第9話 職種がニッチすぎて、転職の仕方が分からない。
仕事に慣れないうちは只々必死に仕事を熟し、1年経つと全く違う配置に就いてまた1から仕事を覚えていく。
「やっと覚えたのにまた最初からかよ…。」
と、愚痴りながらも、仕事の進め方なんかは上官を見てると勝手に覚えていくし、根本的にはどの配置も仕事の進め方に大きな違いはないため、色々仕事に慣れてくると周りを見る余裕が出てくる。
すると、ある事実に気が付く、気が付いてしまう。
「いくら民間企業が厳しいと言ってもココまで厳しいのは稀では?」
と。
時給換算すれば夜のコンビニバイトと同じくらいかちょっとだけ高いくらいで超長時間労働。残業という物は存在しないという建前で、徹夜で仕事しても残業時間はゼロ。残業が存在しないから当然手当はつかない。当直勤務をしても休日はカレンダー次第で、当直明けが平日なら当然ながら通常勤務だし、当直勤務に追われて通常の業務が滞ると、よっぽど効率的に仕事を進めない限り休日出勤はデフォになる。
1度出港すると出港中は当然ながら拘束され、ひと度事案が発生すると24時間営業も珍しくない。
連勤日数は、出港日数+報告書完成までの日数+出港中に溜まった雑務を切りの良い所まで片付けるまでの所要日数だ。下手したら次の出港まで休みなく働く羽目になることもある。それでも給料は基本給に乗組手当を加算して茶を濁してお終い。
それでも実情は知られてないから、度々給料が高すぎるということで、乗組手当の減額が議論に登る。24時間拘束されて給料1.45倍なら安く使えてお得だと思うんだが。
水上艦なんて1.33倍だよ?
「乗組手当いらないから陸上勤務に回して欲しい。」
と陳情にくる部下もチラホラ。
オイオイ!自衛隊は給料じゃないゾ!働き甲斐が全てだゾ!(棒)
労働組合も無いから、只々上の方が仰るがまま。反論すら許されない。まぁ、武力を持つ組織が団結して抵抗なんてしたら大問題だから、労働組合がないのは理解できるが、もうちょっと優しくしてくれてもバチは当たらないと思うんだが…。
更に言えば、某大震災の後、数年間に渡り復興支援費という名目で数%給料天引されていた。階級によっては10%近くにもなる。政治家先生が俸給の一部を復興支援費として返上するってのは、ご自由にどうぞという感じだが、特別職国家公務員だからといって自衛官からも返上させるってのはどうなの?復興税は別枠で払ってんだよ?
毎月給料から結構な額が天引きされてるから、
「なんのお金ですか、これ?」
って質問したら、経理の人が教えてくれたよ。仕送りやローン払わないといけないんだが、ちょっと厳しすぎやしないですかね…。まぁ、最悪外出しなければ餓死だけはしないけれど…。
国民の皆さんは、
「自衛官は給料貰い過ぎだから、徴収して当然」
と感じでいるんでしょうか?
何年かおきに、
「自衛官は手当を貰いすぎだから減らしましょう。」
って話が上がるんですけど、そもそも時間外労働込みの手当てなんですけど…。
「安定してるから良いじゃん!」
っていう人もいますが、それは自分が納得する為の理由であって、人に説得される為の理由ではないと思う…。余り自衛官をイジメないで欲しい。
しっかり働いて給料に見合う仕事をして、しっかり税金を納めていると自負していたんですが…。
他の公務員の皆さんも天引きされてたんですかね?
最近、書籍で
「自衛官はトイレットペーパーを自腹で買う」
なんて本が出てましたが、トイレットペーパーだけで無く、足りない物は大体自腹で買ってました。先輩からは、
「仕事に必要な物を買うお金も給料に含まれている。」
なんて言われて仕事道具の一部を買い揃えたりしてました。
流石に幹部になると支給してくれましたが、それでも税金を使っているので支給には面倒な手続きが必要であり、直ぐに入用な場合は自腹で買ってました。
ましてや経費で落とすなんて面倒過ぎてレシート無かったことにしてました。
領収書貰ってきて、
「経費でお願いしま〜す。」
とか、最早憧れるレベルですよ。1度やってみたいわ。
そんな感じで虐められ続けると、
「転職しよっかなぁ…。」
っていう気分になるけれど、既に年齢は30手前。転職しようにも、
「体力には自信があります!」
とか、
「やる気だけは負けません!」
とか、挙げ句、
「潜水艦を操艦出来ます!」
とか、誰が雇うんだよと。アルバイトなら兎も角、正社員となると厳しいと言わざるを得ない。メキシコの麻薬組織なら雇ってくれそうではあるが…。
色々な人に相談してみても、
「せっかく国家公務員になれたのに、勿体ない!」
とか、
「安定した職場なのに、贅沢だよ!」
と。此方からしてみれば、
「残業数時間やらされてさ〜」
「この前休日出勤させられてさ〜」
ってな感じで自分らと給料変わらんとかマジで羨まし過ぎる…。
しかし、勿体ないとか贅沢とか言われ続けていると、不思議なもので、
「やっぱ贅沢なのかな?」
という気分になって来る。
「上には上が居るのと同様に下には下がいる。」
という友人の言葉に、ナルホド納得してしまった。
「やっぱこのまま頑張るしかないのかなぁ…。」
と思いつつ、派米訓練に向け出港した数日後、事態は急展開する。




