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聴雨譚  作者: 木逸昼寝
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村雨

 自分の素性を明らかにしているSNSでは公開している情報などたかが知れているかもしれない。もしくは、いわゆるカギをかけて不特定多数に公開することを避けている場合などは悪意あるユーザーがつながりのあるアカウントに名を連ねていない限りにおいては情報を公にしていないも同然ではある。だが、葉子は他人からの悪意に不用心であるのか、就職先から個人的な旅行先の写真、友人との戯れ、恋人との記念日、結婚、出産、子育てまで断続的な人生のかけらを点々とネット上に載せていた。


 そんな風におのれの生活を見せびらかすというほどの自意識が働くでもなく、ただ周囲の人間に近況報告という銘文で人生を垂れ流す女たちの多いこと。かおりは葉子だけではなく、卒業以来会うこともなくなった地元に住み続けている同級生たちや、上京後に知り合い、なんらかの形で心に残った人々の歩みを時折覗きこみ、そしてなんら感想もないままにページを駆け抜ける。アイコンに使われている写真は大抵 結婚式でウェディングドレスを身にまとい笑みを浮かべた写真、壁紙は旅行先の青い海、そして時期現れるかわいくもない彼女、もしくはその夫たちにそっくりな子供たちの顔。


 かおりはそれをぼんやり眺め、閉じる。


傘に当たる雨はだいぶ小さく、傘を差さずに小走りをしながら駅へ向かうものともすれ違う。ああ、うっとおしい雨、未練がましく降り続けている。


 駅近くにあるスーパーは少し値が張ると思い直し、来た道を戻りながらもうすぐ生理がやってくることを思い出す。今朝から体が重く、腹痛や頭痛がするのも雨だけのせいではない。ああ、ナプキンも買い足さなきゃ。使う予定のない子宮は無駄に卵子を垂れ流す。命のかけらがながれていく。すべてが面倒なこの世界に生まれることを免れた命のかけらたち。

 

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