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聴雨譚  作者: 木逸昼寝
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雨腐

 

 雨で少し体に張り付いたような服を脱ぎ捨て口があけっぱなしの洗濯機へと放り込み、乱雑に服の詰め込まれたクローゼットから肌触りのよい無地の長袖Tシャツ素肌に着替え、下には黒いゆったりとしたカーゴパンツを取り出す。せっけんのかおりが身体をおおい、ひんやりと乾いた生地が心地よい。


湿り気は有機的に時間とともにすべてを腐らせる。この服も、肌も、肉も世界もすべて。


 キッチンへと足を運び、学生時代から愛用している小さなやかんに水をつぎ、火にかける。火は悪くない、この湿り気をすべて取り除き蒸発させ、、あっという間この身をからから干上がらせたと思いきや、燃し、やがて灰へと帰させるであろう。このうっとおしい湿った世界もあっという間に灰に変わる。ぼんやりとやかんにかかる火を見つめながら取り留めなくそんなことを考えながら先ほど届いた手紙の文面を思い出す。


雨はまだ降っている。いつの雨のことだろう、雨はどこで降っていたのだろう。


 母や友人とのやり取りもすっかりメールやラインで済ませるようになって久しい。住所も最近では事務手続きに要するのみ、友人との惰性で行われていた年賀状のやり取りもほぼここ数年は減ってしまった。

 メールならいざ知らず、手紙とは今ではすっかり手の込んだ作業、そこには必要以上の気遣いや思いを重ねたしろものだよな、そう思いながら色ばかり出て味も香りも薄い紅茶のティーパックをマグカップに放り込み、たっぷりと湯を注ぎ、立ち上る湯気に顔を当てながらソファに沈み込む。


 ふ、とスマートフォンを取り出し、地図アプリで送り主の住所の県、区、地域名まで打ち込んでみるものの該当する住所はない。検索アプリで名前を入れてみるが姓名判断占いのサイトであろうか、似たような名前が連なったサイトが引っかかるぐらい、特定の誰かに当たることもなし。

 なんだろう、やはり手の込んだいたずらか。




 



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