたのでしていません。起きなければヤルつもりではありましたが…。」
マジかよって顔をしている。マジですよ。
「そういえば助力助かった。俺はステインだ。ステイン・デル・ナムソッス。ジルトニア辺境伯家の騎士だ。」
「これはご丁寧にありがとうございます。私はコウスケと申します。最近ムストに移住した平民です。」
とりとめの無い話をしながら往復ビンタを食らわせていると、残りの騎士も目を覚ました。うん、これで御役御免ですな!
「騎士の皆様が目を覚まされました。それでは御前失礼致します。」
「お待ちなさい。」
いやいや、俺早く帰りたいんだよ。侍女さんも滅茶苦茶こちらを睨んでるのに、何で俺を呼び止めるんだよ。
「コウスケと言いましたね。ムストまでの護衛を命じます。」
「ファラ、その様な言い方をするものではありませんよ。」
「はい…、申し訳ありませんでした…。」
侍女さんの顔付きがヤバい事になっている。しかも隊長との会話を聞かれていたのか、俺の名前が把握されてるし…。
「では改めて。コウスケにお嬢様を護衛する栄誉を与えます。」
「はぁ…。ファラ、そうではないでしょう?」
「ぐぅ…。」
いやいや、俺を睨まないでよ。怒られたの俺のせいじゃないじゃん。
「もう良いです。コウスケ、私達を街まで護衛して貰えますか?」
いや、これお願いという名の命令だろ。分かってやってんのか分かってないのかは知らんけど。
「1つお伺いをしてもよろしいでしょうか?」
「無礼者!お嬢様に…」
「ファラ!…構いませんよ、何ですか?」
「私が護衛を務めますと、護衛の騎士様の矜持を傷付ける事になります。それでも宜しいのでしょうか?」
「……そうですね、私の護衛はこの者達でしたね。忠言感謝します。」
「はっ、御無礼の段、平にご容赦を。」
「いえ、助かりました。このままですと騎士達の矜持を傷付けるところでした。」
「ではこれにて御前失礼致します。」
やっと帰れる!とか思ってたらステイン隊長が話しかけてきた。
「ありがとう、コウスケ。危うく俺達の面目が丸潰れになる所だった。」
「いえ、私も以前軍にいたことがあるので、その辺りの機微は一般人より分かるつもりです。」
正確には国家公務員だけどな。
「そうか、軍にいたことがあるならあの強さにも納得だな。助かったよ。困った事があったら訪ねてきてくれ。大抵は騎士寮か役場の上階にいるから。」
「ありがとうございます、それでは失礼します。」
全く…余裕を持って帰り始めたのに、急いで帰らないと夕食に間に合わなくなってしまう。正直いって貴族のお嬢様にコネができるよりもコリーナさんとキャロちゃんとの夕食の方が遥かに大切だからな!
放って置くと目覚めの悪い結果になりそうだったから手を貸したが、あの侍女の反応を見ると貴族に関わるべきではないという事が改めて認識できたよ。もう会わない事を願おう。
街に着いたのだが、出門した時にも思ったが、入門する時もラルバさんを見かけない。
「今日ラルバさんは不在ですか?」
「兵長は今日休みですよ。兵長は何も無ければ2週目の日の曜日が休みです。」
「そうなんですね、ありがとうございます。」
公務員なのに9日働いて1日休みか。異世界も中々厳しいねぇ…。
ユニオンに戻ると副マスターが定位置で待っていたが、何だかソワソワしている。別に大量の薬草を警戒している訳ではないらしい。
「お疲れ様です、副マスター。何かあったんですか?」
「ああ、コウスケかい。さっき役場に先触れがあってね、代官様が魔族に襲われたそうなんだよ。」
「えっ!?それは大変じゃないですか!」
「魔族を倒す事には成功したらしいんだけどね、被害についての連絡が無かったから落ち着かないんだよ。」
「そうですか…、じゃあ薬草束は明日の方が良いですかね?」
「今で構わないよ。」
「いや、しかし…。」
「遠慮なんてするんじゃないよ、気持ち悪い。どうせ他にすることが無いんだからさっさと出しな!」
「気持ち悪いって…。では、お願いします。」
薬草を籠ごと渡す。
「おい、コウスケ…、こりゃ何束あるんだい?」
「101束あります。」
「あんた今日はいつもより出発時間遅かったよね?」
「そうですね、今日は朝に宿の改装を手伝ってましたから。」
「何でこんなに薬草集められるんだい……?」
「すみません企業秘密です。今日新しい方法を発見したんですよ!」
ニコニコしながら言うと副マスターは深い溜息をついて、
「まぁ、あんたがこのペースで薬草採集してくれるなら街の薬草不足も解決するかもね…。おまけにファーマシーゴブリン並の正確さだし。ユニオンとしては言う事なしだ。アンタ今日からランク2になるから身分証明書出しな。」
「えっ!?もうですか?」
「コウスケの異常な薬草採集スピードと他の人間を一緒にするんじゃないよ!」
「はいっ!」
「まぁ、コイツはノーチェックで良いよ。受け取りな。」
副マスターは身分証明書の【1】の様な表示にタガネで傷を入れて【+】の様な表示にし、身分証明書と一緒に5万5百ギルを渡してくれた。
「まだチェック終わって無いのに良いんですか?お金は明日でも構いませんが…。」
「言っただろ、アンタの薬草採集はファーマシーゴブリン並の正確さだって。これでもアンタの仕事は信頼してるんだ。」
改めてファーマシーゴブリンの信頼度がヤバい!
「ただいま!」
「お帰りなさい!パパ!」
「ただいま、キャロ。お母さんは?」
「今料理で手を離せないんだって!だから私がお迎えに来たの!」
「そっか、ありがとう、キャロ。」
「うん!もう直ぐできるから居間で待ってて!」
「分かった、パパは着替えてから行くね。」
最高だわ…。フレッシュ使ってないのに1日の疲れが全部とれる思いだ。
武器防具にクリーンをかけ収納箱にしまう。本当に生活魔法って便利だな…。
居間に戻るとちょうど食事が出来たところだった。
「あなた、お帰りなさい。お食事にします?それともお風呂は無いので私にします?」
「夕食後にコリーナ。」
「まぁ!あなたったらっ!」
「どういう事〜?」
「夕食食べた後でパパと遊ぶって事よ。」
「私もパパと一緒に遊ぶ!」
「そうね、一緒に遊びましょうね。」
そしてキャロちゃんが寝静まったら第2ラウンドか…。
夕食後の片付けをしているコリーナさん。超絶美人がネコミミエプロンとか奇跡だな。コリーナさんは聖女かもしれない。
「あ、そうだ。コリーナ、忘れないうちに今日の依頼料を渡しとくね。」
「えっ?今日もユニオンに行かれてたのですか?」
「本当は依頼を受けるつもりは無かったんだけどね。技能訓練をしてたら興が乗ってしまって、結局依頼を受けてしまったんだ。」
キリが良い2万ギルだけもって、他はコリーナさんに渡す。コリーナさんに渡すのは元々持っていたお金を併せて約3万5千ギルだ。日当として考えるならかなりの稼ぎになる。勝ち組の日雇い労働者だな。
「こんなに沢山…、あなた、何か買う物は無いのですか?私達の為に我慢していたりしませんか?」
「いや、必要なお金は持ってるから大丈夫だよ。それより最低でも金銭でコリーナとキャロに苦労をかけたくない。できれば何時も笑顔でいて欲しいんだ。」
「あなた……。」
コリーナさんの目が"とろ~ん"となっている。あ、ヤバいなコレ。
「ストップ、コリーナ。」
「え〜、何でですかぁ?」
普段はお淑やかでしっかり者な雰囲気のコリーナさんだが、スイッチが入ると甘々のエロいお嬢さんにジョブチェンジする事を昨日知った。これは間違いなく前兆だろう。
「皆で遊ぶんだろう?キャロが拗ねちゃうぞ?」
「あっ、そうでした…。」
"しゅーん"とネコミミが垂れてる。うん、我慢しない。ネコミミをもふもふする。
「キャロが寝てからな。」
「はぅっ!」
さて、キャロも一緒にとなると何して遊ぶかな?明日は雑貨屋で玩具を探してみるとして、今日は何をするかな…。




