プロローグ
著者逃亡につき、記録者交代。以降よりMark Ⅱ が物語進行を務めます。
彼女は洞窟の中で目を覚ました。
目蓋をこすって起き上がり、大きく伸びをする。洞窟の入り口から月の光が射し込んで、淡く内部を照らしていた。
時間は…
体内時計は、5時を示していた。
……
目が覚めてしまった。
普段なら寝ている時間帯。
だから、彼女は気分転換に外へ出た。
息を大きく吸って、吐いた。
洞窟の中の閉塞感は吸い込まれるように無くなって、彼女は広い空の下に出る。
夜明け前の空は、ある種蒼然としていて、地平線へ降りていくに従い赤みを帯びていた。
彼女はしばし見とれるように空を仰ぐ。彼女はある物を思い出していた。
……カクテルだ!
それは、うんと小さい頃の記憶。父が好んで飲んでいたカクテル。そのコントラストにそっくりだった。
父。包み込むような手。暖かな笑顔と眼差し。
また父に会いたいと思った。
この旅を続ければきっと会えると思う。
彼女は待ちきれぬ期待を発散するように踊り出す。昔習った正統聖派の舞。亡国王家にて伝承された神秘の極致。踏み足は一定のリズムを刻み、調和のある踊りはやがて大地と一体になっていく。
カクテル色の空を一条の流れ星が落ちた。
だが、彼女は気づかず踊り続ける。
そして、日が昇っていく。
さぁ、夜あけだ。
どうか彼女に幸あらんことを。
次をお楽しみに