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聴雨譚  作者: 木逸昼寝
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雨中

 もうすぐやむか、それとも小雨になった今のうちに買い出しにでも出るか。。。大学へと進学にあたって上京し、通学に便利なうえに家賃の相場もそう高くはない沿線のこの街に住み始め、かおりはすっかり居ついてしまった。

 必要以上に人の目を気にする母の住む地元の地域とは異なる、お互いが無関心である都会の居心地よさにあまりになじみ過ぎてしまい、近所のスーパーなどへ出かける折には室内着のまま、化粧を施すこともなく足を運んでしまう。少し首回りが伸びてだらしのないロゴ入りの白いロングTシャツに グレーのタイトなパンツ姿の自分が姿見にちらりと映るが、ボブであったはずが仕事をやめてしまってすっかり足が遠のいた美容院に足をはこばず、伸びきってしまい収集のつかないぼさぼさの髪の毛をひとまとめにすることぐらいしか手もださない。


 付き合っている人でもいたら、まあ違うんだけれどね。どうせ私のことなんか誰も見ちゃいない。誰も振り返りもしない。ぼんやりそんなことを考えながら素早く薄手のレインコートだけ羽織、靴だなの長靴に手をかける。


 湿度とまだ夏の名残の熱気を含んだ空気がマンションのエントランスをあけるとむっと迫ってくる。


 やはりサイズがあわないのか、長靴の性質上それで当然であるのか足を地につけるたびに靴のなかで泳いでしまい、またゴム底が地面に接触するたびにきゅっきゅっと音を鳴らしつづけるのは不快である。雨に濡れて黒く光るコンクリートの道に妙に浮かび上がった明るすぎるカーキ色はやはり気に入らない。無難な濃紺でよかったのに、本当にどうかしてる と ビニール傘を振り回す。


 ああ、銀行によらなくては、と 駅方向へ足をむける。この街は単身生活者が多く、駅周辺の商店街には放射状に飲み屋が連なり、平日の夕刻には学生や仕事帰りのサラリーマンが楽し気に街を占拠しはじめる。

 しかし、まだ昼下がり、さっきまでの土砂降りで人気もすくない街は昨晩の汚れなどきれいさっぱり洗われて、灰色に染まっている。



 



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