第3話 『口は災のもと』と言うけれど、大体は考え無しに発言するのが原因
これだけの大事を機関長が把握していないのはマズい。緊急性が優先される場合もあるけど、直ぐ様沈没するような喫緊の事態ではない限りは先に機関長に報告するのが筋だ。
まぁ、これ程の事態であれば、艦長への報告の際は同行して貰ったほうが良いから機関長への報告を後に回すという選択肢はどう転んでもない。
機関長を探して後部に移動していると、第4防水区画である機械室にいた。燃料が流出したであろうことを予測して対処方法を検討していたらしい。流石は科長、自分みたいな補佐とは出来が違いますね。経験の差か?
「機関長、少し宜しいですか?」
「正直宜しくはないが、重要な話なんだろ?」
普段ヘラヘラしてることの多い自分の顔が強張っていたことから良くない話だと推測したようだ。
「至急艦長に報告すべき事態が判明しました。………電気についてです。」
「……分かった、人の居ない所で聞こう。
機械長!すまんが離れるので、後を頼む!」
「了解!」
艦長室に向かう前に機関長と情報の擦り合わせを行うため、第三士官寝室に籠もる。三段ベッドなので機関長以外にも実習士官が同じ部屋だが、まだ聞かせる話ではないので一時的に第4士官寝室に追い出した。
ちなみに、おやしお型潜水艦の艦長室は普通のベッド、副長と司令の入る第1士官寝室は二段ベッドその他の士官寝室は三段ベッドである。司令の方が上位者なのに二段ベッドなの?という疑問もあるかもしれないが、【艦長こそ艦内の最高責任者】という潜水艦ならではの文化である。
「で、機関士。悪いのか?」
「控えめに言っても、状況はかなり悪いです。」
入口のドアは閉めたものの、第2、第4士官寝室との壁は有って無いようなものなので、かなりの小声で電池の残量や電気がいつ迄もつかの予測について電機員長と話し合った内容を説明する。
「……かなりマズイな。正直充電が出来る見込みは立っていない。恐らく現状では不可能だろう…。」
「自分も同意見です。艦内環境が最低限維持出来ているうちに、生活環境を整える必要があります。」
「艦外の確認か?」
「はい。少なくとも外に出られなければ詰みます。かといって安直に外に出るには情報が足らなさ過ぎます。」
「だな、外部環境が人間に適しているかどうかすら分からんからな…。」
「艦長に報告ののち、幹部とCPOを士官室に集合して対策を協議するべきかと考えます。これは今すぐに行うべき事と考えます。」
「電機員長の話だと、電池もいつ駄目になるか判らないのだったな。
分かった、艦長、副長に上申して早急に対処を協議しよう。」
すぐに対処を協議すべく、士官室に幹部とCPOが召集された。当然の事ながら士官室内は締め切られ、立入禁止とされている。
副長から潜望鏡で見た外部の状況が説明され、機械員長と電機員長から大まかな艦の現状と燃料及び電池の状況が説明された。
他にも通信員長から、司令部への呼びかけに反応は無く、衛星が機能している様子も無いという報告もなされた。
「先ずは早急に外部環境の確認をしなければならない。少なくとも艦内に留まり続けることは不可能だ。」
「先ずは艦外部の空気の調査ですね。機関士!科員を1人選抜して艦外の空気を確認しろ。」
「了解しました。」
俺かー。まぁ、順当といえば順当なんだけどねぇ…。科長は科員を纏めないと駄目だし、俺が先任士だし。
船務士はまだ経験浅いからなぁ…。
実習士官は論外…。
うん、俺しか居ないわ。
『艦外の確認はガス検知の要領でやるしかないよなぁ…。でも艦内に搭載してるガス検知器で判別出来ないガスはどうするか…。やっぱ体張るしかないよなぁ…』
とか考えてると、船務士がなんか上申し始めた。
「あの…。艦長、1つよろしいですか?」
「なんだ?こんな状況だ、気になる事は何でも言え。」
「了解しました。ハッチの開放の際には潜望鏡等で外部の見張りをするべきかと考えます。」
「何故だ?此処は陸上で森の中だぞ。ハッチ周りの確認をする必要があるとは思えんが…。」
ハッチ周りの確認はハッチ周辺に人がいる場合、開ける側と周辺にいる側の双方に危険が無い様に行うのを基本としている。周囲に人が居ない森の中では必要性は無い。
「艦長、私は小説を良く読むのですが…」
ああ、なる程。船務士の言いたい事が解った。異世界転移だって言いたいんだろ。俺も最近は忙しくて読んでいなかったが、ネット小説でそんな内容が流行っていた覚えがある。
そういえば船務士はネット小説に嵌っていたな…。だがそれは完全に悪手だぞ。
「地球とは違う世界、所謂ところの異世界に転移してしまったのではないでしょうか?そういう世界には人類に対し敵対的な生物が跋扈していると言うのがお決まりのパターンですので、警戒するに越した事はないかと考えます。」
「船務士!!!確証もなく非現実的なことを言って不安を助長するな!!!」
副長にめっちゃ怒鳴られてるし。
まぁ、気持ちは分かるよ。太平洋のど真ん中から気が付いたら森の中なんだから。おまけに普通の船なら兎も角、通常動力潜水艦としては世界最大を誇る日本の潜水艦がどっかの島に打ち上げられて森の中まで押し流されたとか先ず考えられない。人知を超えた事態が発生したと考えるのが普通だ。
更にいえば、外に出る俺らのこと心配してくれたんだろ。有り難いけど、指揮官たる幹部がそんな確証も無いのに適当な発言して、おまけに対処法が無いとすれば部下が混乱するだけだろうに…。せめて危険な野生動物が居るかもしれないって理由にしとけば副長も怒らなかったと思うぞ。
ファンタジー生物の可能性は後で個人的にコッソリ話してくれれば良いからさ。
他人事のような感じで考え事をしてたが、副長はまだギャンギャン怒鳴っている。なんかよりヒートアップしてる気がするんだが…。
流石にもう止めて話を進めてほしいなぁ〜とか思ってたら、艦長からストップが掛かった。
「副長、止めろ。」
「しかし、艦長…。」
「今は部下指導をしている余裕は無い。早急に外部の確認をしなければならない。
船務士、外部の見張りについては採用する。潜望鏡にて見張りを行え。だが、妙な生物を見かけてもクマだとかイノシシだとか危険性の高い野生動物名で報告しろ。
機関士は先の指示した通りに準備でき次第行え。
発令所からの指示は副長…、いや、先任士官にするか。機関長、ハッチ開閉の管制については一任する。」
「「「了解」」」
それぞれ配置に向かう。取り敢えず、船務士をフォローしておこう。まぁ、船務士はメンタル強い子だからフォロー要らんかもしれないけど。
「おー、船務士。注意喚起ありがとな!でもまぁ、やっちまったなぁ…。」
「いやいや、機関士。普通異世界転移だって思いません?」
「お前…そもそも異世界転移とか普通じゃないから…。普通とか言っちゃってる時点でネット小説に毒され過ぎだろ。」
「でも機関士も正直考えましたよね?」
「いやぁ…、まぁ…、そりゃあ考えたよ?俺もネット小説読んでたし。でも会議で言うか?チャレンジャー過ぎだろ。」
「ですよねぇ…、今思えばやっちまったなとは思うんですが、つい…。」
後で副長にシバかれますかね?とか呟いている。
「まぁ、あの場では他に対する示しがあるから怒っただけだろ。実際艦長が止めてたし。それより俺が外出るときの警戒しっかり頼んだぞ。外出た瞬間、目の前にオークとか居たら漏らすかもしれんし。」
「ですねー、自分も漏らさない自信が無いですよ。どうします?艦長に許可貰って拳銃くらいは携帯しときますか?」
「いや、止めとくよ。オークに拳銃が効くかも分かんないし、そもそも船務士がしっかり見張りしとけば問題無いしな。水圧に耐える艦外ハッチをブチ抜く様なモンスターが出てきたら素直に諦めるわ。」
「ははは、そりゃあ無理ですね。艦もバラバラにされますよ。」
「まぁ、精々そうならない様に祈っとくわ。それじゃあよろしくな。」
「了解です、お気をつけて。」




