手遅れ
ミランダは日本支社長で本当に良かったとホッと胸を撫で下ろした。
アノコタチハ一体何をしているのかと・・・。
「ミランダさん、これを見てもらえますか」
経営幹部会議が終わりミランダと遥だけになった時の話だった。
遥がミランダに持っていたスマホで動画を再生する。
「凄い再生回数ですね」
「・・・」
「知ってたんですか」
「困りましたね」
「サイン貰ってきてもらえますか。確か今月末に本社に行くんですよね」
「え・・・」
「ダメですか、高校の友達が一目見てファンになっちゃって、僕に動画見せてきたんで『あれ、何でレナさんが』って言ったら凄いことになっちゃいまして」
「レナさん、こんな事もう出来ない、もう無理!」
従者のアクセルが俯きながら泣いている。
マクシミリアンと共に転移してきたとき金銀財宝が載った荷車を引いていた少年。
レナが趣味でバンド活動を始めて1年、楽器の演奏技術を向上させ、作詞作曲を積み重ね、ネットに演奏動画を上げたり、休みの日には地元のライブハウスで戦っていた。
5人のバンドは次第に人気になりラジオで取り上げられるようになっていった。
そして今、メンバー脱退の危機。
「ダメよ、いまさらメンバーチェンジなんて出来ない。このメンバーだからやってこれたのよ」
メイドのカトレアが弟のアクセルの肩をグッと掴む。
「アクセル、お姉ちゃんはあんたがそんな弱い子だとは思ってないから」
メイドのレミイヤが弟であるアクセルの頭を撫でる。
「アクセル、お姉ちゃんはそんな弱い弟に育てた覚えはないわ」
メイドのサラが弟であるアクセルの前に腕を組んで仁王立ちする。
「アクセル、このバンドはアイアンメイド、メイドのバンドなの。しかたないでしょ」
この問題を作った張本人のレナがアクセルの手を握って見つめる。
彼女を紹介する約束で打楽器が得意なアクセルにちょっとしたjokeだから、1回こっきりだからとメイドの服装でドラムを担当させ、ミュージックビデオを作り動画サイトに上げたところいきなりの大ヒット。
世界中にファンが生まれた、男の・・・。
ドラムが男だという説明がなかったため引っ込みがつかなくなったのだ。
キッと目を見開きレナと姉3人を見つめるアクセル。
アクセルはガッと立ち上がると着ていたメイド服を脱ぎ床に叩きつけた!
泣きながら楽屋から飛び出すアクセル。
従者仲間の同情が辛かった。
インタビュアーがアクセルが男だと知って驚愕の表情をし、レナの言い訳を聞いたあとの同情の視線が辛かった。しかもそこはカットしろと事務所が圧力をかけてしまった。
ファンがライブで掲げるボードを見たとき死にたくなった。
マクシミリアン伯爵が可哀想な者を見る顔をしながら肩をポンポンしてくれたときは泣きそうだった。
「レナ・・・」
「心配しないで、彼を必ず説得する。このメタルバンドの火は決して消させない」
ミランダが日本支社長になっていなかったら起こらなかった悲劇であった。




