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聴雨譚  作者: 木逸昼寝
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ゆらぎの隙間に


  今年は50年に一度の大豪雨 と ここ最近毎年お決まりのようになったフレーズがつけっぱなしの昼のニュース番組から流れてきているので ふと窓外に目を向ける。夏もだいぶ過ぎ去り、ようやく陽が柔らかさを取り戻したと思った矢先の9月中旬、うんざりするほど降り続ける雨 雨 雨。


 ゲリラだかなんだか知らないが、突如降りはじめ、バケツをひっくり返したと使い古されたような表現が本当にぴったりな雨を見つめながら江崎かおりは外出の予定がない今日に少し安心をする。

水分をたっぷり含んだ布地が身体にまとわりついてくることはなにより不快だ。傘を差したってこんな横殴りの雨では全身ずぶぬれに違いない。きゅっきゅっとおかしな音が鳴り、足にあまりなじまないレインブーツだって できることならはきたくはない。どうして明るいカーキなんて選んでしまったのかと、おそらくは靴だなの下の段で鎮座しているだろう姿を思い出し、自分で選んだにもかかわらず残念な気持ちになる。


 いつもそうだ。自分で選び、この行動の責任は最後までもとう、なんとかなる などと意気揚々と決めたことだって、少し時間がたてばすぐにその決断は色あせる。後悔、とまではいかないにせよ これでよかったのか、もっといい選択肢があったのでは、とくよくよ悩み始め、そのまま少し憂鬱な気分でずるずるとその現状を維持していく繰り返し。


 今日のこの雨天、何も予定がないということだってさほど喜ばしいことではない。都内のカトリック系の中堅私立大学を卒業したのち、5年ほど我慢を重ねてつづけた仕事に見切りをつけ、転職先などを決めてしまう前に思い切って辞めてしまった3か月前の自分の決断を喜ばしいこととして未だ受け入れていないではないか。一人暮らしの手狭なワンルームマンション、時折ふいに窒息でもしてしまいそうな、小さな水槽に押し込められるような息苦しさにたまらず、大声をあげ叫びだしたい気持ちにならないではないが、隣人に不審に思われたり、管理会社、よしんば警察にでも通報されたらと思うとそうもいかない。ただただここは都会の真ん中の世界の果て、この叫び声は外に出ることも許されず、むねの内で沈んでいく。


 

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