第8話 獣人さんの食事事情(2)
「……すみません、コウスケさん。」
コリーナさんが申し訳なさそうに謝って来た。よく見るとキャロちゃんもしょんぼりしている。えっ、何で?
「コリーナさん、どうしたんですか?」
「コウスケさんと食事をするのが楽しみで、確認するのを忘れていました…。」
「アレルギーですか?私はアレルギーが無いので大丈夫ですよ?」
「アレルギー?初めて聞く言葉です。そうではなく、この調理法や材料についての事なのです。」
「と、言いますと?」
「パンの生地は前日の夜に作って朝まで置いてから焼くのです。その方が柔らかく焼き上がりますから。また、スープは獣の骨を煮込んで作っています。獣人には一般的な料理なのですが、人族はパン生地を放置したり、獣の骨を煮込むという事を不衛生だといって嫌う人が多いのです…。」
「もしかして、この宿が素泊り専門なのは…。」
「はい、以前食事に関してトラブルになりまして…。」
なんてこったい。異世界の人族は味音痴で食わず嫌いなのか?その程度で怯んでいたら納豆なんて食えないぞ。
「その時は主人に対応してもらい、大きな問題にはならなかったのですが、今は主人が居ませんので食事を出すのは止めました。」
えっ…、居ない?
「あの、ご主人は…。」
「4年前に亡くなりました。」
「すみません、話し難い事を聞いてしまって。」
「いえ、主人の事はもう心の整理がついているので。キャロもいますし。それよりもコウスケさんに不快な思いをさせてしまったのでは無いかと思いまして…。」
「そんな事はありませんよ、とても美味しいです。毎日でも食べたいくらいです。」
コリーナさんがビックリしてこちらを見る。キャロちゃんも同じ反応をしている。何かマズイ事言ったか?
「毎日でもですか!?」
「おじさん毎日一緒にご飯食べてくれるの!?」
「え?ええ、コリーナさんとキャロちゃんが良ければですけど…。」
あれ?コリーナさん少し泣いてない?キャロちゃんは飛び跳ねて喜んでる。何故?
「ささ、コウスケさん。いっぱい食べて下さいね。」
「そうだよ、おじさんいっぱい食べてね!」
「ああ、ありがとう。美味しいからいくらでも食べられそうだよ。」
何故か二人とも凄くニコニコしながら食べてる。コリーナさんに至っては、偶にこちらをチラチラ見ては目が合うと顔を赤く染めている。美人だけじゃなくてカワイイとか反則だろ。
朝食を食べ終わり、出かける準備をしていると、コリーナさんがパタパタと小走りでやってきた。
「コウスケさん、お帰りは何時くらいになりますか?」
「そうですね…、17時くらいになると思います。」
「お夕食はこちらで召し上がりますか?」
「夕食も食べさせてもらえると有り難いです。」
めっちゃ美味いからなぁ、コリーナさんのご飯。
「はいっ!お待ちしてますね!」
笑顔が眩しすぎる…。性格も良いし、マジで惚れそうだ。付き合ってくれないかな?
〜〜〜〜〜〜コリーナ視点〜〜〜〜〜〜
コウスケさんが一般的な人族と違って、とても優しく接して下さるので、人族が獣人の食事を毛嫌いする事を忘れていました。ですが、コウスケさんは嫌がるどころか毎日食べたいとまで言って下さいました。
獣人はどうしても無理な場合を除いて家族は必ず一緒に食事をします。毎日一緒にとる食事は家族の証みたいなものです。これはプロポーズして頂いたと思っても良いのですかね?
……いえいえ、コウスケさんは人族なので、獣人の風習は知らないでしょう。でも、流石に狩ってきた獲物を持って来てくれるような事があれば、結婚の申し込みと判断してもいいですよね!期待に胸が踊ります!
正直言って不安がありました。人族の多い地区で、娘と2人商売を営むのは…。そんなある日、人族の宿泊客がキャロととても親しくしているのを見かけました。驚いて近づくと、とても良いニオイがしました。コウスケさんからは私とキャロに対して好意的なニオイがするので、会ったばかりなのに段々と惹かれていってしまいました。
人見知り気味のキャロも懐いているので、出来れば父親になって貰えませんでしょうか?そうなれば、もちろんキャロだけでなく私も嬉しいです。
人族はニオイで判断出来ないので行動や言葉で好意を示すといいますし…、これからは頑張ってアピールしてみましょう!
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用意を済ませて宿をでる。コリーナさんが『いってらっしゃいませ。』と送り出してくれた。結婚するとこんな感じになるんだろうか…。妄想が止まらん!
役場に向かう前にユニオンに寄って予定を伝えておこう。いくら常備依頼しか受けないとは言っても、営業時間ギリギリに予告無しで報告に来ると、誰でもいい気分はしないだろう。大切だからね、報・連・相。
「おはようございます。」
「ああ、あんたかい。どうしたね?」
「今日も薬草採集をする予定です。午前中に図書館と役場に寄ってから行くので、依頼の報告は時間ギリギリになるかもしれない事を伝えておこうと思いまして。」
「そりゃまた丁寧な事で。」
「依頼を受ける日はなるべくユニオンに顔出す様にしますね。」
「そうしてくれると助かるよ。」
「それでは後ほど。」
「ああ、気を付けるんだよ。」
「確か役場は北のエリアだったな…。その近くに図書館があると…。ん?あれか?」
正面に民家とは完全に異なる趣の背の高い建物が見える。あれが恐らく役場だろう。とすると西側の役場から少し離れた場所にある大きい建物が、恐らく図書館だろう。先に役場に行くか。魔法は買う物だと副マスターが言っていたので、それ程時間はかからないだろう。
役場に入ると窓口が多くてごちゃごちゃしていた。案内板も無い。日本って本当に親切な国だったんだな…。
「こんにちは、生活魔法が欲しいのですが、どちらの窓口に行けば良いですか?」
「アッチだよ。」
指を差された方向を見ると5個ほど窓口がある。
「どの窓口ですかね?」
「………………。」
日本って本当に…以下略。
手前から1つ1つ窓口に行くと、1番奥の窓口が正解だった。1言『1番奥』って言ってくれれば直ぐだったのに…。
「すみません、生活魔法が欲しいのですが。」
「はーい、どの魔法ですか?」
「フレッシュとクリーン、あとウォーターを下さい。」
「合わせて9000ギルです。…はい、確かに。併せて身分証明書の提示をお願いします。あら、便利屋さんなんですね。ご一緒に基本魔法もいかがですか?」
なんかどっかのファーストフード店みたいだな…。
「いえ、今のところは必要ないので…。」
「わかりました、気が変わったら何時でもいらして下さい。こちらが生活魔法のスクロールになります。使い方はご存知ですか?」
「いえ、説明をお願いします。」
「わかりました。魔法を使う場合はスクロールの魔法陣に魔力を充填してください。全ての魔法陣に魔力が行き渡ると魔法が発動します。魔法陣が描かれている側から発動するので気を付けて下さいね。また、スクロールが汚れたり破損した場合は発動しなくなる事がありますので注意してください。破損したスクロールは潰して材料にするので、持って来ていただくと安価ではありますが買取もしています。」
「ありがとうございます、良くわかりました。」
役場を出て、改めて残金を確認する。銀貨が8枚と大銅貨が数枚…マジか!?図書館は時間と料金の確認だけにして、今日は1日なるべく稼ごう。
図書館と思われる建物の前に行くと開館中の看板が掛かっていた。
開館時間 9時〜16時
入館料金 1000ギル
たっか!思ったより高い…。本は貴重品らしいから仕方ないのか?まぁ、何れにせよ懐が寒いから、今日は無理だ。いきなり予定が狂ってしまったが、取り敢えず薬草採集に行こう。
物陰に隠れてアイテムボックスから出した装備一式を身につける。今日の午前中は図書館で本を読むつもりだったから装備はアイテムボックスに仕舞っておいた。革装備って蒸れるからね…。
「おう、コウスケ!今日も薬草採集か?」
門に近づくと、ラルバさんに声を掛けられた。どうやら休憩中らしい。
「はい、稼がないといけないので。」
「そうか、まぁ、そうだよな。そもそも出稼ぎに来たんだしな。」
そういえばそういう設定にしてたな…。
「ラルバさん、レベルに関して教えて欲しい事があるんですが。」
「レベル?レベルって位階の事だろう?何でまた?」
「レベルって10以上に上がらないんですかね?」
「まぁ、訓練すれば上がるけど、15以上に関しては分からんぞ。」
「15以上には上がらないんですか?」
「いや、そういう訳ではないんだか…。10までは放っておいても上がるし、訓練すれば誰でも15にはなれる。お前もさっきの話からして、年齢的にレベル10だろ?」
「そうですね。」
嘘です。7です。
「15以上は個人の素質によるんだよ。15から上がらないヤツもいるし、過去の記録では121という記録も残っている。まぁ、レベルは本人の申告だからな、それが正しいかどうかは分からない。」
「なるほど…。」
「かつて伝説の魔道具で、あらゆる物を調べる事ができる鑑定具という魔道具があったそうだ。人物についても調べる事ができたらしい。はっきり言って眉唾物だな。」
鑑定スキル持ってますとは言えない…。
「なるほど…ありがとうございます。」
「おう、気にすんな。コウスケもしっかり稼いで仕送り頑張れよ。」
「所帯は持ってないんですが、まぁ、頑張ります。」
「ん?お前まだ結婚してないのか?」
「はい。ラルバさんは?」
「勿論してるぞ。嫁と子供が3人いる。」
ウチの嫁は美人だし、子供はみんな可愛いとか言ってる。この世界はみんな結構顔面偏差値が高めである。そんな中で美人だとか…。ラルバさんはリア充認定だな。
「じゃあ、これをご家族に差し上げて下さい。乾パンといって、ウチの村の非常食ですが、そこそこ美味しいですよ。味見にお一つどうぞ。硬いので気を付けて下さいね。」
といっても食堂のパンほどでは無いが。
「ほう、こりゃ美味いな。ゴマの香りも良い。」
「はい、ウチの村ではおやつになる事もありましたから。」
ラルバさんに紙に包んだ乾パンを10枚手渡す。
「こんなに良いのか?」
「はい、いつもお世話になっていますから。」
「借りがあるのはコッチなんだがな…。」
苦笑いするラルバさんと別れて昨日の採集ポイントへ向かう。よし、しっかり稼ぐぞ!




