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異世界で再就職する羽目になったけど、潜水艦乗りは潰しが効かなくて困ってます。  作者: はんちょう
第2章 後悔先に立たずとは言うけれど、予想外にも程がある。
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第5話 経験豊富な部下は使い勝手が良いけど使われる方はかなり大変

 士官室に戻ると皆が報告を待っていたらしい。一斉に視線がこちらを向いた。


「戻りました。」

「ご苦労さん、外の様子はどうだった?」


そこだよね、やっぱり。外の様子がこれからの行動指針に直結するため、俺も逆の立場なら1番気になる。


「電話でも報告しましたが、外気は人体に影響無さそうです。周囲の様子は潜望鏡でも確認しておりましたが、恐らく森の中と見て間違い無いかと考えます。また、動物に関しては確認できておりませんが、植生に関しては日本の山地に酷似している様に思われます。ただ…、見渡す範囲に人の手が入った様子は見られなかったのですが…。」


 コレ言って良いのかな?田舎育ちの俺にとっては不自然ではあるが、あくまで個人的な感想だ。


『間違っているかもしれないし、変な先入観を与えない方が良いのでは?』


と思わなくもないが、何かあってからでは遅いので一応報告する事にした。言い方を変えれば上官に判断を丸投げしたとも言う。


「ただ、何だ?」

「全く人の手が入っていない森と考えるには草木の密度が不自然に薄いのです。」

「ん?それはどういうことだ?」

「藪漕ぎの必要が無いほど下草が生えておりません。木々の間隔も開いており、森と言うより林に近い間隔です。その割に植林をしている様な様子もありません。それが見える範囲では延々と広がっております。」

「うーむ……。」


艦長は俺の報告を受けて考え込んでいる。他の人間は誰も発言をしない。

何人かは状況を掴みかねているのだろう、


『何かおかしいトコあるの?』


って目で見てくるし。いや、俺もおかしいなと思うだけで、断言は出来ないんだけどさ…。


「要するに、山林の管理をするために植林等をしていれば近くに人が住んでいる可能性があるが、管理をしている様子は見当たらない。しかし、全く人の手が入って無いにしては草木の密度が薄すぎると…。状況は全く掴めないが、不自然な点が見られると言うことか。」

「はい、そうです。」

「動物の足跡等はあったか?」

「パッと見た所では見当たりませんでしたが、余り詳しく見ておりませんでしたので分かりません。それにイノシシやシカ程度なら足跡や痕跡を見た事があるので分かりますが、他の動物となると…。」

「そうか、それなら仕方ないな。他に考えられる事としては…、植生か?」

「どういった植物であるかは不明ですが、見た目では概ね日本と変わりがないように思われます。」

「同様の植生であれば不自然ということか。」

「正直いって違和感が凄いです。警戒するに越したことは無いかと。」


あんまり考えたくないけど、何らかの生物が常に彷徨いている可能性が…。しかも下草が薄くなるほどの密度で。

そういえば、小学生の頃に森中に蠢く虫っぽい生物に襲われるパニック映画を見て、子供心に恐れおののいた記憶がある。暫くは、


『やべー、森ヤバすぎ!』


って言って近づかないようにしていた。あの映画のタイトル何だったかな?もう忘れたわ…。

まぁ、今回は何処かも分からん森の中に既にいる訳なんだが。


 兎にも角にも情報が不足している。直ぐに行動に移さないと駄目な状況にも関わらず判断しあぐねているのも、結局は情報が無いって事に尽きる。

 ネット小説で転移するやつらは本当にスゲーな。事前情報持ってる奴も居るみたいだが、どんな世界で自分が何処に居るのか分からんのに歩き回れるとか、とても正気の沙汰とは思えない。


何とも言えない空気の中、


「艦長、周囲の探索を行うしか無さそうですね。分隊を編成して探索に当たらせたいと考えます。」

「副長……、それしか無いか。そうだな、我々には時間がない。

探索のために分隊を編成する!編成については指揮官及び補佐が水雷長と機関士、分隊員については1分隊から編成せよ。分隊員の人数は3名とする。無線機を忘れるな。銃器の携行については9mm拳銃及び64式小銃の携行を許可する。第1目標は周囲の安全確認、第2目標は水源の確保、第3目標は人の痕跡の発見とする。また、異状があれば捜索を中止し直ちに帰艦せよ。」

「「了解」」


 マジかぁ……まぁ、そうだよな。外気の確認の際も思ったけど、先任サムライってそこそこ経験積んでるから使い勝手が良いんだよなぁ。おまけにA幹だから年齢的にも若いし、比較的体力あるし。

 また俺?と思わなくもないけど、消去法で選抜されるのは仕方が無い。寧ろ、上に水雷長付けてくれただけでもマシだろう。


 選ばれた理由は分かっちゃいるけど、


『何だかなぁ…。』


と若干どんよりしながら準備に向かっていると、水雷長が話しかけてきた。


「よっ、機関士、2連チャンお疲れ!」

「ホントですよ、水雷長。これって頼りにされてるって思っても良いんですかねぇ…。」

「使い勝手が良いだけかもな!」

「有り得ますねぇ…。」


水雷長は階級こそ上だが、現役で防衛大学校に入学して留年する事なく卒業しているので、就職浪人した上に海士で入隊して幹部候補生の試験を受けた俺より年齢が下である。本来であれば、年齢は関係なく階級が全てではあるが、歳が近くて階級もあまり離れていない事に加え、気が合う事もあってか現在では何だかんだと気安い仲で落ち着いている。


「水雷長は拳銃ですよね?自信あります?」

「いいや、全く。そもそも年に1回、9発しか撃たないのに自信もクソもないだろ?」

「ですよねぇ…。私は兵隊上がりなんで64式には少し自信があるんですが、伏せ撃ち限定なので…。立ち撃ちとかやった事もないですよ。」

「まぁ、そこは1分隊に期待だな。」


海上自衛隊の第1分隊は別名【攻撃分隊】とも言われ、銃火器の扱いに関しては整備や訓練において他の分隊よりも扱う機会が多く、取扱いに慣れている。

そして潜水艦においては第1分隊は水雷長の所掌である。


「いくら1分隊っていっても、何時も扱ってるわけではないですから…。動いている目標に当てれますかね?」

「まぁ、64式なら急所でなくても掠れば仕留めれるだろ。」


64式小銃で土嚢を撃つと1メートル以上貫通するらしい。射撃訓練では的の後ろの分厚いコンクリートが砕けて、小型の破片が弾け飛んでいるのが見える。あれだけの威力を誇る小銃なら大丈夫か。はっきり言って人間同士の現代戦想定なら完全にオーバーキルだし。戦前からの思想を受け継いでいるのかどうかは知らないが、海上自衛隊にはオーバーキルな兵器が意外に多い。


「そういや機関士は拳銃の成績もそこそこ良かっただろ?」

「そうですが、小銃と拳銃じゃあ狙える距離が段違いですから…。取り回しは拳銃が便利ですけど、拳銃で狙える距離で落ち着いて撃てるか自信ないですよ。」

「俺も自信ないわ。」

「もっと小銃があれば良かったんですけどね。」

「水上艦艇はそこそこの数積んでるからな。まぁ、結局ある物と現在の人員で何とかするしかないな。」


身も蓋もない言い方だが、全くもって水雷長の言う通りである。


「では武器と人員は水雷長にお願いします。私は念の為に乾パンとか水を用意しときます。」

「おう、ところで機関士は拳銃にするか?」

「一応幹部なんで拳銃と言いたい所なんですが…、使い慣れてる武器は64式なんで、出来ればそちらが良いですね。」


まだ2等海士だった時、武器の扱いを仕込んでくれた教官が特警(特別警備隊:海上自衛隊の特殊部隊)の隊員だったことから、64式小銃を用いた格闘戦技術も仕込まれた。普通の教育隊の教育訓練ではやらないらしいが、興味があったので教えて欲しいと頼んだら徹底的に仕込まれた。自分で言い出した手前やっぱ止めたいとは言えなかったが、当時は、


『イヤイヤ、待って!ボコスカにされてんですけど!どう考えてもやり過ぎじゃね!?』


と思ったこともあった。この状況となっては感謝しかない。


「数に限りがあるから優先は出来ないけど、まぁ、余るようなら用意しとくよ。」

「十分です、ありがとうございます。」


拳銃じゃあ格闘戦は出来ないからな。余ってると良いんだが…。

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