景色
マクシミリアン、筆頭秘書のグレッグ、ミランダ、遥が酷暑の中、最も大きいステージを注視する。
ここは千葉の幕張メッセ、サマーショックというロックフェス会場。
音楽好きの若者の祭典である。
日本でこのフェス主催者から出演依頼がくれば売れっ子ミュージシャンという御墨付きを貰ったようなものだ。
「暑う御座いますね、伯爵様」
グレッグはもう70代半ば過ぎ、多くのオーディエンスの熱気に気圧されている。
「うむ、グレッグよ体調はどうか、無理するでないぞ」
「有り難きお言葉、お気遣い感謝致します」
屈強なボディーガードに囲まれるコーデル社重役の4人。
私設軍事組織 銀翼の鷹の300人の兵士は全員2mに届く身長に無駄のない筋肉を纏いお揃いの黒の防刀シャツで護衛する。
それでも5万人が集うこの場所に置いてはギリギリの護衛人数。
「とうとう見られるんじゃな、アイアンメイド」
「いまどきメタルで勝負するとは嬉しくて涙が出そうじゃ」
「ああ、メタルの最後の希望じゃ、長生きはするもんじゃのう」
「しかしのう、まさかあんな可愛い娘さんがメタルをやってくれるなんて夢のようじゃのう」
「ワシも最初はアタマのおかしい連中じゃと思っとったんじゃが、最高じゃの」
「そうじゃのー、メイドのカッコしよってメタルをバカにしとるんかいと思っとったんじゃが、衝撃的でぶっ飛んだわい」
「ワシもそうじゃ、とうとうここまでメタルは墜ちちまったんかとガックリきとったがのう」
「世界最強のバンドサウンドじゃ、ありゃ燃えるでのう」
「わしゃあ、アメリカまでライブにいったんじゃが、ドラマーの何といった名前が出てこんが、あんなん可愛らしい娘さんがツーバスで凄い音圧を響かせたのにはビックリしたわい」
どうやら護衛は問題なさそうである。
会場に集まったのは見渡す限り40代後半から60代後半のオジサンばかりなのだ。
ヘビーメタル全盛期を駆け抜けた熱い親父さんが全国から集まったのだ。
5万人も。
遥は自分の知っている人物がスターの階段を駆け上がって行く様子に目を輝かせていた。
あくまでヘビーメタルのジャンルの中でだが。
マクシミリアン、グレッグ、ミランダはアクセルが不憫に思え複雑な表情である。
ステージにスポットライトの光が集まる。
アイアンメイドがいきなり大ヒット曲 hell year!をカマス。
怒号のような叫びが会場に木霊する。
オーディエンスが腕を掲げ、ヘッドバンキング。
クラウドサーフが始まりみんなに担ぎ上げられた親父さんが涙を流しながらステージ前へ運ばれる。
何人かはかつぎ上げる人達の体力不足で途中で地面に落ちる。
だが流石はメタルジジイである、落ちた人に手を差し伸べまた担ぎ上げる。
マクシミリアンは感動していた。
何がいいのか分からなかったが感動したのだ。
グレッグも呆けながらも聞こえてくるサウンドと会場の熱気に興奮している。
ミランダはステージにいるメンバーにちょっと嫉妬している、自分もアソコに立てたのにと。
遥はギターを奏でるレナを見て、もうお嫁さんにはなってくれそうも無いほど遠くにいってしまったと思う。
ステージは最高潮の興奮を作り出しあちらこちらでサークルモッシュが始まり、タオルが振り回される。
「じゃあ、最後の曲だ!ウォール オブ デスの用意はいいかテメーら!」
ボーカルのサラがオーディエンスを煽り倒す。
1時間半のステージでみんなヨレヨレである。
それでももう、生きてアイアンメイドを観られないと想うと最後の気力を振り絞る。
観客が左右に分かれる。
人と人の波がモーゼの十戒の一シーンのような景色を作り出す。
「いくぞ!go to hell!」
地鳴りのようなイントロと同時に左右に分かれた人波が一気に中央に押し寄せる。
『この感動はなんだ!』
マクシミリアンは繰り広げられる壮大で平和な景色を見ながら、これを作り出す世界が心底羨ましいと思った。




