第14話 決別
いい時間になってきたので、集合場所に向かうと前回同様に船務士と小野1士が来ていた。すでに定食を食べている。
「あっ、機関士、先にいただいてます。」
「いいよ、今日は後で食べるから。俺は飲み物だけで。」
「分かりました。」
「先に食べてから話をしよう。」
ビールを飲みながら二人が食事を終わるのを待った。
「で、何か分かったか?」
「いえ、特には。」
ん?やたら蛋白な反応だな。
「本当に何も?」
「1日土方やってるので、新しい情報なんて無いですよ。」
…………何言ってんだ、コイツ。情報集める気があるのか?
「小野はどうだ?何か無いか?」
「いえ、私も特には…。」
「お前らやる気あるのか?逸れた仲間の捜索に行くんじゃないのか?それに艦には連絡を待つ乗員が残ってるかも知れないんだぞ!」
「………。」
「…アルバイトみたいな収入だと生活がキツいんですよ。せめて残りのオレンジスプレッドを売っても良いなら…。」
「おい、待て。数日前に10万ギル渡したばかりだろ。お前らまさか…もう使ったのか?」
「………。」
「………。」
連日あの連れ込み宿の女の子に使ったのだろう。呆れて物も言えない。
『こいつ等1度引き締めないと駄目だな…。』
と思っていたら船務士が、
「機関士、捜索は止めませんか?」
と言ってきた。はぁっ?コイツ何言ってるんだ?
「ハイオークになんて勝てっこありませんよ。折角街に辿り着けたのに、死にに行く様なもんじゃないですか…。」
「……小野も同じ考えなのか?」
「……はい。」
「ふざけるのも大概にしろ!!!!」
激情を抑えられず、テーブルに拳を叩きつけると周りの客がビックリして店内が静かになった。
「機関士!ここではマズイので外に出ましょう!」
「お前らっ!!」
「お願いします!!」
「ちっ、……すみません、お騒がせしました。」
料金をテーブルに置き、2人を連れて外に出る。
「で、お前らどういうつもりなんだ?」
「皆が機関士みたいに強く無いんですよ…。」
「小野は仕方ない部分もある。若いし、精神的に鍛える教育を受ける機会も少ない。だが船務士!お前は違うぞ!お前は教育を受けた幹部だろ!」
「あんな魔物に喰われるトコ見せられて怖くないわけ無いじゃないですかっ!」
「だから女に逃げたのか!」
「そうです!!もう嫌なんです!!」
まさか船務士がこんなに脆いとは…。
「……分かった、好きにしろ。もう集まる必要もない。」
「……。」
「……。」
「オレンジスプレッドも全て売って構わないが、出処を隠すように注意しろ。あと、9mm拳銃と銃剣を渡せ。銃弾もだぞ。お前らにはもう必要ない物だ。」
2人から銃器を回収する。
「もう会うことも無いかもしれないが、あまり無駄遣いするなよ。でないと生活が行き詰まるからな。じゃあな…。」
くそっ、あいつ等…、まだ乗員が艦内で助けを待っているかもしれないのに…。
「…ただいま。」
「お帰りなさ…、何かあったのですね?」
「ん?」
「ニオイで分かります。辛い事があったのですね?」
「………。」
「あなた?」
コリーナさんを抱きしめた。
「ごめん、コリーナ。もう少しこのままで。直ぐに立ち直るから…。」
「はい、後で夕食にしましょうね。」
コリーナさんが抱きしめて頭を撫でてくれる。あいつ等には女に逃げたなんて言ったが、こちらも似たようなもんだな…。
「もう大丈夫、ありがとうコリーナ。」
「少し元気が出たみたいですね。」
「ああ、明日にはいつも通りになるよ。」
「今日の夜お話しするのも忘れないで下さいね。」
「コリーナとの約束は忘れないよ。」
ダイニングに行くとキャロちゃんが待っていた。
「パパ、大丈夫?」
「ああ、明日にはいつも通りだよ。心配かけてゴメンな。」
「うん、分かった!じゃあ食べよ!私お腹ペコペコだよ。」
「そうね、キャロ。あなた、食べましょう。」
豚汁、トンテキ、トンカツ、角煮等など…、テーブルの上にはイノシシ尽くしの食べ切れない程沢山のご馳走が並んでいる。
「これは凄いね…。」
「はい、今日はお祝いですから。」
「そうだよ!お祝いなんだよ!」
「お祝い?今日は何かあったかな?」
「ふふ、それについても夜にお話ししますね。」
まぁ、後でわかるから今は気にするなって事かな?コリーナさんとキャロちゃんの事だから、悪い事ではないだろう。
皆、お腹いっぱい食べたが結構残ってしまった。
「コリーナ、アイスフィールドの生活魔法を使える様になったから、残りは明日の朝食にしようか。」
「凄いですね!あなた。ではここの部屋にお願いします。」
半地下の様な部屋にスノコが敷いてある。冷蔵庫のような部屋なのだろう。
「"アイスフィールド"」
冷蔵部屋が冷えてきたのは良いんだが、冷気が漏れて居間まで寒くなってきた。
「パパ〜、寒いよ…。」
「……明日冷蔵部屋を手直ししようと思う。」
「……そうですね、お願いします。」
「キャロ、寝る時は寝室にウォームをかけるから、それまで我慢してくれるかな?居間でウォームをかけると今度は冷蔵部屋が温かくなってしまいそうだし…。」
「う〜ん、分かったぁ…。」
心が痛むが仕方がない。ここは我慢してもらおう。
キャロちゃんはよっぽど寒さが応えたのか、
『パパ、私早く寝るから寝室に魔法かけて!』
と、ウォームをかけた寝室に引っ込んだ。
コリーナさんはキャロちゃんが寝たのを確認して居間に戻ってきた。
「コウスケさん、お話ししたい事があります。」
「うん、何かな?」
呼び名がコウスケになっている。改まった話なのだろう。
「今日コウスケさんはスタンプボアの子供を獲って来てくれました。コウスケさんは意識していなかったと思いますが、獣人では一緒に暮らす異性に自分で捕まえた獲物を渡し、それを料理して食べるのは番になる儀式なのです。」
えっ!?俺は知らずにプロポーズしたって事?それは男として駄目なやつだろ…。
気落ちしたニオイがしたのか、コリーナさんが慌てている。
「コリーナさん…。」
「な、何ですかコウスケさん。」
「番って何なんですかね?結婚と番になる事は違うんですか?副マスターは良くわからないといっていましたが、獣人にしか分からないニュアンスがあるんですか?」
「えっ?……ああっ!あの時の!すみません、そんなに悩んでいたとは気が付かず!……実は嘘なんです。」
「えっ?嘘?」
「はい、コウスケさんに結婚なのか確認された時に、こんな子持ちの未亡人に言われても断わられるかもと思いまして…、咄嗟に嘘をついてしまいました。番になる事も結婚する事も、そして家族になる事も同じ意味です。すみませんでした、コウスケさん。」
「しかし、何故今その事を明かしたのですか?」
「今日コウスケさんから獲物を受け取って我慢が出来なくなりました。私の我儘なのです。なぁなぁの誤魔化しではなく、コウスケさんと本当の家族になりたいのです。」
正直とても嬉しい。だが…。
「…コリーナさん、もう少し待っていただけませんか?」
コリーナさんのネコミミが『へにゃ』ってなっている。
「実は私にはどうしても成し遂げないとならない事があるのです。今僅かではありますが、希望が見えてきた所なんです。」
「では、番になるのは…。」
「それが終われば私からプロポーズします。」
「待ってます…、ずっと待ってます!」
「そこまで待たせるつもりはないのですけどね。」
ハハハと照れ隠しに笑うと、コリーナさんが涙を流しながら抱き着いてきた。
「こんなにも泣かされたのは貴方が始めてです。」
「好きな人には意地悪したくなるのが男の性なので。」
「いけない人ですね、コウスケさんは。」
「そうですね、自覚はあります。」
2人して顔を見合わせ笑う。ああ、本当にこの人に惚れたんだなと思う。しかし、コリーナさん、キャロちゃんと一緒に幸せに生きていくのなら、置き去りにした仲間の捜索をしっかりとやって、心につかえている物を無くさないと駄目だ。
〜〜〜〜〜〜コリーナ視点〜〜〜〜〜〜
昼過ぎにコウスケさんが戻って来られました。
『今日は随分早いのね。どうしたのかしら?』
と思って出迎えてみると、コウスケさんが上を向いて首の後ろをトントン叩いていました。どうしたのかしら?
改めてコウスケさんを見ると、左手にスタンプボアの子供を抱えていました。
『これはまさか…、いえいえ、まだ確定した訳では…、でももしかして…。期待してしまっても良いのかしら?』
と悩んでいますとコウスケさんは私がスタンプボアを解体する事を躊躇していると勘違いしたようで、必死に自分で解体するとアピールしていました。このスタンプボアが私達母娘へのお土産なのは間違いないようです。
『でしたら、このスタンプボアで料理を作ってコウスケさんに食べて貰えれば番確定ですね!』
嬉し過ぎて泣いてしまいました。もう我慢なんて不可能です。今夜告白いたします。
今夜お話しする事を約束しました。コウスケさんを待つ間は凄くドキドキしますが、とても幸せな気持ちになります。
コウスケさんは、
『今日は18時頃に戻ります。』
といって出かけていきましたが、40分ほど早く戻られました。お出迎えすると、コウスケさんから凄く悲しげなニオイがしていました。
何かあったのですねと問うと謝罪されながら抱きしめられました。頭を撫でてあげると徐々に穏やかなニオイになっていきましたので一安心です。でもコウスケさんが哀しんでいるのに抱き締められ、さらにコウスケさんの頭を撫でていると喜びが溢れてきます。私は酷い女なのでしょうか?
食事のあとちょっとした失敗からキャロが早く寝たので、結果オーライですかね。どうやって先に寝かせるか悩ましい所でしたので。
2人きりになれたところで番になって欲しいと告白しました。コウスケさんも私のことを憎からず想って下さっていると確信していたので自信がありました。しかしコウスケさんの返答は『おあずけ』でした。何て事でしょうか。
感情を抑え切れず涙が溢れて来ましたが、
『全てが終わればこちらから告白する。』
と言ってくださいました。別の意味で涙が溢れてきました。今日は何回泣かされるのでしょうか?
もう色々と我慢しなくても良いですよね?コウスケさん、覚悟して下さいね!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あなた、今日はもう寝ましょう?」
呼び方がまた『あなた』に戻っているが、前の時とちょっと違うような…?いや、気のせいなのか…?
「そうだね、もう寝ようか。」
「宿には今お客様はいないので、お部屋は空いていますよ。」
えっ?どういう事?って思ってコリーナさんを見ると、身体を寄せてきて熱い視線を向けてくる。
「寝室だとキャロが起きてしまうかもしれないので…。」
これ完全にオッケーなヤツ!!鈍感系主人公でも秒で解るヤツ!!でも待っててくれって言った側から据え膳食うとかヤバくないか!?
「コウスケさんは誠実なので、私を大切にしてくれているのは分かります。それはとても嬉しいのですが、コウスケさんを待ってても良いという証が欲しいのです…。」
『好きな人にこんなん言われて我慢できるわけないだろ!』
客室にコリーナさんを連れ込んだ。




